一緒に過ごして12年。フォルクスワーゲン タイプIIとビンテージギアに囲まれて過ごす、至福のアウトドアライフ
2019/12/11

車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
緑の中で映える、少しくすんだ赤いタイプII
緑の芝生が広がる郊外のキャンプ場。その隅に1台のワーゲンバスが止まっている。
“アーリーレイト”と呼ばれる1971年式のフォルクスワーゲン タイプII。経年劣化で少しくすんだ赤い色が使い込んだ道具のような雰囲気で、芝生や木々によく映える。
オーナーの金子栄一さんは週末になるとこの場所で、時には気の合う仲間と、時には1人で、アウトドアライフを楽しんでいる。


金子さんの仕事は照明/音響技師。平日は朝から夜遅くまでスタジオにこもっているので、太陽をほとんど見ることができない。
だから、週末は自然の中で太陽の光を浴びてリフレッシュしているのだという。
若い頃は、ルノー サンクターボやトヨタ スターレット(KP61)など、ボーイズレーサーと呼ばれるハッチバックで走りを楽しんでいた。
その後、結婚して子供が生まれてから、ホンダ ステップワゴンやS-MX、フォルクスワーゲン ヴァナゴンにルーフボックスを載せてファミリーキャンプを楽しむように。金子さんの人生を変える出来事が起こったのはこの頃だった。
それは、いつものように家族でキャンプを楽しんでいたときのこと。隣のサイトが夜でもすごく明るいことを不思議に思った。
そこで隣でキャンプを楽しむグループに話しかけてみると、彼らはビンテージのガソリンランタンを使っているという。
照明技師という仕事柄もあり、光に対する興味が人一倍の金子さんは明るくも優しい光を放つランタンの魅力に取りつかれ、コールマンを中心にビンテージランタンをコレクションするように。
その数は200個にも及ぶという。
しかし、子供が大きくなりファミリーキャンプを楽しむ機会が減ったため、金子さんは自宅でランタンを眺める暮らしが続いていた。

うちに車はいらない。この一言でスタートした旧車ライフ
そんなとき、キャンプ好きが集まるインターネットの掲示板を発見。
最初はROMっていたが、やがて自分も発言しオフ会のキャンプにも参加するようになった。
そしてビンテージのキャンプ道具を愛する仲間が増えていった。
「仲間とフォルクスワーゲンのイベントに遊びに行ったら、すごくかわいいタイプIIがフリーマーケットに参加しているのを見かけました。
『いつかこういうのに乗れたらいいな』と思いましたね。
そのときは憧れくらいだったのですが、数年後にフォルクスワーゲンの専門誌を見ていたら、僕がイベントで見たタイプIIがたまたま売りに出ていたんです。
運命的なものを感じ、すぐにショップに足を運びその日のうちに購入を決めました」
購入時、金子さんは家族に古いタイプIIに乗り替えるという話を一切しておらず、奥さまには「タイプIIは友人からの預かり物だ」と偽った。
そうして、しばらくはヴァナゴンとタイプIIの2台持ちの生活が続いた。
「数ヵ月経って、『なんかかわいいし、友人からこれ買っちゃおうかな……』と話しました(笑)。そこで『買っちゃえばいいじゃん!』と言ってもらいたかったのですが、逆に『もううちに車はいらないじゃん』と言われたんです」
やはり奥さまを説得後に、古いタイプIIに乗り替えることになったのかと思いきや、
「実は、この言葉が妻からのOKサインだったんですよ」
金子さん夫婦はもう子供も大きくなったし、仕事で車が必要なわけではない。
もう“日常の足”として使う車はなくても大丈夫だから、あなたの好きにすればいい……ということだったのだ。
粋な奥さまだ。

タイプIIと一緒に年を重ねることを楽しみたい
それから12年。金子さんはタイプIIと、のんびりとしたアウトドアライフを心から楽しんでいる。
金子さんにとって車は家族の中にあるものから、自分だけの時間を満喫するための嗜好品に変わった。
「タイプIIで出かけるのは、好きなお酒を味わうのと同じ感覚。ワイン好きもいれば日本酒好きもいて、その中でもとくに好きな銘柄があるじゃないですか。
僕はこの車を本当に気に入っているし、アウトドアでこの車と過ごすのは至福の時間です」



もちろん50年近く前の車だから、故障に悩まされたこともある。それでも購入から一通り手を加えたことで、トラブルは大幅に減った。
近郊のキャンプ場だけでなく、タイプIIのイベントがあればこの車で東京から滋賀県の琵琶湖まで走ることも珍しくないという。
スピードを出すことはできないし、高速道路の上り坂では常に登坂車線を走る。
時間に余裕をもって出発し、早めにイベント会場に到着することもしばしば。そんなときは、ポップアップルーフを上げて常設のコットで一休み。
この時間がたまらなく心地いい。
「気づいたら12年も一緒にいますが、実は『一生こいつに乗り続けよう』と気負っているわけではないんです」
いい出合いがあれば、同じタイプIIの中で乗り替えるかもしれない。ある日突然、ビートルやカルマンギアを選ぶかもしれない。
「それでも空冷のワーゲンに乗る。ここだけは変わらないと思います。 ビンテージのアウトドアギアと同じように、空冷エンジンにはデジタル感を全く感じさせない“機械を操る”感覚があります。これが心地いいんですよ」
いつまでこの車に乗り続けるかはわからないが、今は一緒に歳を重ねることを楽しみたい。
もし車に何かあったら、その時考えればいいのだから。


金子栄一さんのマイカーレビュー
フォルクスワーゲン タイプII
●購入金額/約280万円
●年間走行距離/約5000㎞
●マイカーの好きなところ/古めかしいルックス
●マイカーの愛すべきダメなところ/後付けのクーラーを付けているものの、真夏の日中は効きも良くないので日暮れまで運転は控えるよう予定を調整しています
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/キャンプ好きのファミリー。自然の中でとても絵になりますよ

インタビュアー
高橋 満(たかはしみつる)
求人誌編集部、カーセンサー編集部を経てエディター/ライターとして1999年に独立。独立後は自動車の他、 音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。著名人から一般の方まで、 心の中に深く潜り込んでその人自身も気づいていなかった本音を引き出すことを心がけている。 愛車はフィアット500C by DIESEL
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