▲写真はバミューダ・トライアングルとは関係ないアウディ・クワトロのWRC参戦車両。これのベースとなったレアな市販車が筆者の自宅近所にあり、ごくフツーに走り回っている ▲写真はバミューダ・トライアングルとは関係ないアウディ・クワトロのWRC参戦車両。これのベースとなったレアな市販車が筆者の自宅近所にあり、ごくフツーに走り回っている

XMとクアトロ、ランチア・デルタが織りなす「世田谷・魔の三角地帯」

「バミューダ・トライアングル」と呼ばれるエリアがある。フロリダ半島の先端とプエルトリコ、バミューダ諸島を結んだ三角形の海域を通る飛行機や船舶、そして人間がなぜか消失してしまうという「魔の三角海域」だ。まぁ実際は単なる海難事故がたまたま続いただけらしいのだが、それはこの際どうでもいい。申し上げたいのは筆者の自宅近所にある「魔の三角地帯」のことだ。

そこは、常識ある人間であればまず手を出さないであろう「危険なガイシャ」が3台、まるでバミューダ・トライアングルのように配置されていたのだ。

1台は、ランチア デルタHFインテグラーレ以上に危険(=とにかく壊れる)とされているシトロエンのXM。もう1台が、特に悪いうわさは聞かないものの、とにかく古くてレアな80年代のアウディクワトロ。そしてもう1台が筆者のランチア デルタHFインテグラーレだった(筆者のデルタはすでに売却済みではあるが)。「魔の三角地帯」は現時点では残念ながら消滅しているが、筆者のデルタがあった頃は、冗談抜きで禍々しいムードを放っている三角地帯だったのだ。

▲ランチア・デルタと並んで「宇宙一壊れる車」ともいわれているシトロエンXM。実際はどうなんだ? ▲ランチア・デルタと並んで「宇宙一壊れる車」ともいわれているシトロエンXM。実際はどうなんだ?
▲市販車初のスポーツ・フルタイム4WDを採用したアウディ・クワトロ。1980年から1991年にかけて販売された ▲市販車初のスポーツ・フルタイム4WDを採用したアウディ・クワトロ。1980年から1991年にかけて販売された

がしかし、その3台を見て「禍々しい……」「大丈夫なのかこの地区は!?」と思ったのは、おそらくは自動車マニアだけだ。近所のフツーの人々は、その3台に対して「ちょっと変わった車だな」ぐらいの印象の他は何も感じていなかったものと推察される。

なぜならば、その3台ともごくフツーに稼働していたからだ。

筆者の94年式デルタは約2年間、故障らしい故障もなく取材や買い物の足としてフツーに活躍した。そしてシトロエンXMとアウディクワトロの両オーナー氏には話しかけたこともないので詳細は不明だが、おそらくは買い物や友人・恋人らの送迎用マシンとして、2~3日に1回ほどのペースで元気に走り回っている。しばらくの間車庫を留守にして工場に長期入院していたような様子も、少なくとも筆者は確認していない。

我々自動車マニアが心配性すぎるだけなのか?

となれば、車マニアではない近所の人としては「ちょっと変わったガイシャが、フツーに使われている」という印象以外は持ちようがない。たぶんだが両車のオーナーさん自身も、そんな感じでフツーに使っていたのだろう。無駄にドキドキハラハラしているのはわたくしのような周囲のマニアだけである。

もちろん、この限られた事例だけで「シトロエンXMだって80年代のクワトロだって、実は全然オッケーなんだよ。言われてるほど壊れるもんじゃないんだよ。だから気軽に買おうぜ! オーイエー!」と言い切るのはあまりにも無責任だろう。それなりのリスクは織り込み済みで購入すべき車であることは間違いない。

しかし……のんびりと平和そうな顔でXMとクワトロをブロロロンと走らせている両オーナーさんの姿を見ると、肩すかしを食らったような感じというか何というか、肩に入っていた力がスッと抜けるのも確かだ。

蛇足だが、筆者が94年式デルタを売却したことで「魔の三角地帯」は一時的に消滅したが、その後、空いていた月極駐車場にR129型M・ベンツ600SLのフルノーマル車が置かれるようになり、新たな魔の三角地帯が形成された。600SLも、魔性のV12(性能が魔性なのではなく、壊れると大変という意味での魔性)を搭載する、悪いうわさもいろいろある車だ。が、そのオーナーさんもどうやらごくフツーに600SLをブロロロンと走らせている模様。人生いろいろ、車生活もいろいろである。

▲魔性のV12を搭載するM・ベンツ600SLが世田谷・魔の三角地帯に登場。今のところ至って元気な模様だが ▲魔性のV12を搭載するM・ベンツ600SLが世田谷・魔の三角地帯に登場。今のところ至って元気な模様だが

ということで今回のわたくしからのオススメは(や、決して気軽にオススメするわけではないのだが)、「危険な香りとうわさを伴う輸入車」だ。

text/伊達軍曹