※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲72年にアストンマーティンの経営権がデヴィッド・ブラウンから、カンパニー・ディベロップメンツに移った直後に発表された改良型V8。ノーズやフロントフェンダーに付くエンブレムから“David Brown”の文字が消えたのもこのモデルから。エンジンは、ル・マン用ユニットから発展したV8DOHC。ギアボックスはZFの5速MTが標準で、クライスラーのトークフライト3速ATも選べた。その後77年には高性能版のヴァンテージを復活させ、78年夏にはオープンのボランテも加わり、V8は89年までに2000台以上、ボランテは800台以上生産された 72年にアストンマーティンの経営権がデヴィッド・ブラウンから、カンパニー・ディベロップメンツに移った直後に発表された改良型V8。ノーズやフロントフェンダーに付くエンブレムから“David Brown”の文字が消えたのもこのモデルから。エンジンは、ル・マン用ユニットから発展したV8DOHC。ギアボックスはZFの5速MTが標準で、クライスラーのトークフライト3速ATも選べた。その後77年には高性能版のヴァンテージを復活させ、78年夏にはオープンのボランテも加わり、V8は89年までに2000台以上、ボランテは800台以上生産された

アストンマーティン激動の時代を生き抜いた名車

松本 今月のヴィンテージエッジはイギリスきってのジェントルマングランツーリズモというのがまさにピッタリのアストンマーティンです。
徳大寺 アストンは何台か持っていたな。アストンでスーパーカーだとすると“DB4GT”か“DB4GTツァカート”かな?
松本 今回はもう少し年代的に新しく実用的でエクスクルーシブな“アストンマーティンV8サルーン”です。1972年から89年まで作られていたので、十分クラッシックな部類のモデルですね。
徳大寺 ライトがシリーズ1は4灯式。このシリーズ2では2灯式になった。僕は4灯式のDBSに乗ってたんだ。大阪のブローカーから買ったんだけど名義変更が大変だったな。その筋の人に頭を下げてさ(笑)。
松本 このモデルは“アストンマーティンV8”のサルーンですから“ DB ” が付かないモデルです。“DB”とは1947年から1972年までアストンマーティン社のオーナーだった実業家デヴィッド・ブラウン氏のイニシャルですが、巨匠が乗っていた“DBS”は最後のDBシリーズだったわけですね。
徳大寺 そうだな。この当時の僕は3台の車の鍵を持って車庫に向かうのが日課だったよ。初めはフェラーリ365/2+2を試すんだ。これがエンジンの掛かりが悪くて、失敗すると一日調子が悪いから隣のアストンマーティンDBSに乗り換える。これもご機嫌斜めな時が多くて、スパークプラグがかぶってしまったら今日はもうおしまいとなる。スーパーカーとはそういう車かもしれないけどね。それで結局最後に乗るのはメルセデスの280SLだった(笑)。
松本 巨匠らしいエピソードですね。ところでこの車の5.3L DOHC・V型8気筒は本来レース用に開発したエンジンですから当然オールアルミブロックで、1967年のル・マンやニュルブルクリンクのレースにも出場したアストンマーティンの本流サラブレッドですよね。しかしこの車のオーナーはとっても大切に持っていたんですね。そうとう手を入れているようでエンジンの掛かり具合とか調子はすごく良いですよ。
徳大寺 そうだな。普段乗るにはこのぐらいの程度が丁度いい。逆にピカピカすぎるとちょっとカッコ悪いように思えちゃうんだよ、この手の車は。このコンディションは作ろうと思っても作れない。大人の感じがするね。コノリーレザーのシートも良い味が出てるじゃないか。
松本 巨匠が乗っていたDBSはキャブレターでしたか? インジェクションでしたか? 両方の仕様があったんですよね。アストンがV8を初めて搭載したのはDBSのモデルから。その後V8サルーンに搭載してますから、アストンとしては瀕死の状態で社運をかけたV型8気筒だったのではないでしょうか。
徳大寺 僕のは直列6気筒の昔のエンジンだった。今では聞いたことの無いAE Bricoという変わったインジェクションが装着されていたんだよ。
松本 このエンジンはインジェクション仕様のV8ですね。オートマチックトランスミッション仕様ですからクライスラー製の3段オートマチックでしょう。当時アストンは馬力を公表していなかったのですが、300馬力は超えていたのではないでしょうか。このモデルの最上級のヴァンテージというモデルは480馬力以上と言われていましたから、ポテンシャルはそうとうなモノです。
徳大寺 インテリアは2+2だけどフェラーリと違って余裕がある。シートや内装も落ち着いているね。このモデルからステアリングホイールがウッドから革巻きになるんだ。オートマチックだから都内にはいいな。こういう車はゆっくりと走った方がかっこいい。
松本 そうそう、この車はアルミボディですよね。DB4からプラットフォームに細いパイプフレームを組んだ“スーパーレッジェーラ”工法を採用しています。DB4、DB5、DB6、DBS、そしてこのモデルですから基本は踏襲されているんですね。
徳大寺 スーパーカーは採算なんか考えていないんだよ。メーカーは誇れる車作りをすることに価値を見出していたんだ。今の車作りもこの“誇り”を大切にしてほしいな。

 Aston Martin V8 series 2 エンジン
 Aston Martin V8 series 2 運転席周り
 Aston Martin V8 series 2 エンブレム
 Aston Martin V8 series 2 リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:4585×1830×1325(mm)
■車両重量:1727kg
■ホイールベース:2610mm
■エンジン:V型8気筒DOHC
■総排気量:5340cc
■最高出力:320ps/5000rpm
■最大トルク:50.0kgm/4000rpm

tefxt/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2009年6月号(2009年6月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています