夫婦の仲を取り持つのは、とことんイジり倒した幸せの黄色いシルビア
2020/02/08
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
指輪より、車高調!
ご主人が車好きな場合のご夫婦には、2通りのパターンがあるようだ。
夫の趣味に対して妻はまったくノータッチというか無関心なパターンと、妻もまた夫に負けず劣らずの車好き、というパターン。
多くの場合は前者で、お互いの趣味に立ち入らないことで夫婦関係のバランスが保たれていたりする。さて、後者の場合はどうだろう?
根っからの車好きである松井祐一さんと、夫と一緒になって車をイジってしまう奥さまの里香さんへの取材は、最初から最後まで笑い声の絶えない楽しい時間となった。
松井ご夫妻の愛車は、日産 シルビア(S15)。平成11年式のノーマル車両を15年前に手に入れて、コツコツとモディファイを重ねながら今の姿になった。
「走行距離が16万km(現在は22万km)の時にエンジンをオーバーホールして、ミッションも6速クロスに交換しました。内装の貼り替えは妻が、センターコンソールへのカーボンシートの貼り込みは苦労しながら2人でやったんですよ」
「私は普段はワゴンRに乗っています。そちらもエンジンからブレーキ、足回りとかなりイジってます。えぇ、私の好みで。主人には、指輪より車高調が欲しい! と頼んだりして(笑)」
重要なのは、維持費よりもイジ費?
独身時代はシルビアのS13に乗ってらした祐一さんだが、結婚して子供が生まれたこともあり、ベビーカーが積めるようにとミニバンへ。
「ミニバンはノーマルで乗るって約束だったのに、気がつけばフルエアロ、ローダウンなどカスタム三昧。その時にあきらめました。そんなに好きなら、存分にやればって。子供にオモチャを与える気分でした」
と笑う里香さんだが、彼女自身も、もともとお父さんが車好きで、幼い頃から“ご近所とはちょっと違う車”に囲まれて育ってきた。
娘は父親似の男性に惹かれる、という話をどこかで読んだことがあるが、まさにそういうことなのだろう。里香さんの血筋が騒ぎ始めた。ノーマルの車が、つまらなく思えてきた。
ミニバンに6年乗って、ベビーカーを積む必要もなくなった松井夫妻は、次なる愛車選びへ。
候補はR34のGTRか、シルビアのS15。その時には、すでに子供たちもフツーの乗用車はフカフカすぎて気持ちが悪くなる、と言い始めていた。
GTRは車両価格が高いから、あまりモディファイにお金をかけられない。ならばシルビアを安く手に入れて、とことんイジり倒した方が楽しい。夫婦の思惑は一致した。
松井家においては、重要なのは維持費よりもイジ費なのである。
いつまでも車好きでいてほしい
「車を単なる移動手段だと思ったことはないですね。自分の身体の一部というか、もはや空気みたいなもので、車のない人生は考えられません」と祐一さん。
だからこそ、里香さんはそんな夫の人生をともに楽しんでいらっしゃるのだろう。
お互いの趣味に立ち入らないことで上手くいく夫婦もいれば、一緒に向き合い笑い合うことで育まれていく幸せもある。
ご主人に、なにか伝えたいメッセージはありますか? と尋ねると、里香さんはこうおっしゃった。
「いつまでも車好きでいてほしい。もういい年だから、なんて言わないで」
夫が、いつまでも夫らしくあり続けることを願う妻。きっと里香さんは、車が好きというより、祐一さんが好きな車を自分も愛していらっしゃるのだ。
「年を取ったらキャンピングカーを手に入れて、2人で旅に出るのもいいわね」
では、ご主人から奥さまへのメッセージは?
「メッセージもなにも、感謝しかありません」
編集者、カメラマン、その場に居合わせた妻帯者たちが全員、深くうなずいたのは言うまでもない。
近々、同色でオールペンされるらしい幸せの黄色いシルビアは、まだまだ、いや、さらに輝きを増して、これからも走り続けるだろう。
指輪より、もっと大切な四つの輪っかを回しながら。
松井祐一さんのマイカーレビュー
日産 シルビア(7代目)
●購入金額/約180万円
●年間走行距離/約1万㎞
●購入する際に比較した車/R34 GT-R
●マイカーの好きなところ/顔つき
●マイカーの愛すべきダメなところ/ダメな所はすべて治療済みです(笑)。強いて言うなら塗装がやれていること
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/維持費がかかるので奥さん、彼女に理解がある人(笑)
インタビュアー
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。愛車は1万円で買った90年式のフォルクスワーゲン ゴルフ2と、数台のビンテージバイク(自転車)。
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