車との生活を楽しむ。情景にこだわる湖畔の家
カテゴリー: カーライフ
タグ: EDGEが効いている / ガレージハウス
2014/12/19
リビングルームにレーシングカーがある風景
朝目覚めると、すぐ脇に愛用のレーシングカーがダイニングで食事中にもリビングでくつろいでいるときにも、つねにマシンが視野に入る。そんな人間と車の関係性とは?
ガレージハウスに対する考え方が大きく変わる……そんな家を取材することができた。場所は山梨県山中湖畔。日本有数の避暑地であり、その中でも企業や個人の別荘が建ち並ぶ一画に牧田邸はあった。
訪れた日は、折しも都心に初雪が降った日。取材陣は慌ててスタッドレスタイヤを装着し山中湖へ向かったのだが、東富士五湖道路の籠坂トンネルを抜けると、そこは雪国だった。
湖畔を半周ほどして到着した目的地は、一面の銀世界に淡いグレーで彩られた壁面をもつ建物が数棟、建ち並んでいた。日本離れした雰囲気を醸し出しているのは、ロケーションの利もあるだろう。それにしても、居心地のよさそうな優しい佇まいである。
正面から観察すると、建物の左側にガレージの扉と中央に玄関。そして右手には広いウッドテラスが設けられている。見上げると天窓の奥から覗く薪ストーブ用の煙突からは煙がたなびき、じつに穏やかな景観だ。建物の左手にある駐車場には、日常の足としているE55AMGステーションワゴンとシトロエン C4が収まる。
玄関から邸内に入ると、外観のイメージどおり自然木をふんだんに使った温かみのある広い空間が広がっていた。フロアには分厚い床材が一面に敷き詰められ、それが空間に温かみをもたらしている。それよりも先に目に飛び込んできたのは、レース仕様のC2コルベットだ。部屋の中にレーシングカーとはサプライズだが、丁寧にメンテナンスされ磨き込まれたマシンは、まるで実物大のモデルカーのようだ。その奥は、少し高いレベルにベッドルームがあり、右手はキッチン&ダイニングとリビングルーム。
これまで数多くのガレージハウスを見てきたが、ベッドルームやダイニングルームと空間を共有しているガレージは初めてだ。イメージとしては広いワンルーム。そこを人間と車が共有している。しばらく観察していて、どちらが主でも従でもないという印象をもった。車が偉そうに鎮座をしているわけでもないし、とはいえ隅に追いやられているわけでもない。この絶妙なバランスはどこからもたらされるものなのだろう。この家のオーナーであり設計者でもある牧田さんにお話をうかがった。
牧田さんが考えるガレージハウスのあり方とは、どんなものだろうか?
「例えば、この床材。これは25~30mmという厚さをもつベイマツです。通常、床暖房にするときには厚い床材は使いません。冬は縮んでしまい割れる可能性があるので、日本では受け入れられにくいのです」
たしかに、先ほどから隙間の多い床が気にはなっていた。
「現代の家は、うわべだけピカピカしているように見えます。昔のモノ作りは購入層に媚びは売らなかった。作り手の意志というものがはっきりと出ていました。今は、買ってもらいたい……が先行していて、表面的にきれいなだけでハートの部分が希薄になっているように思います。車は、そもそも土足ですよね。車と暮らしていくのに本当に大切なものはなにか? 見栄えだけではなくて、もっと大事なものがあるんじゃないか? そう考えたときに、車を入れるためには厚い床材が必要だったのです」
ベッドから起き上がり、振り返ると自慢のマシンが
朝、ベッドから目覚めると、すぐ脇にコルベットがあるわけですね。ダイニングテーブルで食事をしているときも…。この距離感はどのように解釈すればいいでしょうか。
「これだけ車との距離が近いと、オイルやガソリンのにおいがします。でも、男にとってそれは、ある意味媚薬のようなものです。以前、ミッレミリアを見にイタリアまで出かけたときに、とあるガレージに案内されました。薄暗いところにボロボロの石造りのガレージがあって、木製のドアを開けたら、中にはピカピカに磨き上げられた黄色のNSXが入っていたのです。これには感動しました。これはひとつの情景作りですね。ガレージハウスも同様です」
ベッドルームやダイニングルームのすぐ脇にガレージスペースがあるのも、情景作りということでしょうか?
「ベッドルームの横に車があると、笑う人がいます。でも、私はいたって普通だと思います。今流行りのガレージハウスを見ると、みんな画一的で個性がありません。例えば、アメリカの車好きのガレージを見ると、みんな車との生活を楽しんでいます。日本はガレージだけ浮いてしまっているんですよね。人間と車が生活するうえでガレージは成り立っているのに、なんだか舞台装置みたいになってしまっている」
そのとおりだと思いますが、現実はスペース的な問題や家族の意見なども考慮しないとなりませんよね。
「たしかに、車だけにこだわると家族との関係性は難しくなってきます。音やにおいを発しますからね。自分の家を建て、その中で車との関係をどのように構築するかというのは、一生の問題だと思います」
「車と付き合っていくことは一生の出来事だと考えています。そのために、長い時間をかけて作っていこうというイメージをもってほしいですね。あまり若いうちに急いで建てずに、資金、気力、体力のバランスがとれたところで作るべきだと思います。ちょうど人間の価値観が決まる50歳ぐらいがちょうどいいんじゃないでしょうか」
牧田さんが人生をかけて作り出したガレージハウス、じつはレンタルが可能だ。ご興味のある方はぜひ一度訪れていただき、人間と車との関係性について見直すのはいかがだろう。薪ストーブの火を眺めながら、静かな林の中で物思いにふける。とても贅沢な時間を過ごせるはずだ。
■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:991.73平米
■延床面積:234.71平米
■設計・監理:HOME & GARDEN 牧田 美朝
■tel:0555-65-9261
【関連URL】
※カーセンサーEDGE 2014年3月号(2014年2月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
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