いすゞ車なのに輸入車のような雰囲気 ▲いすゞ車なのに輸入車のような雰囲気

通産省指導のもと、海外の自動車技術が日本へ

原稿執筆時点でカーセンサーnetに1台のみ掲載されている希少車をご紹介します。今回、2015年3月30日に発見したのは「いすゞ ヒルマンミンクス」です。現在、いすゞは日本における乗用車の生産・販売から撤退していますが、ヒルマンミンクスはいすゞが乗用車市場へ参入した、先駆けにあたる車です。

ヒルマンミンクスはイギリス、ルーツ社の乗用車を「完全ノックダウン」で、いすゞが組み立て販売していた車です。完全ノックダウンとは部品のすべてを輸入して販売地で組み立てる生産方式で、1950年代の戦後日本において、産業復興のため通産省指導のもと積極的に行われていました。

当時、外国資本の自動車参入には規制が設けられており、「技術援助協定」を結ばなければ日本市場へ参入できなかったんです。ヒルマンミンクスの他、日産ではオースチンA40、日野自動車ではルノー 4CV、東日本重工(現三菱重工)ではカイザー ヘンリーJなどが、完全ノックダウンで生産されていました。

いずれも本国ではエントリー車にあたるものでしたが、日本では高級車として販売されていました。つまり、戦後間もない頃の日本の自動車産業は“そこまで”のレベルだったわけです。そう考えると、先人たちの偉大さがよくわかります……。完全ノックダウンから部品の国内生産化へと移行し、やがて独自開発へと自動車産業を発展させていったのですから。

ヒルマンミンクスは1953年から生産され、4年後には部品の完全国産化が完了したそうです。以後、いすゞ独自のエンジンチューニングや足回りのセッティングが施されていきました。見つけた中古車は1964年式で、2代目の最終型です。グレードはスタンダードとスーパーデラックスの2種類で、ステーションワゴンモデルもラインナップされていました。搭載していたエンジンは、後期モデルの場合、いずれも1.5Lの直4です(最高出力はグレードごとに異なります)。

過去の資料をめくってみると、1963年には「東京大阪間の595kmを26.04Lで走行」と新聞広告を掲載したこともあるようです。まぁ、かなり本気のエコ走行だったとは思いますが、半世紀以上も前にしては立派な数値だと思います。

▲全長4140mm×全幅1543mm×全高1510mmというコンパクトさや、全幅と全高の数値がほぼ一緒というプロポーションは、今では珍しいです ▲全長4140mm×全幅1543mm×全高1510mmというコンパクトさや、全幅と全高の数値がほぼ一緒というプロポーションは、今では珍しいです
▲スッキリとレイアウトされたインパネは優れたデザインゆえに“普遍性”すら感じさせます ▲スッキリとレイアウトされたインパネは優れたデザインゆえに“普遍性”すら感じさせます

当該中古車、外装はレストア済み、内装はオリジナルコンディションとうたわれていますが、内外装ともに見事な状態が保たれていることがうかがえます。新車時の整備記録簿、取扱い説明書、工具なども揃っています。修復歴はあるようですが、50年以上も前の車ですから、あまり気にしなくてもイイのではないでしょうか?

▲当該中古車は50年以上も前の車なのに、新車時の取扱い説明書や給油ポイントを説明した図解書など、新車時の資料がたくさん! ▲当該中古車は50年以上も前の車なのに、新車時の取扱い説明書や給油ポイントを説明した図解書など、新車時の資料がたくさん!

日本が発展途上国だった頃の、先人たちの血と汗と涙の結晶であり、イギリスの援助あってこその車です。文字どおり、歴史を感じさせてくれます。メンテナンスフリーで乗れるほど気軽な存在ではありませんが、タイムトラベルしたかのごとく別世界を味わえることは間違いありません!

■本体価格(税込):172.0万円 ■支払総額(税込):---
■走行距離:6.1万km ■年式:1964(S39)
■車検:無 ■整備:別(10万8000円) ■保証:無
■地域:群馬

text/古賀貴司(自動車王国)