キャデラック デ・ビル

【連載:どんな車と、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

古き良きアメリカに憧れて

小江戸と呼ばれる、昔ながらの風情漂う川越(埼玉県)の通りに、巨大なアメ車が2台、ドロドロとV8エンジンならではの重低音を響かせながら現れた。

江戸時代に60年代のアメ車が時空を超えて迷い込んだかのような、まるで映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の一場面みたいな不思議な光景だった。

67年式のキャデラック デ・ビルコンバーチブルに乗るのは、橋本潤一さん(57歳)。若葉マークも初々しい(?)58年式のデ・ビルクーペは、息子の凛太郎さん(19歳)である。

橋本さんは、中学生の頃に雑誌や映画で触れたアメリカンカルチャーに憧れ、以来ずっと、古き良きアメリカのライフスタイルにこだわって生きてきた。

「『アメリカン・グラフィティ』を見て、まずは音楽やファッションにハマりました。仲間とバンドを組んで、もちろんデカいアメ車にも憧れて、18歳で免許を取って、即……」

即、とはいかず、まずは安い国産の旧車を乗り継いで、橋本さんは20代半ばで念願のアメ車を個人売買で手に入れる。

「結婚を機に国産車に戻ったりもしましたが、やっぱりアメ車だということで、中古の88年式のキャデラックのエルドラドを購入して、その後キャデラックのフリートウッドを買い足し(!)たりして、それからずっとアメ車ひと筋です」

5年前に、67年式のデ・ビルコンバーチブルと出会った。しかし、今もエルドラドとフリートウッドはナンバーを切った状態で保存されている。

「アメリカの文化の象徴でもある車を、次の世代に残していきたいんです。若い人たちに、こんなカッコいい車やカルチャーがあったんだよ、と伝えたい」
 

キャデラック デ・ビル▲日本の古い街並みに佇む巨大なアメ車。この2台もまたアメリカの伝統文化である
キャデラック デ・ビル▲60年代に入るとテールフィンは小さくなり、ボディのシルエットも薄く平たくなった。父には、そのシャープなデザインがカッコいい
キャデラック デ・ビル▲幌はいつも開けて乗る。AFN(在日米軍向けラジオ局)を聴きながら、時には通勤にも使っている

カッコいいものは、カッコいい

そんな父の背中を見ながら育ったのが、凛太郎さん。彼もまた高校時代にロカビリーバンドを結成し、免許を取得すると真っ先に大きなアメ車を手に入れた。
 

キャデラック デ・ビル▲50’s好きの凛太郎さんは、58年式のデ・ビルクーペ。初心者マークが小さく見える

「僕は、キャデラックを揺りかごに育てられたようなものですから。子守歌はプレスリーで(笑)、アメリカの特に50年代の音楽やデザインが大好きです」

大学で英語を学ぶ凛太郎さんの夢は、アメリカに留学すること。そして、プロのロカビリー歌手になること。
 

キャデラック デ・ビル▲どうしてもこの車を手に入れたくて、高校の時からアルバイトをして頭金を貯めた

デ・ビルクーペに乗っていて「素敵ねぇ」と声をかけてくれるのは、ほとんどが中高年世代。自慢の愛車も、今どきの若い女の子にはあまりウケないようだが、そんなことは気にしない。

カッコいいものは、カッコいい。自分のスタイルが、まわりに流されてブレることはない。どうやら息子が父から受け継いだのは、その一途さのようだ。

「本当はフツーの車に乗ってほしいんですけどね(笑)。でもアメ車の素晴らしさを、またその先の世代につなげてくれたら嬉しい。くれぐれも、安全運転で」と橋本さんはかたわらでほほ笑む。

アメ車を愛する父と息子。違いがあるとすれば、父がボディのヤレもまた味わいとして愛でているのに対して、息子は毎晩ボディをピカピカに磨き込んでいるところか。父も若い頃にはそうしていたように。
 

キャデラック デ・ビル▲50年代のアメ車は、まるでクジラのような巨大さ。息子には、それがたまらなくカッコいい。ボディ全体を磨き上げるのは大変だけど

ずっとアメ車に乗り続けます

それにしても、なぜ、そこまでアメ車なのだろう?

「カッコいいから、と答えるしかないですね。そのカッコよさに憧れて、自分も精いっぱいカッコつけて生きてきた気がします。それは、これからも変わらない。だから、ずっとアメ車に乗り続けます、きっと」

「そんな父をカッコいいと思います。自分もアメ車に乗って、ロカビリーを唄いながらカッコいい年の取り方をしたい」

カッコいいのは車だけでなく、なにより自分の好きなスタイルにこだわり続ける、橋本さん親子の一途な生き方そのものだ。
 

キャデラック デ・ビル▲まさか、息子が運転するキャデラックのリアシートに座れる夜がくるなんて

インターネットのおかげで、昔に比べれば情報の収集や部品の調達が楽になった。今こそ古い車との生活をエンジョイできる時代なのかもしれない。

今なら、まだあの頃の夢を手に入れられる。

一途な思いさえあれば。
 

文/夢野忠則、写真/阿部昌也
キャデラック デ・ビル

橋本潤一さんのマイカーレビュー

キャデラック デ・ビルコンバーチブル(67年式)

●購入金額/約150万円(直すのに同じくらいの金額がかかりました(笑))
●年間走行距離/約3000km
●購入する際に比較した車/70年代のキャデラック
●マイカーの好きなところ/コンバーチブルなところ。全体的な雰囲気も好きです
●マイカーの愛すべきダメなところ/強いて言えば、故障が多いのと燃費の悪さ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/この手の車なので覚悟のある方なら(笑)

キャデラック デ・ビル

橋本凛太郎さんのマイカーレビュー

キャデラック デ・ビルクーペ(58年式)

●購入金額/ひみつ
●年間走行距離/約4000km
●購入する際に比較した車/無し。この車に絞って探していました
●マイカーの好きなところ/50年代らしいスタイリング
●マイカーの愛すべきダメなところ/故障で手がかかりますが、逆に愛着が湧きます
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/一筋縄では乗れない車なので本当に好きな人ならオススメです

夢野忠則

インタビュアー

夢野忠則

自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。愛車は1万円で買った90年式のフォルクスワーゲン ゴルフ2と、数台のビンテージバイク(自転車)。