※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲61年から75年まで発売されたジャガーのスポーツカー。美しいデザイン、当時としては驚異的な最高速240km/hという性能、何よりその他のスポーツカーに比べ、価格を安く設定したため、アメリカを中心に大きな人気を得た。シリーズ1と呼ばれる最初のモデルが登場したのは61年。その後、2度のマイナーチェンジを行い、68年にアメリカ連邦安全基準に合わせ外装などを変更したシリーズ2へ移行。そのシリーズ2が発売終了し、少し時をおいてから71年にV12エンジンを搭載したシリーズ3が登場した 61年から75年まで発売されたジャガーのスポーツカー。美しいデザイン、当時としては驚異的な最高速240km/hという性能、何よりその他のスポーツカーに比べ、価格を安く設定したため、アメリカを中心に大きな人気を得た。シリーズ1と呼ばれる最初のモデルが登場したのは61年。その後、2度のマイナーチェンジを行い、68年にアメリカ連邦安全基準に合わせ外装などを変更したシリーズ2へ移行。そのシリーズ2が発売終了し、少し時をおいてから71年にV12エンジンを搭載したシリーズ3が登場した

思わず大事に乗りたくなるMTのワンオーナー車

徳大寺 最近、このEDGEの取材で高級輸入車を扱っている中古屋さんに行くけど、ひとつだけ共通点がある。それは車がとても好きな方々がお店を出してることだ。じゃなかったら中古車屋さんはできない。そんなに儲からないからな。
松本 趣味が高じて自動車屋さんになったという話はよく聞きますね。今日伺うお店は僕は初めてなんですけどジャガー専門店だそうです。
徳大寺 池尻の「ワイズ」だろ。オーナーの後藤さんは20年以上前からの知り合いだ。
松本 巨匠もその当時ジャガーに乗っていたんですか?
徳大寺 ジャガーEタイプシリーズ2を持っていたよ。その関係で今日行く後藤さんと会ったんだ。彼は若かったけれどジャガーに乗っていた。確かクラブミーティングだったな。
松本 今日見るモデルはEタイプのシリーズ3ロードスターだそうです。僕も買おうと思って乗ったことがありますけど、あのV12は実にスムーズで知らないうちにスピードが出て、これが1971年に作られたとは思えないパフォーマンスでした。
徳大寺 AT? MT? どっちだった? アメリカ仕様のATと本国使用のMTじゃ全く違う車だからね。もちろんATでもそうとう速い。5.3Lだからね。
松本 RHD(右ハンドル)のマニュアルが欲しかったんですけどLHD(左ハンドル)のATでした。若者の乗る車じゃないですけどね。
徳大寺 そりゃ仕方ない。ジャガーのメインマーケットはアメリカだからね。むしろ本国仕様なんかは珍しいしマニアにはたまらないだろう
松本 ここですね。ありました! クリームが入ったイエローのジャガーが。ワイヤーホイールじゃないのも70年代らしくっていいですね。XJと同じホイールのようです。からポート噴射へと変わり、乗降を考えてフレーム形状も変更されて、ごく普通のドアの開閉となりました。しかもクーペよりも100kg以上の重さが加算されたのだから、もはや快適なツアラーですね。
徳大寺 この色はジャガーでは“プリムローズイエロー”というんだ。たしかにXJと同じホイールだね。むしろこっちの方が標準らしい感じがしていいな。
オーナー後藤氏 ご無沙汰しております、徳大寺さん。このEタイプはほとんどワンオーナーですよ。
徳大寺 おぉ、これは程度がいい。ワンオーナーだけある。しかもMTというのがまたいいな。
松本 右ハンドルのMT、憧れますね。シリーズ3になってからロードスターはホイールベースが延びて優雅さがいっそう際立ちます。品川33じゃないですね。にわかっぽくなくていいな。
徳大寺 1961年に発表したジャガーEタイプもこのシリーズ3で最終型になる。1961年から75年まで作られたからね。もっともエンジンはこのシリーズ3からV型12気筒になるんだ。
松本 僕はこの12気筒がとても好きなんですよ。1950年代にジャガーDタイプに搭載された6気筒を超えるレーシングエンジンとして開発された由緒正しいエンジンです。
徳大寺 そうそう。たしか日の目を見ることはできなかったけど、XJ13というレーシングカーに搭載されていたんだよな。
松本 でもすごいところは、その後1988年にこのブロックを使ってSOHCの2バルブでル・マンに勝ったんですよね。
徳大寺 ジャガーはユーザーが何を求めていたかとても分かっていたメーカーだった。だから最高のパフォーマンスをできる限り押さえたプライスで提供した。いまだにこうして人気があるのもその証拠なんだ。
オーナー後藤氏 徳大寺さんのいうとおり、本来のジャガーはアストンなどと違い価格を抑えながら同等かそれ以上のパフォーマンスを提供した訳です。それはウイークポイントはあります。アストンとかと違い、レストアしたからといって当時に近い性能を発揮することは難しいのです。とくにEタイプはセンターセクションのモノコックの剛性が低下しているモデルが多いですね。
徳大寺 そうなんだよな。車はどう使われたかによるから、外観がきれいよりもどのような人がどういう扱い方をしたかによると思う。こういうワンオーナーで大切に扱われたEタイプは乗っていて楽しいだろうし、大切にしようと思うだろう。
松本 Eタイプのような高性能だからこそちゃんとした単体じゃないと怖いですね。このモデルからディスクブレーキの強化などをしたといっても、車重が1500kg切った状態で310馬力を超えているわけですから、ボディが良くなければEタイプの良さを感じ取れないでしょう。
徳大寺 ジャガー好きの後藤さんだから良い車が集まるし、ジャガーに関する様々なノウハウを持っているんだな。専門店は色々とあるけれどその車への思いが強いオーナーさんがいるお店は変な車を売れないと思う。我々やお客さんにとってはありがたい話だな。これからも良い車を見せてください。また遊びにきます。

ジャガーEタイプ シリーズ3 運転席周り
ジャガーEタイプ シリーズ3 リア
ジャガーEタイプ シリーズ3 エンブレム
ジャガーEタイプ シリーズ3 エンジン

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:4690×1680×1225(mm)
■車両重量:1558kg
■ホイールベース:2690mm
■エンジン:V型12気筒SOHC
■総排気量:5343cc
■最高出力:272ps/5850rpm
■最高トルク:42kg-m/3600rpm

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2010年3月号(2010年2月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています