“▲一見、何の変哲もないカーナビですが……実は30年以上前のものなんです!" ▲一見、何の変哲もないカーナビですが……実は30年以上前のものなんです!

今をときめく最新技術のベースがここにある!?

車の技術は、まさに日進月歩。ものすごいスピードで、進化し続けています。しかし当然、中には人知れず消えていくものもあります。

なくなってしまった理由は様々ですが、中には現在使われている最新技術と遜色なく、むしろ、アンティキティラ島の機械やナスカの地上絵のように「当時の技術でよくここまでできたな~」と驚くものも。今回はそんな生まれてくる時代が早すぎた“車版オーパーツ”を紹介します。

1981年に登場!世界初のカーナビ「エレクトリック・ジャイロケータ」

1981年、ホンダが市場に投入した世界初のカーナビが、この「エレクトリック・ジャイロケータ」。まだGPSが実用化されていない(米軍でGPSが運用され始めたのは1993年)時代のことですよ! ヘリウムガスの慣性力を利用したガスレートジャイロと車速センサーによって自車の位置を導きだし、ブラウン管式の画面に現在地を光の点で表示されるというシステムを採用していますが、この画面には肝心の地図がありません。

「……え? じゃあ、どうやって場所を知るの?」とお思いの方も多いでしょう。なんと地図が描かれた付属のシートをモニターに直接差し込んで使うのです! 現在のカーナビではとても考えられませんが、当時は運転中に地図が手放せなかった時代。とても画期的なシステムだったことでしょう。

ただ、当時のオプション価格で約30万円したこともあり、普及には至りませんでした。使ったことがある人の話によると、自車位置に地図を合わせるのが一苦労だったそうです。

▲はみ出している地図シートは地域ごとに分割されていて、場所を移動したら差し替える仕組み。自車の位置はレーダーのように光の点で表示されます ▲はみ出している地図シートは地域ごとに分割されていて、場所を移動したら差し替える仕組み。自車の位置はレーダーのように光の点で表示されます

コスモスポーツに搭載された“量産型”ロータリーエンジン

マツダのロータリーエンジンも、車版オーパーツと呼ぶに値するシステムのひとつでしょう。おむすび型のローターが回転しながら燃焼するシステムを採用したこのエンジン。マツダの開発陣が苦労に苦労を重ねた末、1967年に発売したコスモスポーツに搭載しました。原理的に優れたエンジンなのは知られていましたが、ホントに実用化できるなんて、当時の自動車関係者は思っていなかったようです。

というのも、低振動でコンパクト、排気量の割に出力が高いというメリットがありましたが、実用化までのハードルがあまりにも高かったからです。1960年代に西ドイツ(当時)のNSUという会社と技術提携してロータリーエンジン開発のライセンスを得たのですが、その試作機はとても市販できるレベルではありませんでした。

“世界初”の称号はそのNSUですが、大規模な量産化にこぎつけただけでなく、ロータリーの実力を世界中に見せつけたマツダの功績はあまりにも大きい! ところが、そのマツダも 2012年、ロータリーエンジン搭載車の生産を終了してしまいました。

▲惜しまれつつも生産を終了したロータリーエンジン。マツダは現在、水素を動力にした水素ロータリーエンジンを開発し、実用化に取り組んでいます ▲惜しまれつつも生産を終了したロータリーエンジン。マツダは現在、水素を動力にした水素ロータリーエンジンを開発し、実用化に取り組んでいます

大排気量FR車に採用されていた「エクストロイドCVT」

今や当たり前の装備になりつつあるCVT(無段変速)。主にコンパクトカーに採用されていますが大排気量車、特にFR車(後輪駆動)ではあまり見かけません。しかし、実は日産がエクストロイドCVTという無段変速機を1999年に開発、実用化していたんです。

この無段変速機は2枚のディスクの間に角度が変わるローラーをサンドイッチした独特な構造を備えていました。一切の変速ショックなく大パワーの車を走らせる快感は、非常にユニーク! メカニズムが複雑であまりに高価だったこと、そもそもFRの乗用車が少なったため、2005年を最後に姿を消しました。

▲セドリック(4代目)をはじめ、この頃にデビューしたFR車にこぞって採用されたエクスロイドCVT。ドライブフィーリングの評判はまずまずだったものの、コストの高さがネックに ▲セドリック(4代目)をはじめ、この頃にデビューしたFR車にこぞって採用されたエクスロイドCVT。ドライブフィーリングの評判はまずまずだったものの、コストの高さがネックに

現行型レクサス GSで復活した「4WS」

普通、ハンドルを切ると前輪の舵が切れます。しかし1980年代後半、前輪だけでなく後輪の舵も切れる4WS(四輪操舵)が登場しました。小回りが利いて、高速走行時に安定するというメリットがあり、当時デビューしたホンダ プレリュード(3代目)や日産 スカイライン(7代目)など、多くの車に採用されました。

実際に運転してみると、ボディの大きい車でもクルクル小回りが利くことに感動します。ハマーやメガクルーザーなどの巨大なSUVでは、特にその恩恵を感じました。

しかし、駐車時も後輪が動くため、何度ハンドルを切っても壁に寄らないというデメリットも。そのため、長らく途絶えていた4WSですが、近年になってレクサス GS(現行型)などの高級車で復活。最新のシミュレーションと制御技術の進歩により、状況に応じて細かいコントロールができるようになりました。

▲4WSは低速時には写真のように後輪を前輪と逆方向に切って小回りよく、高速時には同じ方向に切って安定感を高めます ▲4WSは低速時には写真のように後輪を前輪と逆方向に切って小回りよく、高速時には同じ方向に切って安定感を高めます

2ペダルMTの先駆け的存在だった「NAVi5」

今でこそ欧州車やスポーツカーなどでメジャーになった2ペダル・マニュアル(DCT、デュアル・クラッチ・トランスミッション、セミオートマとも)ですが、いすゞはこのクラッチペダル不要のMTを今から約30年前の1984年にすでに開発していました。F1マシンにセミオートマが初めて投入されたのは1989年ですから、なんと5年も前に市販化していたんです!

その名はズバリ、NAVi5(ナビファイブ)。構造的には一般的なMTと同じ変速機でクラッチ操作を人間のかわりにマイコン(半導体チップ)が担当するというもの。とても斬新な技術でしたが、肝心のいすゞの乗用車販売が奮わなかったため、あっさりフェードアウト。ATのようなクリープがない、坂道などでの変速がドライバーの意図をズレる……など、電子制御技術が未熟だったが故のクセもありました。

しかし、その技術は熟成され、現在も同社で作られたトラックの変速機などに生かされています。

▲いすゞ アスカ(初代)は1984年のマイナーチェンジでNAVi5を搭載。その後、ジェミニ(2代目)、トラックのエルフ(4代目)にも導入されました ▲いすゞ アスカ(初代)は1984年のマイナーチェンジでNAVi5を搭載。その後、ジェミニ(2代目)、トラックのエルフ(4代目)にも導入されました

時代の流れとともに消えていった車版オーパーツですが、こうした技術があったからこそ現在のハイテク装備が生まれたのもまた事実。中にはエレクトリック・ジャイロケータのように今見るとレトロで味があるものも。最新技術もおもしろいですが、過去の技術を振り返ってみるのもまた一興だと思いました。

text/田端邦彦