▲「たとえ手頃な荷物グルマでも、できればオシャレであってほしい」と考える人には100万円前後で買えるボルボ 240エステート、かなり高コスパな1台です! ▲「たとえ手頃な荷物グルマでも、できればオシャレであってほしい」と考える人には100万円前後で買えるボルボ 240エステート、かなり高コスパな1台です!

時代が2周したことでレトロから「スーパーレトロ」へと登りつめた?

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、夕食に使う食材は基本的にコストコ(アメリカ資本の会員制格安スーパー)で特売品を買うと心に決め、大量のそれをジップロックで小分け冷凍しながらニッポンの中流ド真ん中を生きている。

ご承知の人も多いと思うが、コストコで売られている食材やトイレットペーパーなどはとにかく巨大なアメリカンサイズだ。到底フツーの小型ハッチバックなどで積みきれるものではない。それでなくても最近は(私事で恐縮だが)釣りや草野球という「長尺物な道具」が必要な趣味にハマっているため、どうしたってそれなりにモノが積める荷物グルマが欲しくなる。

▲コストコが扱う製品の巨大っぷりを示す一例。詰め替え用ボディシャンプーは3kgで洗濯用洗剤は4kg、トイレットペーパーは怒涛の30ロール! ちなみに手前中央は比較のために置いた普通のヤクルト ジョア ▲コストコが扱う製品の巨大っぷりを示す一例。詰め替え用ボディシャンプーは3kgで洗濯用洗剤は4kg、トイレットペーパーは怒涛の30ロール! ちなみに手前中央は比較のために置いた普通のヤクルト ジョア


しかし荷物グルマなら何でもいいわけではないのが、筆者のような車好きの困ったところだ。できればそれなりにいい感じのビジュアルで、ブランドイメージも良く、そして当然ながらそれなりの積載性とそれなりに優秀な走行性能が両立されているものであってほしい。

が、そういった荷物グルマはほとんどない。いや「ない」ということはなく、例えば珠玉の3Lツインターボディーゼルを積むアルピナD3ビターボ ツーリングなどは筆者が挙げた条件にまさに合致する荷物グルマ(ステーションワゴン)なのだが、あいにく車両本体価格が1073万円であるため、ニッポンの中流ド真ん中を自負する筆者から見ると事実上「存在してない」のと同じなのだ。

かといって国産の地味なステーションワゴンやありふれたミニバンには(申し訳ないけど)どうしても乗りたくないと考える筆者であるため、最終的には電車でコストコに行き、巨大な肉塊やトイレットペーパーを背負って帰るしかないのか……と思い悩んでいたとき、ひとつの選択肢に思い至った。

「そうだ、ボルボ 240エステートがあるじゃないか」と。

▲1974年から1993年まで、車名を微妙に変えながら販売され続けたボルボ 240エステート。日本仕様のエンジンは2.3Lの直列4気筒で、現在流通しているのは1989年式以降の末期モデルが中心だ ▲1974年から1993年まで、車名を微妙に変えながら販売され続けたボルボ 240エステート。日本仕様のエンジンは2.3Lの直列4気筒で、現在流通しているのは1989年式以降の末期モデルが中心だ


ご承知のとおりボルボ 240シリーズは、1974年から1993年まで累計280万台以上が販売されたミドルサイズのセダン/ステーションワゴン。基本設計としては60年代の140シリーズにまで遡る、長きにわたるモデルライフを誇った車だった。

ただ、「長きにわたるモデルライフ」といえば聞こえはいいが、要するにそれは「設計が古い」ということでもあり、事実、モデル末期だった90年代初頭にはすでに240シリーズは「レトロでおしゃれ!」と評されていたものだ。いちおうバリバリの現役モデルなのに「レトロ!」と言われるのもどうかと思うが、とにかくそういう車だったのだ。

そして販売終了から22年がたった今、ボルボ 240は、特にステーションワゴンの240エステートは、レトロから「スーパーレトロ」へと進化した。……いやそれが「進化」なのかどうかは自分で書いておきながら謎だが、とにかく240エステートはスーパーおしゃれで超絶レトロスペクティブな1台へと、時代が1周どころか2周ぐらいしたことで、登りつめたのだ。

全幅1715mmという華奢なサイズが否応なしに時代を感じさせる。そして昭和の民家にあった「応接間」を思い出させる内装のデザインテイスト。時代によっては微妙にも見えるそれらは、他のすべてが妙にピカピカになった今になって見ると「逆に新しい!」とも感じられるだろう。

▲初期型と比べればずいぶん現代的になっているが、それでもレトロ感満点となる末期240エステートのインパネ周辺 ▲初期型と比べればずいぶん現代的になっているが、それでもレトロ感満点となる末期240エステートのインパネ周辺
▲昭和の住宅にはしばしば用意されていた「応接間」のソファをなんとなく思い起こさせる、たっぷりとしたモケットのシート。写真は流通量の少ない希少色だが、とにかく色味にもシブい味わいが ▲昭和の住宅にはしばしば用意されていた「応接間」のソファをなんとなく思い起こさせる、たっぷりとしたモケットのシート。写真は流通量の少ない希少色だが、とにかく色味にもシブい味わいが


走りは率直に言ってスポーティがどうのとかハンドリングのリニアリティがこうのとか、そういった観点で論ずるべき部分は特にない。「とにかく農場の牛や馬のようによく働く」というかなんというか、そういったニュアンスだ。それゆえ、前述のアルピナD3ビターボ ツーリングのようなスポーツカー顔負けの走りをステーションワゴンにも求める人には、まったくもって不向きだ。

しかし「まるで夕日が差すあぜ道を牛車とかトラクターとか軽トラで走るように、のんびりとドコドコ走れれば、オレはそれでいいんだ」と思える人には、非常に向いている。筆者も若い頃はアルピナD3ビターボ ツーリング的な車で爆走したいタイプだったが、年齢のせいか最近はもっぱら「のんびり系」である。そんなニュアンスを好むようになった中高年や、あるいは俳優・半田健人のような「妙に昭和文化に傾倒してる若手」にも、ぜひオススメしたいボルボ 240エステートなのである。

古い設計のエンジンゆえ最近の車と比べれば燃費は決して良いとは言えず、頑丈で整備性も良い車ではあるが、購入時はしっかりとした納車前整備を行うのがマストだ。しかしそういったネガ要因(というほどのものではないが)を踏まえてでも、この圧倒的な存在感と、それでいて総額100万円前後という手頃な予算感は非常に魅力的であり、そして高コスパかと思うのだが、どうだろうか。
 

▲現代のワゴンではありえない小ぶりさと四角四面な造形がなんともステキ。240エステートに強い専門店は多数あり、主な部品もまだ入手可能なので、古めの車だが維持は比較的イージーなはず ▲現代のワゴンではありえない小ぶりさと四角四面な造形がなんともステキ。240エステートに強い専門店は多数あり、主な部品もまだ入手可能なので、古めの車だが維持は比較的イージーなはず
text/伊達軍曹
photo/向後一宏、伊達軍曹