※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲ニューヨーク近代美術館で唯一永久展示されている車であり、戦後の自動車デザインの流れを一気に変えた存在でもあるのがチシタリア202SC。この後、似たようなデザインの車が多数発売されたことからも、影響の大きさを窺い知ることができる。ボディはアルミ外板とマルチ鋼管フレーム、エンジンは1089ccの直4OHVで、出力は55ps。総生産台数は200台以下と言われ、クーペボディとカブリオレモデルが存在した ニューヨーク近代美術館で唯一永久展示されている車であり、戦後の自動車デザインの流れを一気に変えた存在でもあるのがチシタリア202SC。この後、似たようなデザインの車が多数発売されたことからも、影響の大きさを窺い知ることができる。ボディはアルミ外板とマルチ鋼管フレーム、エンジンは1089ccの直4OHVで、出力は55ps。総生産台数は200台以下と言われ、クーペボディとカブリオレモデルが存在した

創始者の情熱が注がれた歴史に残る一台

松本 今月号(カーセンサーEDGE 2011年3月号)の巻頭特集はアウディなんですが、ヴィンテージエッジではアウディと直接は関係のない車を取り上げることになりました。
徳大寺 アウディでこの企画に合うとすれば、それは戦前の高級車“ホルヒ”になってしまうけど、このクラスはそうそうないからな~。
松本 それで巨匠の古くからの知り合いの「クラシックガレージ」の小林さんに相談したら「チシタリア202SCカブリオレがありますよ」って。善は急げということで今回はチシタリアになりました。
徳大寺 そりゃ凄いな。チシタリアは伝説のスポーツカーメーカーだからね。小さくて上品なスタイリングは今日の自動車の形を決めたといってもいいだろうな。小さな宝石と呼ぶに相応しいよ202は。登場は1947年だろう? フェンダーとボディを一つにデザインしたモデルはこれが世界初じゃないかな。
松本 戦後すぐにフロントロングノーズ・ショートデッキの美しいプロポーションを完成させていたわけですからね。まさに彫刻の国ならではといったところでしょうか。
徳大寺 アウディとチシタリアは確かに直接は関係はないけれど、チシタリアはポルシェに4輪駆動のグランプリカーを作らせたんだ。そして今日のアウディを盛り上げた人物で、クワトロシステムなどを導入した“フェルディナント・ピエヒ”さんはポルシェのお孫さん。探してみれば繋がりがないこともないな。
松本 ですね。当時、チシタリアの技術者で腕を振るっていた、フィアットでお馴染みの“アバルト”ことカルロ・アバルトも、ポルシェに在籍していたわけですからね。アバルトの奥さんはピエヒのお父さんの秘書をやっていて、アバルトがイタリアに住むためにピエヒのお父さんが尽力されたそうですよ。チシタリアとアウディはけっこう深い関係にあったわけです。
徳大寺 そうだったのか。ピエヒさんとは一昨年会ったよ。まぁアバルトはオーストリア人だし同郷のよしみもあるしな。
松本 そろそろ近いですよ。巨匠とは2回ぐらいは来てるんじゃないですか。ありましたね! まさにレストア工場って感じですね。ストリップアウトしてパテで形を作らないで、ちゃんとトンテンカンと鈑金で叩いて作ってますよ。さすがだなぁ。これやらないとボディがビシッとこないんですよね。
徳大寺 そりゃ彼はプロ中のプロだからね。パテを盛ってある車なんか自分が許さないだろう。見たところショールームにはないようだな、チシタリアは。
松本 恐らく別の場所にあるんでしょうね。あ、こちらのようです。
徳大寺 おぉ、こんなところに保管されているのか。さすがにいつ見ても美しいな。これはピニンファリーナが手がけたんだよな?
松本 そうですね。ピニンファリーナの工房とピニンのお兄さんの工房であるスタビリメンテ・ファリーナの両方で作っていたようですね。でもデザインはアルフレード・ヴィニャーレだといわれています。マニアックな話ですが、カブリオレはお兄さんのカロッツェリアで作られていたと聞いたことがありますよ。
徳大寺 いずれにしても、ピニンファリーナはまだ小さな工房に過ぎなかったわけだから、様々なカロッツェリアに手伝ってもらっていたんだろうな。それにしてもチシタリアの創設者である“ピエロ・ドゥジオ”という男はただ者じゃないな。
松本 チシタリア(Cisitalia)はCompagniaIndustrialeSportiveItaliaの略で、ドゥジオはGPレーサーであり、サッカー選手でもあり、そして実業家となって、自分の理想の車を求めて常に進歩的な技術とデザインを導入した人物だそうです。デザインを担当したビニャーレは、このドゥジオに認められ、カロッツェリアを作ることができたんです。
徳大寺 事業で得た利益のすべてを自動車に投入して最後は破産してしまうのだけど、中途半端な気持ちではできないことだよな。こういう生き方は好きだな。破産してしまうけど歴史には残って、伝説的なメーカーとして後々に伝えられているんだから価値があるよ。今の自動車メーカーにもそのような志があればまた人々の自動車への接し方も違ってくるんじゃないかな。
松本 小さくてもここまで豪華に作るんですからびっくりしますね。現在の車は高級車イコール大きい車体という概念が付きまとってますから、こういう考えをもっと知るべきですよね。
徳大寺 全くだ。小型でも高級車は作れるという無二のモデルがこのチシタリア202SCカブリオレだと思うな。クーペももちろんだけど。幌の作りがいいじゃないか。パイピングも洒落てるよ。日本のメーカーももっとこういう車をデザイナーだけでなく様々な人に見てほしいよ。これからの自動車のために。
松本 この企画は毎回いろいろな刺激を与えてくれますね。
徳大寺 全くだ。なにより楽しい時間を過ごさせてもらっているよ。

CISITALIA 202SC メーター
CISITALIA 202SC フェンダー
CISITALIA 202SC リア周り
CISITALIA 202SC 運転席周り
CISITALIA 202SC ホロ
tefxt/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2011年3月号(2011年2月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています