▲ポルシェ 911として初めて水冷エンジンを搭載した旧々型ポルシェ 911(右)と、ほぼ同時期に販売された2シーターオープンカー初代ボクスター(左)。今やどちらもかなりのお手頃相場だが? ▲ポルシェ 911として初めて水冷エンジンを搭載した旧々型ポルシェ 911(右)と、ほぼ同時期に販売された2シーターオープンカー初代ボクスター(左)。今やどちらもかなりのお手頃相場だが?

タイプ996を「つまらない」というのはマニアだけ?

人間は、こと自分がそれについてかなり詳しい分野に関しては、他者の無知に非寛容だ。筆者もルノーの初代メガーヌ クーペ16Vという車に乗っていた20年ほど前、とある車雑誌の記事で、車名は「メガーヌ クーペ16V」となっているのに写真が「普通のメガーヌ クーペ」になっていることを見つけ(ホイールなどの些細な違いでわかるのだ)、その雑誌のことを「この編集部は全然わかってない! ド素人集団だ!」的に心の中で罵倒したものだ。

▲ちなみにコレが初代ルノー メガーヌ クーペ16V ▲ちなみにコレが初代ルノー メガーヌ クーペ16V

しかし、メガーヌ クーペ16Vの写真を例えば5ドアハッチバックの写真と間違えたならばともかく、「16Vではないメガーヌ クーペ」と間違えただけなのだからして、マニア以外にとっては心底どうでもいい、ミスとすら言えないようなミスである。そんな些細なミスに対してカッカしていた当時の筆者の姿は、車に興味がない人から見れば完全に意味不明だっただろう。物事というのは、ハマりすぎると視野が狭くなってしまうという側面もあるのかもしれない。今は反省している。

例えばポルシェという車に関してもそうだ。

1998年から2004年まで販売された旧々型ポルシェ 911(996型)と、それとほぼ同時期に販売された初代ボクスター(986型)は、率直に申し上げて車マニアからのウケはあまりよろしくない。特に両者の前期型はそうだ。「それまでの911と比べると乗り味が乗用車的で面白くない」「GT3とかターボとかの“役物”以外は強烈な個性に欠ける」というのが、996型と986型を批判する者にほぼ共通する見解だろう。

筆者も自動車マニア兼ポルシェ愛好家の1人であるゆえ、そういった見解については「まぁ確かにそのとおりかもしれないな」とは思う。しかし同時に「そこまで気にするのってマニアだけで、普通の人はそんなこと全然思わないんじゃないの?」とも思うのである。

▲1998年に登場したタイプ996こと旧々型ポルシェ 911。写真は前期型 ▲1998年に登場したタイプ996こと旧々型ポルシェ 911。写真は前期型
▲こちらは1996年登場の初代ポルシェ ボクスター。当初のエンジンは2.5Lで、後に2.7Lに ▲こちらは1996年登場の初代ポルシェ ボクスター。当初のエンジンは2.5Lで、後に2.7Lに

確かに996型ポルシェ911と986型ボクスターは、それまでの空冷ポルシェと比べるとやや乗用車チックな乗り味かもしれない。またビジュアルを含む「個性」も、比較的薄いのかもしれない。しかしそう思うのは空冷時代のポルシェと最新世代のポルシェの双方を知っているマニアだからであり、普通の人からすれば「ポルシェ? すげーじゃん!」というだけの車である可能性は非常に高いのだ。

実際、余計な先入観ゼロで996型911および986型ボクスターの中古車に試乗してみれば、両者は「おそろしく剛性感の高い、素直で秀逸なハンドリング性能を持つパワフルなドイツ車」でしかないのだ。特に、それまでごく普通の国産車しか運転した経験がない人が996または986のステアリングを握れば、「こ、これがポルシェの乗り味ってやつか!」と大感動することだろう。いい車なのだ。

であるならば、我々は旧々型ポルシェ 911(996型)および初代ボクスター(986型)を過剰に忌避(きひ)したり冷笑する必要などいっさいなく、「手頃な予算で狙えるステキなジャーマンスポーツカー」あるいは「ポルシェ道入門のための第一歩」として、ごくフツーに検討対象のひとつとすれば良いと思うのだが、どうだろうか。

▲996型ポルシェ 911のステアリングおよびメーターまわり。911伝統の5連メーターを採用していた ▲996型ポルシェ 911のステアリングおよびメーターまわり。911伝統の5連メーターを採用していた

幸いにしてというか何というか、996および986の前期型は比較的人気薄であるため、中古車相場はめっぽう安い。具体的には996型911であれば250万円も出せばまあまあな1台を探すことができ、986型ボクスターはさらに安い150万円ほどでも十分イケる。その予算で曲がりなりにも「ポルシェオーナー」になれるのだから、「人生一度はポルシェに!」と内心考えていた人は、ぜひ注目していただきたいところだ。

ただし、そのあたりの予算で狙える996/986はさすがに走行距離が少ないものはなく、どうしても5万km以上にはなる。10万kmに近い個体も多い。その中から極力ステキな1台を選ぶのは決してイージーな作業ではなく、また中古車というのは1台ごとに履歴もコンディションも大きく異なるため、「ココをこう見ておけば絶対に大丈夫」ということも言えない。結局はケース・バイ・ケースなのだ。

しかし、ひとつだけ助言をするとすれば、「走行距離だけにこだわるのはやめましょう」ということだ。

▲もちろん走行距離は中古車選びにおける重要な指標のひとつだが、決して唯一の指標ではないのです ▲もちろん走行距離は中古車選びにおける重要な指標のひとつだが、決して唯一の指標ではないのです

例えば走行7万kmの個体よりも5万kmの個体を自動的に選びたくなるのが人情というものだが、それが必ずしも絶対の正解ではないことは知っておいた方がいい。というのは、輸入車というのは一般論として5万kmか6万kmあたりで最初の山(消耗部品の交換タイミング)が来ることが多い。ということは、新車時から特に部品交換をしていないためこれから「山」が来ると思われる5万km車よりも、必要な部品交換を済ませて「山」を越えた7万km車の方が好調かつ安上がりで……ということもなくはないのである。

いずれにせよ、距離計の数値だけでなく全体としてのコンディションと整備履歴を重視したうえで、濃い口ではないのかもしれないが、ステキで手頃なスポーツカーのひとつである996型911および986型ボクスターを上手に探していただけたら、他人事ながら筆者としても非常に幸いだ。

ということで今回のわたくしからのオススメはずばり「旧々型ポルシェ 911&初代ボクスター」だ。

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  • Car:ポルシェ 911(996)
  • Conditions:修復歴なし&総額250万円以内(※総額250万円を超えるプランが用意されている場合があります)
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  • Car:初代ボクスター
  • Conditions:修復歴なし&総額150万円以内(※総額150万円を超えるプランが用意されている場合があります)
text/伊達軍曹