Ig邸

風が流れるエコなガレージ

海にほど近い茅ヶ崎の住宅街にあるIg邸のガレージは自然の要素をたっぷりと取り込み、さわやかな雰囲気を漂わす。そこは時間すらもゆっくりと流れているように感じさせる空間だ

プライベートな場所のために家の中心に外を取り込む

外観と内部でイメージが異なり、そのギャップを楽しむという住宅は少なくない。今回訪れた茅ヶ崎の家も、外観が黒いガリバリウムの壁のせいか、閉ざされた雰囲気を見る者に与える。ただし、ウッドのスライドドアにより冷たい印象はなく、果たして内部はどのようになっているのかという期待感が高まる。

アクセスはスライドドアから。ガレージ外に敷かれたコンクリートの石畳は、そのまま内部まで続いている。取材当日は汗ばむほどの気候だったのだが、奥に進むにしたがいヒンヤリとした空気に変わっていく。トヨタプリウスの後ろあたりが中庭になっているのだが、そこでスッと風が流れていく感覚を味わった。おや? と思い見上げると、頭上はFRPグレーチングで作られたバルコニーとなっていて、下からの上昇気流が発生し風が流れるという仕組みらしい。

設計は建築家の宮原輝夫さん。以前にも別の住宅を拝見したことがあるが、今回と同じように光と風を自在に操っているという印象であった。

「スライドドアと内部の壁に同じ素材を使い、またコンクリート板も外から内へ繋げることで、内外が一体にイメージできるようにしました。空間の静寂さも意識しています」と宮原さん。ガレージと住空間との関係性は?

「昔の馬と同じで、車を仲間として見たとき家の中に車がいるのは自然なこと。ただ、あまり甘やかしすぎてはいけないと思っています。適度な距離感を保ちながら仲間として共存する、というイメージでしょうか」

人と車との距離は保たれているが、じつは浮遊バルコニーの下が居心地のいい場所となっている。光の入り方、空気の流れ方、どちらも計算のうえに成り立ち、エコでクリーンな素敵な空間であった。

Ig邸

Ig邸
建築家:宮原輝夫+谷口尚子

tel.03-5304-5075 http://www.miyahara-arch.com
所在地:神奈川県茅ヶ崎市 主要用途:専用住宅
構造:木造 規模:2階建 敷地面積:100.16㎡  延床面積:117.74㎡
設計・監理:宮原建築設計室/宮原輝夫+谷口尚子

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi

Ig邸

玄関がガレージ内にあっても目前が中庭のため、十分な明るさを確保している。玄関脇の洗面は、帰宅してすぐに手洗いができるように、施主の要望で取り付けられた 

Ig邸

個室をつなぐ2階の廊下は、長机を作り付け、家族全員の書斎を兼ねている。一人の場所を大切にしながらも、コミュニケーションの取りやすさも重視している

Ig邸

ガレージの横幅に余裕をもたせ、車とオートバイを置いても玄関へのルートは十分にある 

Ig邸

「外から視線を感じないようにし、かつ開けた空間」というオーダーに対して、内部に「外」を作ろうと考えのもと、FRPグレーチングをバルコニーの床に採用している