▲ガレージ回りの希望は、雨の日でもそのまま家の中に入れるようにということと、車が眺められる書斎を併設させたかったということです。それ以外の部分は、家の外観がありふれていないこと、全体的に生活感を出さないためにモノを見えるところに置きたくなかったので、収納を多くしてほしいとお願いしました。また、家内は料理教室を主宰しているので、たくさんの人が過ごせるキッチン&ダイニングルームを希望しました▲ガレージ回りの希望は、雨の日でもそのまま家の中に入れるようにということと、車が眺められる書斎を併設させたかったということです。それ以外の部分は、家の外観がありふれていないこと、全体的に生活感を出さないためにモノを見えるところに置きたくなかったので、収納を多くしてほしいとお願いしました。また、家内は料理教室を主宰しているので、たくさんの人が過ごせるキッチン&ダイニングルームを希望しました

土地の高低差により実現したクールなガレージ

夫妻がお互いのライフスタイルを尊重して家を設計する。たしかに理想的ではあるが、それを実現するのは決して容易なことではない。今回ご紹介するK邸は、そんな問題を見事にクリアした成功例のひとつである。

場所は茨城県竜ヶ崎市。緑の多い新興住宅街の一角に、目的のK邸はあった。私鉄の駅からは徒歩数分で、車でも公共交通機関でも都心へのアクセスは容易だ。家の前には街路樹の美しい整備された12m道路が走り、近代的な住宅街という印象。なかでもK邸は、独特の雰囲気をもつ佇まいでひときわ強い存在感を放っている。

83坪という十分な広さをもつ土地は、正面の道路からは一段高い場所に位置する。その高低差をうまく生かしている点がK邸の大きな特徴。そのため道路のレベルにガレージがあり、屋外ガレージの屋根の高さに玄関や庭がある。建物自体は、シルバーガリバリウムの壁面と、そこに整然と並ぶ小さめの窓により、住宅というよりは小ぶりなオフィスビルのような印象。一見すると3階建てに見えることも、K邸の特徴といえるだろう。

正面左側には、日常の使い勝手を優先した屋根付きの屋外駐車場を備える。2台分のスペースだが、ふだんは奥様専用のBMWを駐車している。その屋根と柱はウッディな設えで、玄関周辺の造作や庭に設けられたウッドデッキと同様の雰囲気をもち、ガリバリウムの外観とは対照的なアクセントとなっている。

玄関から邸内に入り、ガレージへとアクセスする。2階へ上がる階段の裏側にガレージ専用の階段が設けられているのだが、決して簡易的なものではなく、丁寧に作り込まれている。地下の照明をつけて下りていくという行為は、ご主人だけの趣味の世界に至るための儀式。日常から非日常へと切り替えるスイッチの役目を果たしているというわけだ。

階段を下りると、9畳ほどの書斎スペースが。そこからガラス越しにポルシェ ボクスターを見ると、まるで赤い額縁に入った実物大の写真のよう。ガレージ自体は1台を駐めるには十分以上のスペースが確保されている。コンクリート打ち放しの壁面、書斎とを隔てる大きなガラス窓、そしてフェラーリレッドに彩られたドアなどがバランスしてクールな空間を作り出している。もともとグレーの壁面と床面、そしてシルバーメタリックのポルシェ ボクスターにより無機質な印象。そこに赤い差し色を入れるだけで、強いアクセントとなりマニアックな空間が出来上がった。

無駄を削ぎ落としてバランスの取れた美しさを

設計は、フリーダムアーキテクツデザイン株式会社取締役設計事業本部長・山神智次郎さん。全国に18ヵ所あるオフィスの設計を統括する建築家だ。施主のKさんとの出会いは、共通の知人の紹介による。じつはKさんのお仕事が住宅とは深い関係にあり、もともと関西が本拠地である山神さんの会社が東京に進出する際に仕事を通じて知り合ったとのこと。

設計にあたり、ガレージに対するKさんの希望は、1.雨の日でもガレージからそのままリビングルームに行けるようにしたい 2.できればガレージ脇に愛車を眺められる書斎を設けたい、というシンプルなもの。また、自宅で料理教室を開催している奥様の希望は、広いダイニングルームに、大きなキッチンとテーブルを備えること。夫妻ともに友人を自宅に招く機会が多いようなので、このダイニングルームの造形は共通の希望であったともいえる。

車と料理という異なる趣味をもつ夫妻の希望を両立させるために、山神さんは高低差のあるユニークな土地の形状を生かしたプランを提案した。庭のレベルが1階となるため、正面道路と同じレベルにある駐車場は地下扱い。地下となるガレージに、邸内からアクセスするための階段を設けることで書斎や収納スペースを確保した。また、奥様の希望を叶えるために8人掛けのダイニングテーブルやキッチン棚などをイタリアの家具メーカーに発注。さらにダイニングキッチンとリビングルームを、階段を挟んで左右に分けることで、Kさんが在宅しているときでも気兼ねなく料理教室が開催できるようにした。ダイニングキッチンとリビングルームは階段を挟んでセパレート。しかし、向かい合うそれぞれの部屋の窓を広いガラス製とすることで、一体感のある明るく開放的な空間作りに成功している。

「いろいろなものを削ぎ落としていって、最終的にキレイに作る……」

山神さんがいちばん苦心したというその点は、Kさん夫妻の希望をみごとにバランスさせた。 築8年経った今でも、まるで竣工直後のようなコンディションを保っていることが、K夫妻の高い満足度を物語っている。

▲Kさんは、自他ともに認めるカーフリーク。ボクスターの前はビュイック リーガルに乗っていたという。性能よりも雰囲気を大切にするタイプで、愛着をもって長く所有してきているようだ▲Kさんは、自他ともに認めるカーフリーク。ボクスターの前はビュイック リーガルに乗っていたという。性能よりも雰囲気を大切にするタイプで、愛着をもって長く所有してきているようだ
▲ガレージと書斎は大きなガラス窓で仕切られている。築8年経つのに書斎は使われている形跡がない。Kさんに尋ねると「ここは夏暑くて、冬寒いんですよ」と笑う▲ガレージと書斎は大きなガラス窓で仕切られている。築8年経つのに書斎は使われている形跡がない。Kさんに尋ねると「ここは夏暑くて、冬寒いんですよ」と笑う
▲玄関の奥、2階への階段下には、ガレージへ続く階段が設けられている。明るく暖かい雰囲気のリビング&ダイニングルームから一転、クールで男っぽい空間へと変化するKさんだけのルートだ▲玄関の奥、2階への階段下には、ガレージへ続く階段が設けられている。明るく暖かい雰囲気のリビング&ダイニングルームから一転、クールで男っぽい空間へと変化するKさんだけのルートだ
▲地下の書斎は、階段部分を挟んだ奥に広い収納スペースを備えている。スペアパーツやタイヤ、工具などを収納するには最適だ。しかし、残念ながらこちらもいまだに活用されていない…▲長い地下の書斎は、階段部分を挟んだ奥に広い収納スペースを備えている。スペアパーツやタイヤ、工具などを収納するには最適だ。しかし、残念ながらこちらもいまだに活用されていない…
▲書斎の雰囲気や造形は、車好きにはたまらない。「夏暑くて冬寒いから」とKさんは言うが、恐らくこのスペースのクールな使い方を模索しているというのが本音だろう▲書斎の雰囲気や造形は、車好きにはたまらない。「夏暑くて冬寒いから」とKさんは言うが、恐らくこのスペースのクールな使い方を模索しているというのが本音だろう
▲屋外駐車場は2台分のスペースだが、ふだんは奥様専用のBMWが占有。屋根や柱は、家の外観や庭のウッドデッキなどと同じような雰囲気になるようにデザインされている▲屋外駐車場は2台分のスペースだが、ふだんは奥様専用のBMWが占有。屋根や柱は、家の外観や庭のウッドデッキなどと同じような雰囲気になるようにデザインされている
▲2階から玄関方向を見下ろしたところ。右手はダイニングキッチンで、左手はリビングルーム。あえてダイニングとリビングをセパレートさせているが、両者の窓を大きなガラス製とすることで連続感が与えられている▲2階から玄関方向を見下ろしたところ。右手はダイニングキッチンで、左手はリビングルーム。あえてダイニングとリビングをセパレートさせているが、両者の窓を大きなガラス製とすることで連続感が与えられている

【夫妻の趣味をバランスさせたガレージライフ】
■こだわりというか、苦心した点は、いろいろな要素を削ぎ落としていって最終的にキレイに見せる…ということです。ガレージ回りでは、地下扱いのガレージと1階とを階段でつなげるために二次的な産物として書斎ができました。また、屋外ガレージの屋根は、建物の雰囲気と合わせるように作りや色合いを工夫しました。2階の階段を挟んで隣り合うダイニングルームとリビングルームは、ガラス窓で仕切ることで一体感が生まれました
■主要用途:専用住宅
■構造:鉄筋コンクリート造
■敷地面積:273.90平米
■延床面積:170.00平米
■設計・監理:フリーダムアーキテクツデザイン株式会社 山神智次郎
■TEL:06-6213-5300

text/菊谷聡
photo/木村博道


※カーセンサーEDGE 3月号(2015年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています