原稿執筆時点でカーセンサーnetに1台のみ掲載されている希少車を紹介するこの企画。今回、2013年3月25日に発見したのは「ポルシェ 912」です。「911のルックスだけど912?」と思った方も多いのではないでしょうか。912は、911と同じボディをまとった、当時(1965年)のポルシェにおけるエントリーモデルです。

912が911と同じデザインなのは、次のような理由があります。911は356の後継車として投入されたモデルだったのですが、車両価格が356の約4割増しでした。一気に価格が高くなってしまい、ポルシェは顧客を失うことを危惧しました。それを防ぐ対策として、ポルシェは「356最終型のエンジンを搭載して装備内容を簡素化したものを356と同じような値段で売ろう」という作戦をとったんです(笑)。

よって912が搭載しているのは911の6気筒水平対向エンジンではなく、4気筒水平対向エンジンです。トランスミッションは911では5速MTが標準装備でしたが、912では4速MTが標準装備で5速MTはオプション設定でした。ステアリングホイールもウッドではなくプラスチックですし、メーターパネルは911の5連ではなく3連式です。

動力性能は当然、911には及びませんが、911と同じルックスで低価格、かつ1.6Lという小排気量エンジンならではの低燃費と軽量(前後の重量バランスが良くハンドリングも優れていたとか)という魅力もあって、デビューから数年は911の販売を上回る勢いでした。1969年7月まで生産されていましたが、3万台強も作られヨーロッパの一部ではパトカーとして採用されていたほどです。

当該車両を見てみると、アメリカから並行輸入されたもののようで、ポルシェカーズ・ノースアメリカによる車体番号やエンジン番号など正規の車両であること示す証明書が付いています。保管状態の良さは写真を見ればすぐにわかると思いますし、エンジンを2010年にオーバーホールしたようなので、しばらくは安心できるでしょう。カーステレオ以外は、歴代オーナーが“素”の状態を維持していたようで、オリジナルが好みの人にはもってこいの物件です。

911なんだけど911じゃない、というユニークな生い立ち。快適装備は一切ないけれども、素のポルシェ車がもたらすドライビングプレジャー。日本で走っている圧倒的な台数の少なさ。912にひかれる理由は様々あると思います。358万円といえば996後期型が狙える予算でもありますが、普遍的な魅力は912に勝ることはないと私は思います。

今の車は時間とともに中途半端な古さが魅力を失わせてしまいます。しかし、912のように“しっかり古い(47年落ち)”と解脱感たっぷりで、逆に魅力が増します。原点回帰じゃありませんが、こういう素のポルシェ車の魅力はポルシェ好きなら一度味わっておくべきかもしれません。

Text/古賀貴司(自動車王国)

ポルシェ 912

ポルシェ 912

本体価格(税込)358.0万円
支払総額(税込)---万円
走行距離7.4万km
年式1966(S41)年式
車検国内未登録
整備
保証
地域愛知