▲時代が「自動運転」へ大きく舵をとった分、逆に「完全手動運転」のありがたみも増してきたような気がする昨今。写真は現行BMW 3シリーズのMTシフトレバー ▲時代が「自動運転」へ大きく舵をとった分、逆に「完全手動運転」のありがたみも増してきたような気がする昨今。写真は現行BMW 3シリーズのMTシフトレバー

「日々の快楽」には希少スーパーカーより3シリーズが向いている?

今さらご報告さし上げるまでもない話だが、過日閉幕した東京モーターショー2015では主たるトピックの半分ぐらいを「自動運転」が占めていた。まぁ、各社がとりあえずの目標としている2020年にいきなり完全自動運転社会が到来するわけではなく、まずはかなり限定された形での自動運転社会が高速道路上で始まるだけなのだが、それにしても世の自動車操作における「自動化」が、これまで以上のペースで進むことだけは間違いないと感じられた今回のショーであった。

そして世の中の自動運転化や半自動運転化の機運が高まれば高まるほど、それと対極にある「完全手動運転」や「アナログ名車」への憧憬も一部では増すのであろうと、個人的には確信した。

それは「見るな」と言われれば見たくなり、「誰にも言わないでね!」と言われた話ほど他人に漏らしてしまう人類の性(さが)である。生身の人間による運転が完全に禁止されるその日までは、「手動運転」と「アナログ名車」は局地的な情念の炎の対象であり続けるだろう。

そういった背景のなかで我々は今、どんな手動運転車あるいはアナログ名車を買い、そして存分に楽しむべきなのだろうか。

▲写真は先の東京モーターショー2015で世界初公開されたメルセデス・ベンツの「Vision Tokyo」 ▲写真は先の東京モーターショー2015で世界初公開されたメルセデス・ベンツの「Vision Tokyo」

ひとつの正解は、空冷ポルシェ 911や往年のV8フェラーリなどの「わかりやすいアナログ名車」だ。現在でさえ半自動化が進んでいる自動車社会だからこそ、これら古典的手動モデルは今乗ると逆に非常に楽しく、そして見目麗しい。さらに言えば、現在高騰している相場が今後さらに高騰する可能性も大いにある。となれば投資的な価値すらもそこには生まれ得るわけで、ならば、お金さえあれば今のうちに買えるだけ買っておいたほうがいい……という論法にもなかりの説得力がある。

しかし、そういったアナログ名車購入に対する賛意を示したうえで、少々の異論も述べたい。

空冷911やフェラーリ F355などは確かに素晴らしい車だが、筆者に言わせれば1つだけ問題がある。それは「あまりにも貴重で、そしてあまりにもパワフルであるため、一般道ではその性能をフルに発揮させるのが難しい」ということだ。

▲ステキなことこのうえないフェラーリ F355。しかし、当然ながら一般道でフルに使い倒す類の車ではなく、そもそも公道でコレをフル加速させると免許証が何枚あっても足りない事態に ▲ステキなことこのうえないフェラーリF355。しかし、当然ながら一般道でフルに使い倒す類の車ではなく、そもそも公道でコレをフル加速させると免許証が何枚あっても足りない事態に

これらモデルは今や「文化遺産」と呼んでも差し支えない存在であるため、運転や保管にはかなり気を使うし、またなかなか速い車ゆえ公道でそうそう全開にするわけにもいかない。サーキットに持ち込めばいくらでも全開にできるが、その機会は(人にもよるが)そう多いわけではなく、そもそも世界的な文化遺産を保険も利かぬサーキット内で、まるで中古のシビック タイプRのような勢いで走らせるのも若干気が引ける。

……となると文化遺産系のモデルは「大切に保管し、たまに乗る」ぐらいの役割に設定し、普段は別の何らかの手動系で、その手動運転を存分に楽しむ……というのが得策のように思える。

で、前置きが長くなってしまい大変恐縮だが、普段づかい系手動運転車として筆者が最適だと思うものの一つが「MTのBMW 3シリーズ」、それも3LターボとかM3とかの凄い系ではなく、排気量2.5L以下をおおむねの目安とする「そんなに凄くはない系」の3シリーズだ。

▲こちらは12年1月から販売中の現行BMW 3シリーズ。流通している物件の大半はATだが、熱心に探せば6MT仕様を見つけるのも不可能ではない ▲こちらは12年1月から販売中の現行BMW 3シリーズ。流通している物件の大半はATだが、熱心に探せば6MT仕様を見つけるのも不可能ではない
▲こちらの写真は05年4月から11年12月までの旧型BMW 3シリーズ。旧型でもMTの比率はかなり低いが、それでも現行型よりは少々多めの数のMT車が流通している ▲こちらの写真は05年4月から11年12月までの旧型BMW 3シリーズ。旧型でもMTの比率はかなり低いが、それでも現行型よりは少々多めの数のMT車が流通している

カーセンサーEDGE.net読者諸兄には今さら説明の必要もないだろうが、BMW 3シリーズというのは、特にMTのそれは、代を問わず「手動運転の歓び」をビシビシ感じることのできる名車である。極端なスポーツカーほど速く敏感なわけではないが、タコメーターを見ずともエンジン回転数が今どのあたりにあるのかが明確にイメージでき、同時にシリンダーとヘッドの中でピストンやらバルブやらが超高速で往復している様が(錯覚ではあるのだが)見えてくる。その瞬間、四ツのタイヤがどのように路面を掴んでいるのかも、手に取るようにわかる。3シリーズというのはそういう車だ。

しかし、それもあまりにもパワフルなグレードだと、安全面や運転免許の関係でそうそう全開にはできない。そして同時にそういったグレードはかなりトルクフルでもあるため、せっかくのMTもなんとなくAT的に運転できてしまうのだ。実際筆者が乗っていたアルピナB3Sという車もMTだったが、超絶トルクフルなため「4速とか5速とかに入れっぱなしのズボラ運転」でどんな局面にも対応できてしまい、変速をするのは実益のためではなく「単に変速してみたいから」という趣味の問題だった。パワフル&トルクフルすぎるのも、日々の悦楽という観点では実は少々の問題があるのだ。

その点、2.5L以下をおおむねの目安とするMTの3シリーズであれば、さすがに公道で全開にするのははばかられるが、それに近いシチュエーションはしばしば堪能することができる。そして3L級以上のグレードと比べればトルクも比較的薄いため、MT車のだいご味であるシフト操作も(必然的に)頻繁に行うことになる。しかしそれでいて燃費もまずまずであり、中古車であれば導入費用も比較的安価。

▲写真は旧型3シリーズの前期型MTのコクピット。4気筒でも6気筒でも、BMWのシャープでパワフルなエンジンを「自分の意思で」変速させながら走るのはひたすら素晴らしい体験だ ▲写真は旧型3シリーズの前期型MTのコクピット。4気筒でも6気筒でも、BMWのシャープでパワフルなエンジンを「自分の意思で」変速させながら走るのはひたすら素晴らしい体験だ

……コレクターではなく実践者として「日々の手動運転」を楽しむには最高のパートナーの1つかと思うのだが、どうだろうか。ということで今回のわたくしからのオススメは、排気量2.5L以下かつマニュアルトランスミッションのBMW3シリーズだ。

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  • Car:BMW 3シリーズ&3シリーズクーペ
  • Conditions:MT&修復歴なし&2.5L以下
text/伊達軍曹