ポルシェ911、レクサスRX ▲ガレージを囲むようなグレーの部分とそれを左で支えるコの字の部分が「この家の門構えに相当する」と建築家の筒井さん。門構えの先、左奥に玄関があり、その手前は洗車用のスペース

愛車を収めるだけでなく、遊び場としても活躍する場所

ガレージ、リビング、ダイニング、キッチン……それぞれの用途に沿った、様々なカタチをもつ空間=キューブ(立方体)の集合体。それが建築家の筒井紀博さんが描いた伊勢崎の家だ。

前面の道路からは、ガレージと玄関しか見えないため、一見しただけでは敷地が500㎡(約151坪)もあるとはわからない。しかし、実はいくつものキューブが奥へ50mほど連なっている。

キューブとキューブの境目の所々に配されているのは中庭だ。これを筒井さんは「余白」と呼ぶ。

「なくても不便はありませんが、例えばリビングの隣に中庭があることで、夜、リビングでテレビを見ているときに、ふと中庭の方を見上げたら、まん丸い月が浮かんでいることに気づく。そんなちょっとした感動を与えてくれます」と筒井さん。

そんな余白が、生活の質を高くするのだという。

キューブと中庭の配置にも筒井さんはこだわった。これだけ奥に長い敷地だと、長い廊下を取ってしまいがちだが「単に廊下を進むのって退屈だと思うんです」

そこでキューブと中庭の配置の工夫で、廊下は最小限に。玄関とリビングを結ぶ間にはわずかに廊下があるが、そこには中庭があり、「中庭の紅葉が色づき始めたことに気づくとか、木陰が床に揺れる影をつくるとか、いろいろな発見があると思います」

“ガレージ”というキューブは家の正面に置かれた。しかし“家の顔”としての役割は、さらに手前に配されたグレーと白のフレームが担う。

外部と内部を混在させる、そんな役割だという。実際、施主はガレージのオーバースライダーを上げ、ガレージ内側とフレームより手前を広く使って、近くに住む親戚たちとよくバーベキューを楽しむそう。家の外と内が混在することで、楽しみを生むのだ。

一方で内に閉じたときのガレージは、目を離すことができない子供たちの、雨の日の格好の遊び場になり、夏はプールを置いて水遊び場にもなる。

ガレージは、車を止めるだけではなく、そうした用途もカタチにしたキューブなのだ。
 

ポルシェ911、レクサスRX ▲玄関からシューズクローゼットを通ってガレージにつながる。写真はそのドアからの眺め。「雨でも濡れずに済むので便利」と奥さん
ポルシェ911、レクサスRX ▲木造だが、上に何もないため広く2台分の開口が取れたガレージ。オーバースライダーは静かで見た目もカッコいいからと、施主のリクエスト
筒井紀博空間工房 ▲ガレージ内の収納部分。ガレージで子供たちが遊ぶための乗りものやプール、親戚と楽しむためのBBQ道具などが置かれている

個性ある空間が立体的に、機能的に積み重なる

外と内との混在は家の中にも。

「カーテンのいらない暮らし」と語る筒井さんの言葉には、「カーテンを閉めなくても、外からのぞかれる心配はない」ことと、「カーテンを開けなくても、外の自然を感じられる」という両方の意味がある。

それを可能にしているのが、中庭と各キューブの絶妙な配置だ。

家の外に向かって窓を設けなくても、それぞれの中庭から日が差し込み、空が見え、時間や季節の移り変わりがわかる。

外を拒絶するでもなく、内を開け放つでもなく、約50mにわたり絶妙に混在。伊勢崎のキューブの集合体には、そんな外と内を上手く取り入れる仕掛けが満載されている。
 

筒井紀博空間工房 ▲ガレージで洗車すると湿気がこもりがちに。そこで玄関アプローチを洗車場としても兼用できる専用スペースを設けている
筒井紀博空間工房 ▲施主の要望のひとつ、ピットリビング(床を他よりも下げて作るリビング)。低い視点から中庭を通して空を見上げられるくつろぎの場所だ
筒井紀博空間工房 ▲土玄関の先には和室があり、隣に中庭、奥にリビング、キッチンと空間がつながる。キッチンからはリビングや中庭で遊ぶ子供たちを見渡せる
筒井紀博空間工房 ▲リビングの横にある中庭には、施主と筒井さんが一緒に市場まで出かけて選んだイロハモミジが植えられている。四季を感じやすい落葉樹だ

■所在地:群馬県伊勢崎市
■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:500.00 ㎡
■建築面積:177.62 ㎡
■延床面積:214.88 ㎡
■施工:竹並建設
■設計・監理:筒井紀博(筒井紀博空間工房)
■TEL:03-3247-8922

※カーセンサーEDGE 2020年10月号(2020年8月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/尾形和美