▲フォルクスワーゲン ゴルフⅡと並び、ホットハッチとして人気の高かったプジョー 205GTI。バンパーの赤いラインが特徴です! ▲フォルクスワーゲン ゴルフⅡと並び、ホットハッチとして人気の高かったプジョー 205GTI。バンパーの赤いラインが特徴です!

10代で憧れた車が気づけばヒストリックカーの域に?

1990年のデビュー以来、日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパー。中古車マニアでもあるMC Boseが『カーセンサーnet』を見て触手が動いたDEEPでUNDERGROUNDな中古車を実際にお店まで見に行く不定期連載! 今回は1980年代に日本でもブームになったホットハッチをチェック!

『ホットハッチ』という言葉をご存じだろうか。Boseさんと同世代なら運転免許を取得した頃に車雑誌を読んで憧れた人も多いはず。一方で30代より下の世代だともしかしたら聞き慣れない言葉かもしれない。

ホットハッチとは大衆的なハッチバック車に排気量の大きなスポーティエンジンを載せ、スポーツカー顔負けの走りを楽しめるモデルのこと。特徴は小さなベース車両がもたらす圧倒的な軽さだ。

▲小気味よく回る1.6L 4気筒エンジン▲小気味よく回る1.6L 4気筒エンジン

「あとはやっぱりテンロクだよ。ベースが1.3~1.5Lくらいのエンジンなのに対してパワフルなエンジンを搭載する。それをMTで引っ張りながら走らせるのは最高に楽しいんだ」

目の前にあるプジョー 205GTIも1.6Lエンジンを積んだ典型的なホットハッチ。他にホットハッチといえば、ゴルフ GTIが代表格。日本でもシビックのSiなどが人気だった。

▲「GTI」そして「1.6」のバッジに憧れた人も多いはず▲「GTI」そして「1.6」のバッジに憧れた人も多いはず

「205GTIは後に1.9Lへと排気量アップしますが、やっぱりテンロクがいいんですよ。当時の雑誌が『テンロクならではの鋭い切れ味は……』と書いていたのを今でも覚えています」

今回お邪魔したC'connection代表の中前さんもこのように話す。

「僕は今年50歳になるけれど、免許を取った頃はまだお金がなくてこのあたりの車を買うことはできなかったんだよね。ちょっと上のお金持ちの先輩がプジョー 205のカブリオレなんかに乗ってて僕らはうらやましく思ってたんだ。それから何度か買いかけているけれど、買うところまでは行かなかった。でも乗りたい気持ちは衰えていないからついついカーセンサーでチェックしちゃう。ただ、最近は本当に流通台数が少なくなって価格もかなり高くなっている気がする」

1980年代~90年代欧州車の中古車相場をくまなくウォッチしているBoseさんの読みは正しく、中前さんによると205は5年ほど前まで100万円以下で普通に見つけることができたが、今は中古車自体がなかなか出てこず、出てきたとしても100万円じゃとても買えない値段になっているという。しかも程度のいい中古車は極めて少なくなっている。

▲205のデザインはプジョーとピニンファリーナの合作▲205のデザインはプジョーとピニンファリーナの合作

「つまり、この年代の車がヒストリックカーの域に入ってきたということだよね。例えば1950年代くらいの車って僕らが免許を取った頃からヒストリックカーだったから今でも見かけると自然にそういう目で車を見る。でも80年代~90年代初頭の車は新車の時代を知っているので頭がなかなかそっちの目線に切り替わらない。登場から30年もたつとこのような相場の動きになるんだということを受け入れないとダメだね」

この時代の車を選ぶうえで「相場」「流通量」以外にもう1つネックになるのが「パーツ」だ。Boseさんが乗っているゴルフⅡは日本でかなり売れたのでまだパーツも見つけやすい。しかし、イタリアやフランスの車はまだ日本でメジャーな存在ではなかったため、国内でパーツがなかなか見つからないケースも多いのだ。

「それでもプジョーはまだいい方です。ファンベルトなど一般的な整備で使う部品はポツポツ出てきますから。でもアッパーマウントのような部品はまず出てこないですね」(中前さん)

「だからどれだけいい整備をできるかはもちろん、必要なパーツを探し出すネットワークを持っていることもお店の実力になるってことだね」(Boseさん)

▲C'connection代表の中前さんとホットハッチの魅力を語りあうBoseさん▲C'connection代表の中前さんとホットハッチの魅力を語りあうBoseさん

そうですね、とうなずく中前さんはこんなことも教えてくれた。C'connectionのような専門店では国内外にパーツを探すためのネットワークを築いている。ただし、お店が動くと必然的に人件費などがかかってしまうため整備費用が割高になってしまう。

空冷911に乗るような人ならそれでもいいが、この時代のホットハッチに割高な整備費用をかけるのはきついという人も多いはず。だとしたら自分で海外のオークションサイトなどを日ごろからチェックしておき、必要になりそうなパーツが出たら自分でストックしておくといざというときに困らないし、結果的に安く車を楽しむことができるという。

「もちろんそのためにはどんなところにトラブルがでやすいかなど勉強が必要。僕らはヒントを出すことはできるので、自分で出来ることは自分でやってみる。そういう部分も含めて楽しめると、カーライフが広がるはずですよ」(中前さん)

走り出す瞬間から楽しい。こんな車、なかなかない!

▲インテリアもキレイに仕上げられている。ドアまわりの赤がまぶしい▲インテリアもキレイに仕上げられている。ドアまわりの赤がまぶしい

「それにしてもこんなにキレイな205GTIがまだ残っているなんてね。感動したな」

この205はベルト類、ショックアブソーバー、エンジンマウント、アッパーマウント、ウォーターホースなど、交換できる消耗品はほぼすべて替えてある。内外装の状態もキレイの一言。古い車でも手をかければここまでの状態に持ってこれるという、ベンチマーク的な存在だ。

実際、中前さんが毎年フランスで行われるヒストリックカーの祭典『レトロモービル』に足を運びいろいろな車を見てきたが、「この205は彼らのデモカーに引けを取らない」と胸を張る。

「僕を含めて普通の人はカーセンサーで相場だけを見ていてもなにが実際の現場で起こっているのかわからない。でも今みたいな話を聞くと、『まだ車を見てもらうことができるんだ。乗れるんだ!』ってうれしくなるな」

▲走行距離は6.6万km。30年以上前のモデルでこの距離はかなりレア▲走行距離は6.6万km。30年以上前のモデルでこの距離はかなりレア

せっかくだから乗ってみませんか? 中前さんの言葉に笑みをこぼすBoseさん。

「やっぱりこの時代のテンロクは走り出した瞬間がいいなあ。圧倒的に速い! しかも軽いのが手に取るようにわかるよ。車両重量、900kg切っているもんね。当時の雑誌に書いてあった“鋭さ”という感覚が、僕らでも十分わかる。しかも出足から楽しいと何がいいかって、街中で普通に走っていてもワクワクできること。今の車はパワーがあるけれど、それを堪能するには街中じゃ難しかったりするからね」

おそらくこの時代の車を選ぶ人は、他に普段使い用の車も所持しているはず。休日や仕事が終わった後に楽しむので、年間走行距離は3000kmくらいの人が多いそう。

▲「やっぱり軽さは正義だね(笑)」205に試乗してBoseさんはあらためてこう感じたようです▲「やっぱり軽さは正義だね(笑)」205に試乗してBoseさんはあらためてこう感じたようです

「だからこそなるべく長く後世に残していけるような乗り方をしてもらえたらうれしいですね。もちろんどう乗るかはお客さんの自由ですが、やっぱり真夏の渋滞などは車に負担がかかりますから」(中前さん)

「もう文化遺産に近い感じになってきているしね。そう考えるとゴルフⅡで年間3万km走っている僕って……。やっぱりもう1台、普段使いの車としてジムニーでも買っちゃおうかな(笑)」

text/高橋 満(BRIDGEMAN)
photo/篠原晃一