▲ベースとなる初代コルトに1.5Lターボを搭載した「ラリーアートバージョンR」(2006年に登場)。レカロシートはオプションもしくは、それを標準装備するレカロエディションというグレードで装着されている。また2007年11月にはMT車の馬力が154psから163psに。2008年にはバージョンRスペシャルという台数限定モデルも登場している。今回試乗したのは、2009年(H21年)式のモデルで車体もシートもすべて純正だった ▲ベースとなる初代コルトに1.5Lターボを搭載した「ラリーアートバージョンR」(2006年に登場)。レカロシートはオプションもしくは、それを標準装備するレカロエディションというグレードで装着されている。また2007年11月にはMT車の馬力が154psから163psに。2008年にはバージョンRスペシャルという台数限定モデルも登場している。今回試乗したのは、2009年(H21年)式のモデルで車体もシートもすべて純正だった

登場時に試乗したあのとき、バージョンRは間違いなく箱根スペシャルなモデルだった

今までたくさんの車を試乗してきたが、印象に強く残るモデルとそうでないモデルがある。その中でも箱根で行われた新モデル試乗会でドライブしたコルト ラリーアート バージョンRは『三菱自動車工業』の底力を知る、印象深いモデルの1台だった。

かつての三菱は販売モデル全車にターボを搭載するグレードをラインナップしていたほど、ターボ車を得意としていた。そんな三菱のリッター100馬力を超える1.5Lのターボ車で、どれほど楽しく低中速コーナーを走り抜けただろうか。それは間違いなく箱根スペシャルであった。

そんなコルト ラリーアート バージョンRだが、このたびカーセンサー本誌デスクの大脇氏が中古車で購入したという。彼の提案で、個体差があることは前提としつつも十数年ぶりにコルトを試乗させていただいた。

当時、新型をドライブした雰囲気を思い出しながら、経年変化を考慮した「中古車」の試乗インプレッションをしたいと思う。

▲このエアスクープがラリーアートバージョンRの証し。エアスクープ部分が盛り上がるような造形はボリューム感があり、小さなボディに迫力を与えている ▲このエアスクープがラリーアートバージョンRの証し。エアスクープ部分が盛り上がるような造形はボリューム感があり、小さなボディに迫力を与えている
▲ホイールアーチ部分のフェンダーにボリュームを持たせている。パッと見でコルトとの違いがわかる部分だ。16インチのアルミ+タイヤだが、ご覧のとおりまだタイヤハウスに余裕があるのでインチアップしもう少し太目のタイヤの装着もできそうだ ▲ホイールアーチ部分のフェンダーにボリュームを持たせている。パッと見でコルトとの違いがわかる部分だ。16インチのアルミ+タイヤだが、ご覧のとおりまだタイヤハウスに余裕があるのでインチアップしもう少し太目のタイヤの装着もできそうだ

コルト ラリーアートバージョンRとは、単なるポン付けターボ車ではない

コルト ラリーアート バージョンRの見た目の特徴は、ベースとなるコルトのおとなしいスタイリングを精悍にさせようとしたところ。ターボ仕様ということでボンネットにはエアスクープ、加えて車体を低く俊敏な雰囲気に見せるブラックアウトしたホイールアーチのオーバーフェンダーを架装している。

十数年前に箱根で試乗したときは、正直言うとあまり期待はしていなかった。なぜなら、先に登場していたNA1.5Lのコルトの印象が「なかなかパワーがあり良い車だが、特に可もなく不可もなく」という、よく言えば真面目な印象だったから。コルト ラリーアートバージョンRも、ただ単にターボを架装して足回りを締め上げた感じなのだろうと考えていた。

ところがどうだろう、低回転域からトルクが厚くどこのギアポジションからもアクセルのレスポンスに追従してくるとても乗りやすいセッティングだったのだ。しかも、サスペンションもただロール剛性を上げた硬い仕様ではなかった。MTでFFターボ車の場合はどんなにフラットなトルクといえども、発進時にアクセルを大きく踏み込むとトラクションを失いやすい。上り坂のタイトなコーナリングではなおさらだ。

だが、そんな状況でも前後のスプリングとストロークで路面を追従してくるのだ。スポーティな足回りにも関わらず、この追従が可能になっているのはシャシー剛性もアップしていた証拠だろう。スポット溶接増しも含め、ねじれ剛性アップを実施していたはずだ。当時、気持ちの中ではコルト ラリーアート バージョンRはマイノリティーの本物のホットハッチと言えたと思う。ドライバビリティを考慮したエンジニアの質の高さに驚いたことを思い出す。

▲240kmまで刻まれた純正のスピードメーター。またこの車両にはアクティブスタビリティコントロール(横滑り防止装置)が装着されていた ▲240kmまで刻まれた純正のスピードメーター。またこの車両にはアクティブスタビリティコントロール(横滑り防止装置)が装着されていた

懐かしい感覚が楽しさを思い出させてくれる

当時の印象を回想しながら大脇氏のプライベートカーに乗ってみる。

ドアにある鍵穴が妙にノスタルジックを感じさせる。純正シートは身体を包み込むようなフランス車っぽい感覚のスポーツシートでヘタリ感は感じない。内装はその当時でも特段新しさを感じられるデザインと素材とは言えず、今考えると走りに振り切った1台だったのだろう。

スターターを回してエンジン始動。4気筒エンジンの鼓動を背中に感じるが、懐かしさもあって全く不愉快ではない。劣化もあるだろうが、エンジンマウントをコンペ仕様に若干硬くしたようなフィーリングだ。

クラッチを踏み込むとクラッチ板が少々劣化しているようだ。しっかりと戻されるストローク感が希薄に感じる。それと同時にレリーズベアリングも若干音が出ている。でも普通に使用するのであれば全く問題ないレベル。シフトレバーを1速に入れるときのフィールは節度もあり専用のチューニングが感じられる。

優しくクラッチを繋ぎスロットルを踏み込むと、トルクステアも少なくシフトを動かしながらステアリングを容易に支えられる。しかし、今の車では考えられないようなダイレクトな雰囲気だ。路面をしっかりステアリングで捉える原始的で素朴な挙動に懐かしさで笑みがこぼれる。

コルト ラリーアートバージョンRは、ベースのコルトよりもリアのロール剛性を向上させているため、ターンインでスッと内側に頭を向けてくれ、とにかく運転が楽しい。ルノー ルーテシアRSのような味付けがラリー車っぽくって、おざなりではないことがよくわかる。

▲純正のシートはフランス車っぽいふかふか感があり特にヘタリは感じられなく好印象。ただレカロシートのようなホールド感は望めない。オーナーの大脇氏はなぜかこのシートがお気に入りポイントなのだとか。こう見えてもゲトラグ製の5MTで操作感はとても良い。純正のシフトノブはランサーエボリューションと同じ本革の丸型のモノだったが、スレが激しく社外品に交換されていた ▲純正のシートはフランス車っぽいふかふか感があり特にヘタリは感じられなく好印象。ただレカロシートのようなホールド感は望めない。オーナーの大脇氏はなぜかこのシートがお気に入りポイントなのだとか。こう見えてもゲトラグ製の5MTで操作感はとても良い。純正のシフトノブはランサーエボリューションと同じ本革の丸型のモノだったが、スレが激しく社外品に交換されていた
▲今の車にはない「乗り心地」や「パワーの出方」に懐かしさを覚える。様々なインフォメーションに昨今の車では味わえないダイレクト感があり、運転していてとても楽しい1台だ ▲今の車にはない「乗り心地」や「パワーの出方」に懐かしさを覚える。様々なインフォメーションに昨今の車では味わえないダイレクト感があり、運転していてとても楽しい1台だ

素性の良いモデルは何年たっても楽しめる

この内容からすると程度が良い個体と言えるのではないか。

大脇氏いわく、総額100万円程度で手に入れたとのこと。さらに複数の条件に絞れば、その時期では最安値に限りなく近い物件だったらしく「大当たりと言わざるを得ませんな(笑)」と、かなり満足している様子。

その値段で良質なサスペンションとシャシーを知り充実した走りができると考えれば、最高の車と言えるだろう。中古車なので状態に個体差はあるが、やはり素晴らしいモデルは何年経過していてもその味を楽しめることがわかった。特にメーカーが施したチューニングモデルならばなおさらかもしれない。スタイリングは好みだが、走りの目利き御用達仕様であることに間違いなかろう。



【試乗車情報】
車名:三菱 コルト ラリーアートバージョンR
年式:H21
エンジン:1.5L直4ターボ
駆動方式:FF
ミッション:5MT
修復歴:無
走行距離:5.7万km
車検残:あり(約1年)
車両状態:フルノーマル
購入時総額:103.8万円(税込)

text/松本英雄
photo/阿部昌也