▲DB4、DB5と続くシリーズの完成形とも言えるモデル。ホイールベース、全長を延ばして居住性の向上を図り、空力的アドバンテージが証明されていたテールデザインを採用するなど、様々な新技術を採用 ▲DB4、DB5と続くシリーズの完成形とも言えるモデル。ホイールベース、全長を延ばして居住性の向上を図り、空力的アドバンテージが証明されていたテールデザインを採用するなど、様々な新技術を採用

かつては巨匠も所有した世界的に有名な英国GT

スタンダードモデルはDB5と同じエンジンを搭載するが、ヴァンテージは325psにまで高めたユニットを搭載、差別化が図られた。またこのDB6からドロップヘッドクーペに「ボランテ」という名前が付けられており、その名前は今現在も継承されている。シリーズ累計での生産台数は約1300台。日本にも数えるほどしか存在しない希少車である。

徳大寺 今日はアストンマーティンなんだろう?ヴィンテージエッジに相応しいアストンといえばDB4GTかDB5といったところだろう。特にDB4GTはとにかくカッコいいよ。
松本 巨匠、DB4GTはイタリアのカロッツェリア・トゥーリング製で僅か75台程度ですから、まぁなかなかお目にかかれませんよ。
徳大寺 だろうな。いまやこの手のモデルは引っ張りだこだから。でもDB5あたりはありそうだけどな。
松本 DB5もボンドカーとしてメジャーですからね。そりゃDB4GTに比べれば桁違いに多く製造していますし、イベントなどで見ることもありますね。そういえば、ボンドカーを運転したことがあるって聞いたんですが、本当ですか?
徳大寺 ホントだよ。僕が一番長く乗っていたんじゃないかな。たしか1965年の11月にプロモーションで日本に持って来てね。それで借りてたんだよ。リアウインドウとトランクの間から出て来る防弾スクリーンを上げたり、センタ-ロックのスピンナーから刃物が出てきたり。ゴールドフィンガーでマスタングの横をギザギザに裂いちゃった、あれだよ。まぁプロモーションとはいえ実に精巧なDB5だったな。
松本 DB5は1963年にアナウンスされ65年までの2年間で1000台と少し生産されました。ボディはカロッツェリア・トゥーリングでボンネットに刻まれたSuperleggera(スーパーレッジェーラ)のロゴは現在、ファッションの世界でも使われていますね。
徳大寺 カロッツェリア・トゥーリングという会社はカッコいいモデルを多く作ったんだ。アストンはトゥーリング社のおかげで現在の地位を築いたと言ってもいいぐらいだよ。ところで今日見に行くモデルは?
松本 アストンマーティンDB6ですね。前にEタイプを見に行ったワイズさんの車です。
徳大寺 そうか、DB6はトゥーリング社が手がけた黄金時代の最後のアストンと言ってもいいだろう。DBシリーズはDB2、3とあるけど、大幅にリファインされてスタイリッシュに登場したのがDB4からなんだ。まずエンジンは、以前はW.O.ベントレーが設計した6気筒を搭載していたんだけど、DB4からは次世代を見据えて設計されたオールアルミブロックのDOHC6気筒を搭載することになったんだ。
松本 W.O.ベントレーのエンジンは魅力的でしたが、60年代のスポーツカーにはさすがに厳しかったようですね。このDB4から搭載されたエンジンは、ル・マンでワークスカーに搭載したDBR2をディチューンしたものだそうですね。
徳大寺 そうだよ。本当のスポーツカーやGTと呼ばれる車は本物を使う。量産エンジンをチューニングして搭載して出来上がり、なんていうお茶を濁すようなことはやらない。
松本 エンジンもそうですが、ボディもやはり大事ですね。カロッツェリア・トゥーリングのスーパーレッジェーラは、まず剛性の高いメインフロアボディに小径の鋼管を溶接して造り上げ、メインフレームを造るそうです。そしてアルミボディを鋼管に巻き付けてシャシーとボディを接合させる、特別な製造方法を採っているんですね。利点は何と言っても軽量化。それがSuperleggeraなのですから。しかもアストンの顔でもある“セヴン・バーチカル・バー”と呼ばれるグリルもDB4のシリーズ4から採用され、現在のイメージに結びついているわけです。
徳大寺 実はDB5は所有しなかったけれど、DB6は乗ってたよ。あれはあれでカッコイイんだ。しかも僕のはヴァンテージだから3連SUキャブ。ノーマルに比べてウェーバー3連だからパワーはあったな。DB5の時代とはボディの造り方が少々違うようだけど、ボンネットには一応Superleggeraのエンブレムが入っていたよ。
松本 巨匠の乗っていたアストンはDBSだと思っていましたよ。DB6も乗っていたんですね。しかもヴァンテージ。DB6はおよそ4Lから282bhp(ブリティッシュホースパワー)を発揮していましたが、ヴァンテージはこれが325bhpですから、そうとうチューニングも高くなっているわけです。
徳大寺 GTにありがちな申し訳程度のリアシートではないのもいいんだ。しっかり4人乗れるGTというところも魅力的なんだよ。
松本 さすがアストン、さすがDB6ですね。
徳大寺 そうだね。DB4、DB5、もそりゃカッコいいけど、DB6のリアデザインは、当時のレースからフィードバックして作られた実際に高速で走行することを考えたものなんだ。まさに本物のグランツーリズモと言えるだろうね。

▲DB6エンジン
▲DB6リア
▲DB6フロント
▲DB6インパネ
text/松本英雄
photo/岡村昌宏