▲車を舞台にした、素朴で小さなラブストーリーをお届けします▲車を舞台にした、素朴で小さなラブストーリーをお届けします

「いつもの朝」なはずだった……

朝5時――。

俺は目が覚めた。

いつもなら朝の日課であるジョギングに出かけるギリギリまで惰眠をむさぼるのだが、今日はなぜか予感があった。

さとみはまだ俺の隣で眠っていた。

羽布団をすっぽりとかぶっている。

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雪だるまのように盛り上がった布団から、頭だけがにょっきり出ているのが、生首のようで正直怖い。

俺はざわざわする予感を拭えず、何度も寝返りを打った。

もう一度寝ようとしても、意識は逆に覚醒する。

俺は不安をかき消すように、さとみの頭をかき抱き、ぴったりとさとみに寄り添ってその香りを吸い込む。

あ、頭頂部に白髪見っけ。

さとみも俺も、確実に年をとった。

もう一緒に住んで、9年だもんな……。

そんな感傷をぶち壊すように、眼前にさとみの腕がぬっと伸びてきた。

「も~……重いってば、カイト!」

乱暴に引き剥がされてしまった。

そしてまた布団を体に巻きつけ、四肢の動きを封じたまま半回転する。

その様子はまるでさなぎだ。一緒に暮らし始めた頃は、ベッドに限らず部屋中でいちゃいちゃしていたのに、年月の流れは残酷だ。

こんなに扱いが雑になるとは……。

別の感傷に浸りながら、さなぎのようなさとみの背中越しに、俺の嫌な予感の正体を見つけた。

ダイニングテーブルに置かれた、赤い“まにきゅあ”。

俺は鼻がいい。ツンと鼻腔をつく刺激臭。

……どうりで。

俺の予感は確信に変わった。

ジョギングのコースは、案の定短縮ルートだった。

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俺はわざとのろのろ走ったり、時折休憩したりしたが、後ろ暗いのか、さとみは面と向かって俺を急かすことはしない。

そのかわり、帰宅するやいなや慌ただしくも丁寧に化粧をし、玄関の姿見の前で洋服や靴をとっかえひっかえする。

さとみ、そんなに着飾らなくてもお前は十分綺麗だよ。

そんなお面をかぶっている姿よりも、俺はお前の素顔やいびきだってかわいいと思ってるんだぜ?

以前、さとみが“ぱっく”とやらをして脱衣所から出てきたときは、その犬神家の一族のような様相に雄叫びをあげてしまった。

まったくホラーだぜ。

インターホンが鳴る。

「ん゛ん゛っ」

というおっさんのような咳払いをして、いつもよりも1オクターブ高い気取った声で、

「今いきます~」

と応答している。

やはりそうか……。

俺はがっくりうなだれた。

「よしっ! ほら―――…」

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( fin. )

text・plot/武田尚子
illustration/cro(@cro_______cro)