▲筆者のシトロエン2CVの横に佇む日産キューブ。キューブは大変素晴らしい実用車で「これぞ現代の2CV!」と思ったが、国産車アレルギーな人には勧めにくいのが唯一の難点 ▲筆者のシトロエン2CVの横に佇む日産キューブ。キューブは大変素晴らしい実用車で「これぞ現代の2CV!」と思ったが、国産車アレルギーな人には勧めにくいのが唯一の難点

リアル2CVで行く真夏の渋滞はプチ臨死体験

いささか古い物で恐縮だが、写真は数年前、筆者がシトロエン2CVを所有していた頃、日産自動車さまから短期的に借用した現行キューブを2CVの横で保管していた際のものである。このときに確信したのは「日産 キューブこそ現代のシトロエン2CVである!」ということだった。

ご承知のとおりシトロエン2CVとは、「こうもり傘に4つの車輪を付ける」という簡潔さを基本コンセプトとしたミニマリズムの極致。そんな2CVのミニマリズムとほぼ似たような美しさを、筆者は日産 キューブに見たのだ。特に、「どうってことない作りなのに妙に座り心地がいい」という日産 キューブのシートは、シトロエン2CVのシートと形状的にはまったく似ていないが本質的にはそっくりだ。全体的に洒落てもいて、それでいて新車価格は安い。中古車であればさらに激安だ。

……素晴らしいじゃないか日産キューブ! ということで皆さん、日産キューブをぜひ買いましょう!……と話を終わらせてもいいのだが、なかなかそうもいかない部分はある。「国産車アレルギー」の問題だ。

世の中には、筆者を含め「どうしても国産車を買えない人」がいる。頭では、最近の日本車のほうが輸入車より上な部分も多い……ということをわかっているが、なぜか「じゃ、次は国産車にするか」とは思えない、ある種の病である。となれば、そんな人に日産キューブを勧めるのは甚だ不毛であり、輸入車を勧めるほかない。そしてシトロエン2CVは今なお多数流通しているので、「2CV的な車が欲しいなら、2CVそのものを買えばいい」という展開にもなる。が、それでも結構な問題は残る。「日本の夏問題」だ。

一部地域を除いてクソ暑く湿度の高い日本の夏を、エアコンなしのシトロエン2CVで過ごすのは非常に危険である。もちろん、「クソ暑い日中は別の車に乗り、夕方以降は2CVに乗る」という使い方をしている人も大勢いることは知っているが、2CV単騎での日本の夏はとにかくヤバい。

▲真夏の週末に、エアコンのないシトロエン2CVで行楽地に突撃してみた筆者。微速でも前進している限りは前方の穴ぼこや窓から気持ちいい風が入ってくるのだが…… ▲真夏の週末に、エアコンのないシトロエン2CVで行楽地に突撃してみた筆者。微速でも前進している限りは前方の穴ぼこや窓から気持ちいい風が入ってくるのだが……

筆者は、「30℃超の真夏日に2CVで行楽地に突撃すると、人間はどうなるか?」というテストを勝手に行ってみた。混雑している週末、東京から湘南・鎌倉へと突撃したのだ。ごく低速でも前進している限り、2CVは意外と快適だ。開け放った窓や、前方に開いているダクトからかなりいい風が入ってくるのだ。しかし、いざ渋滞にハマると車内は完全な蒸し風呂と化す。下の写真のとおり渋滞時の車内温度は40℃を超え、若干の身の危険を感じたものだ。わたしは酔狂でこれを行ったが、人に勧めようとは思わない。

▲渋滞してしまうと途端に車内は手元の温度計で40℃を超えてしまう。スポーツ飲料をがぶ飲みしながら走行を続けたが、翌日以降も身体にダルさが残った ▲渋滞してしまうと途端に車内は手元の温度計で40℃を超えてしまう。スポーツ飲料をがぶ飲みしながら走行を続けたが、翌日以降も身体にダルさが残った

狙い目は昨今安くなったup!と初代カングーか

ということで、勧めたいのはやはり現代の輸入車だ。エアコンが普通に付いていて、それでいて一切の虚飾を排した、まるで2CVのような、まるで日本の古い茶室のような、詫びたヨーロッパ製小型実用車。……だが、それがなかなか見当たらないのだ。

もちろん、今流通している大抵のヨーロッパ製小型実用車は大抵フツーに優秀だ。しかし、「一切の虚飾を排した、まるで日本の古い茶室にいるような」という車がなかなかない。具体的な車名を出してしまい恐縮だが、例えばプジョーの207も208も大変ステキな実用コンパクトカーだが、いろいろとゴテゴテはしているため「茶室感」には乏しい。プジョーだけでなくドイツ物でもイタリア物でも、最近のコンパクトカーはどれもある意味似たようなものだ。

そんな状況の中で強いて挙げるとするならば、まず一つはフォルクスワーゲンのup!だろうか。親の敵のようにドリンクホルダーがひたすら付いている日本のコンパクトカーに慣れている人が乗ると「……ナメとんのかコラ」と凄みたくなるほど装備は簡素だが、いざ走りだすと「人間、起きて半畳寝て一畳! 必要なモノはすべてココにあるぜ!」と叫びたくなるほどの本格感にあふれているup!は、「現代の2CV」と言えなくもない。最近は走行1万kmにも満たない中古車を総額120万円以下で十分探せるので、そのあたりの「安さ」も往年のシトロエン2CVの基本コンセプトに通じるものがある。

▲装備はひたすら簡素だが、高速道路ではサイズやクラスを忘れさせるほど本格的な走りっぷりとなるフォルクスワーゲンup!は、「現代の2CV」の一つだ ▲装備はひたすら簡素だが、高速道路ではサイズやクラスを忘れさせるほど本格的な走りっぷりとなるフォルクスワーゲンup!は、「現代の2CV」の一つだ

また、ルノーの初代カングーも「現代の2CV」的ではあるだろう。シートの柄などにアンチ・ミニマリズムというか「虚飾を排してない感」を感じてしまうが、基本的には何の変哲もない実用一辺倒のフルゴネットで、しかし走りは超本格派である点に2CVの息吹を感じる。走行距離がかなり多めの物件は依然から爆安化していたが、ここ最近は比較的距離少なめの物件でも総額120万円以内で探せる状況になってきているので、「エアコンがフツーに利く2CV」を探している人は、初代カングーの中古物件をチェックするのも一興である。

▲「現代の2CV」と呼ぶにはややデコラティブ(装飾的)かもしれないが、高い実用性としっかりした走りが融合している点は非常に2CV的な初代ルノーカングー ▲「現代の2CV」と呼ぶにはややデコラティブ(装飾的)かもしれないが、高い実用性としっかりした走りが融合している点は非常に2CV的な初代ルノーカングー

ということで今回のわたしのオススメは、ずばりフォルクスワーゲンup!とルノーの初代カングーだ。

text/伊達軍曹