ポルシェ 911|伊達セレクション
写真上は1970年式のポルシェ 911S/2.2。1974年までの911は俗に“ナロー(狭いという意味)”と呼ばれ、全幅1610mmほどのまさにナローなボディと車両重量1t少々という軽量さが魅力。そのダイレクト感は現在の肥大化した911とはかなり趣が異なる。写真下は930シャシーとなった1985年式の911カブリオレ・ターボルック。
ポルシェ 911カブリオレ|伊達セレクション
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年をとればとるほど“おいしい”ってこともあるのです

私事で恐縮だが、筆者はアマチュアロックバンドをやっている。で、その活動目標は大マジメに「NHK紅白歌合戦出場」だ。とうに四十を越えた筆者らバンドメンバーゆえ、紅白出場など夢物語と笑う者も多いだろう。たしかに、演奏能力等においては前途多難なわれらではある。しかし年齢の問題に関してだけは、全員オーバーフォーティというのは「逆においしい」と思っているのだ。

例えば30代の人がバイト生活を続けながら「夢はメジャーデビュー」と言って音楽活動を続けるのは、こういう言い方も申し訳ないが若干痛々しいものがある。しかし40代で「夢は紅白!」となれば笑いしか起こらない。で、「全員50代だけど夢は紅白初出場!」となれば微笑ましいことこのうえなく、さらに「全員70代なんだけど紅白目指して活動中です!」となれば、よくわからないが夕方のテレビニュースが取材にくる可能性すらある。そういった意味でわたくしどものバンドは、年をとればとるほどに「おいしい」のである。

これと似たような現象は車の世界でもしばしば起こる。例えばポルシェ 911だ。

一例としてタイプ996(水冷化された直後の911)の前期モデルは、仮に本人が「純粋にコレが好きだから」という理由で乗っていたとしても、「見栄張って安い中古ポルシェを買った人」と見られてしまうリスクがある。最新でもなくクラシックでもない、中途半端な年式ゆえの悲劇である。しかし水冷ではなく空冷の、例えば往年のポルシェ 911とよく似た形のタイプ964であれば、「見栄ウンヌンではなく好きだから乗ってる人」という好意的な眼で見られることだろう。これこそ「年を取るほど逆においしい」という、例の理論である。

ポルシェ 911も、ナローや930ならさらにおいしい

で、「年を取れば取るほどおいしい」のであれば、タイプ964よりさらに古い型式のポルシェ911のほうがおいしいということになるわけだが、事実はまさにそのとおりである。

街の素人衆にとってはそうでもないのかもしれないが、われわれ濃口の自動車愛好家からすると、ポルシェ 911のタイプ964や993は、タイプ930を含む広義のオリジナル911と比べてどこか大衆におもねっているようにも見えてしまう。もちろん現在の水冷911と比べれば十分硬派でクラシカルだが、事実として(ポルシェとしては)大衆寄り目線で作られた車ゆえ、どうしてもそういう空気ははらんでいるのだ。そしてその“空気”は、細かな理屈やポルシェ911の歴史などまったく理解していない素人衆にも、なんとなく伝わるものだ。

しかし、ナローポルシェこと初代911と、その発展形であるタイプ930は“本物”ゆえにまったく違う。車を愛する自分の心に問答無用でズドン響き、志を同じくする同好の士の心にも響き、そしてポルシェのことなど何も知らない素人衆の心にも「よくわかんないけど、ステキですね」と響く。本物とはそういうものだ。

ということで、今回の伊達セレクションはずばりこちら。
タイプ964より前の「本当の911」はどうですか?


文・伊達軍曹 text/Sergeant DATE