▲高速道路を降りずにおいしいモノを食べられる時代だが、せっかく遠方まで車で出向いたなら、その街でしか味わえない「超地元の味」を体験したいところ。写真は静岡県富士市「かつ膳」のとんかつ定食(上) ▲高速道路を降りずにおいしいモノを食べられる時代だが、せっかく遠方まで車で出向いたなら、その街でしか味わえない「超地元の味」を体験したいところ。写真は静岡県富士市「かつ膳」のとんかつ定食(上)

絶妙すぎる薄衣と激美味ロース肉のハーモニーは「路面の名店」ならでは

最近は高速道路のSA・PAも昔と違い、様々な趣向をこらした有名テナントが入っているため、高速道路を降りずして上質なグルメやエンタメを堪能することができる。それはそれでいいのだが、個人的な嗜好としては、せっかく遠方まで行ったなら大規模で(やや)画一的なSA・PAではなく、「路面のジモティな名店」で、絶対にその土地でしか食べられないモノを食べたいと思っている。

筆者のそんな考え方にもしもご賛同いただけて、なおかつ、あなたがドライブ中たまたま東名高速か新東名高速の静岡県富士市付近でお腹がすいたとしたら、ぜひ高速道路を「ぶらり途中下車」していただき、立ち寄ってほしい「路面のジモティな名店」がある。

「静岡県東部のとんかつ界では最強店のひとつ」との呼び声高い、富士市今泉の「かつ膳」だ。

かつ膳に行く場合は新東名の新富士ICより東名高速富士ICの方が近く、筆者の計測によれば、渋滞さえなければ富士ICから車で5~6分にて到着する。道路に面するかつ膳の店舗は、ビジュアル的にはごく一般的な町のとんかつ屋さんといった感じなため「……ここが本当に名店なのか?」と一瞬不安に思うかもしれないが、大丈夫だ。店舗駐車場に車を停めて迷わず入店しよう。

ちなみに店内は揚げ物屋さんなのにまったくギトギトベトベトしておらず、厨房内の換気扇なども超絶ピカピカに磨き上げられている。それだけでも、「タダ者じゃないな、この店……」ということは何となく伝わるはず。

▲東名高速富士ICから車で南東方向へ向かうこと5~6分ほどで現れる「かつ膳」。シブいたたずまいだ ▲東名高速富士ICから車で南東方向へ向かうこと5~6分ほどで現れる「かつ膳」。シブいたたずまいだ

メニューは豊富で、筆者知人の静岡ケンミンいわく「何を頼んでもおいしい」とのことだが、やはり最初は主たる商品であるとんかつを頼みたい。取材当日、筆者が注文したのは「とんかつ定食 (上)」(税込1900円)。こちらは要するにロースカツ定食のボリューミー仕様で、肉のサイズが標準で構わないなら税込1360円の「とんかつ定食」でもOKだろう。

ホールを1人でまかなう女将さんに注文し、しばし待つ。かなりの厚切りであり(とんかつ定食(上)の場合、筆者の目分量による計測でおおむね2.5cmの厚み)、それを大型フライヤーではなくフライパンに入れ、少量の油(ラードか溶かしバターかも?)でじっくり揚げるため、それなりに時間はかかる。とはいえ筆者が待ったのはせいぜい15分ぐらい。食欲を増幅させるちょうどいい「イントロ」程度だ。

そして、出てきたとんかつ定食(上)は……絶妙すぎる薄衣!

▲いわゆるパン粉がどっさり付いたアレとはそもそも違うかつ膳の衣。ミラノ風カツレツに近いニュアンス? ▲いわゆるパン粉がどっさり付いたアレとはそもそも違うかつ膳の衣。ミラノ風カツレツに近いニュアンス?

当然ながらフツーのパン粉を大量にまぶした下品な仕上がりではなく、かといって「パリパリの固すぎ」といったニュアンスでもない。クリスピーでありつつもほんのりウェットな、そして(たぶん)溶かしバターの香りがほのかに漂う、もうこれだけで食欲MAXになってしまいそうな絶妙衣である。で、中はほんのりとピンクがかった、これまた絶妙すぎる火の通し方。……達人としか言いようがない。

知人に教わったとおり、まずは何も付けずに1切れいただく(肉に塩コショウの下味がけっこうしっかり付いているのだ)。……うまし! 厚さ約2.5cmのロース肉は非常にやわらかくジューシーなのだが、ただ柔らかいだけではなく、しっかりとした歯ごたえもある。

そして噛めば噛むほどに湧き出てくるこの旨味。……それが、前述のクリスピーな薄衣の感触と絶妙なハーモニーを織りなしている。ひとことで言うなら「うまいぜベイビー!」ということだ。

お次は卓上にある塩を少々振っていただいてみる。うん、これもうまい! 塩気が増すというよりも、どういうメカニズムかは知らないが「よりスッキリした味わいになる」という感じだ。さっぱり系の味がお好きな人は「塩+カラシ」のコンビネーションで攻めるのが最高かもしれない。

しかし筆者はガッツリ系を好む「男のド真ん中」であるため、最後はやはりソースもかけてみたい。色味としては「黒」に近い特製ソースは非常にスパイシー。しかしこれも「単にスパイシー」「スパイシーすぎる」という感じではなく、程よい塩梅を見切っている。

で、それをかけて(もちろんカラシもたっぷり付けて)いただくと……うむ、やっぱりコレでしょ! というお味。程よくスパイシーなソースが肉と衣をやさしく包むことで、最高の三位一体が完成したのだ(ただ、今さらだがソース無しの上品な味もかなり捨てがたいです)。

▲何もかけずに、あるいは塩だけで食べても十分以上にうまいが、スパイシーな特製ソースをかけると……これまたうまい! ▲何もかけずに、あるいは塩だけで食べても十分以上にうまいが、スパイシーな特製ソースをかけると……これまたうまい!

付け合わせのスパゲティサラダも「付け合わせ」のレベルを超えた味とビジュアル。ややあっさりめの赤だし味噌汁もかなり美味で、そして山盛りのキャベツも炊きたてのご飯もナイスだ。

さらにいえば、父子2人の調理人もホール担当の女将さんも「明るく元気でホスピタリティ全開!」という感じのお人ではないとお見受けしたが、かといってサービスが悪いとか愛想がないということは一切なく、町のとんかつ屋さんとしての静かな、心のこもったサービスを提供していただいた。大満足である。

最新のSA・PAもいいが、やはりこういった地場のお店も素晴らしい。ぜひ、時間があるときは「高速道路のぶらり途中下車」をしてみることをオススメしたい。そういえばココのとんかつはかなりボリューミーなのに、普段はとんかつを食べると必ず後で胃がもたれてしまう四十路の筆者が、まったく胃もたれしなかったことも、併せてご報告しておく。

▲店舗前には3台分の駐車スペースしかないが、店舗すぐ隣の民家前にも3台分の無料駐車場あり ▲店舗前には3台分の駐車スペースしかないが、店舗すぐ隣の民家前にも3台分の無料駐車場あり

■かつ膳
住所: 静岡県富士市今泉8-16-49
営業時間:11時30分~14時 17時~22時20分(L.O)
定休日:水曜日
※2015年10月16日時点の情報です。上記は変更される可能性があります。ご了承ください

text/伊達軍曹