▲マツダ3(新型 アクセラ)

あえての雪上、あえてのFF(前輪駆動)で驚かされた新技術の進化っぷり

マツダが北海道の剣淵町にあるテストコースにジャーナリストや自動車媒体を招き、次期アクセラ(NEW マツダ3)の試乗および技術者との意見交換を行った。

試乗会場には、第一線の開発エンジニア陣も参加。改良点や新技術のフィーリング、疑問点などについてその場で彼らと直接意見交換ができる取材会だ。

今回は“NEW MAZDA 3”(マツダ3)、すなわち近い未来に発表されるであろう新型アクセラの新たな性能進化について吟味してきた。

テスト車両の外観はカモフラージュされており、エクステリアの細かな造形はわからないものの、セダンタイプであることは見て取れる。北米仕様で左ハンドルのFF車(前輪駆動)だ。

▲雪上だろうと、FFだろうとテストとなればアクセル全開! ▲雪上だろうと、FFだろうとテストとなればアクセル全開!

初めにGVC Plus(G-ベクタリングコントロール・プラス)という既存モデルに搭載されている、GVCの進化版が搭載されたテスト車両を試乗してきた。

内容は、雪上で時速70km/h程度から急ハンドルを切ってレーンチェンジするテストだ。

雪上ということもあり、普通ならこの速度から急ハンドルを切れば、挙動は大きく乱れることになる。ここで、車両安定性と挙動の収束の速さを体感するのだ。

テスト車両は任意にGVC Plusをオン・オフできる仕様。これによって、機能の効果差をより明確に体感できるのである。

これは4WD? と、思わず勘違いしてしまうようなスーパーFF車だ

▲派手なグラつきやスピンも覚悟(というか期待?)していたものの、走りが安定しすぎていて試乗を見守っていた編集とカメラマン的にはやや拍子抜け…… ▲派手なグラつきやスピンも覚悟(というか期待?)していたものの、走りが安定しすぎていて試乗を見守っていた編集とカメラマン的にはやや拍子抜け……

1本目はオンの状態でスタート。

路面は滑りやすい状況だが、安定性が高く驚くような揺り返しがないに等しい。雪上であることを忘れてしまうくらい安定しているのだ。

思わず「これ4WDなの?」と聞いてしまったほどだ。

2本目はGVCをオフにして同様に走行すると、レーンチェンジ後にリアが少し振られるような挙動を示すが、その程度で収まる。

3本目は再びオン状態で走行。1本目以上に速度を上げようとしたが、ちょっとした滑りを感知したのか60km/h以上速度が上がらなかった。

危険を察知しシステム制御が介入したのだろう。まさに安全を第一に考えたシステムだ。

条件によって違いは出てくるとは思うものの、2WDでここまで車体制御ができてしまうなら、スタッドレスタイヤの性能が発揮できる雪質であればFFで十分だと感じた。

それくらい新型 マツダ3の新世代車両運動制御「SKYACTIV-VD(ビークルダイナミクス)」の性能が良いことがわかった。
 

マニアックすぎる技術進化に技術者魂を感じずにはいられない

▲助手席に設置された不安定なシート(既製品の骨盤スリムチェア)にシートベルトなしで座り、徐行運転を体験するテスト。違いは体験できたのだが、その仕組みの理解は難しい…… ▲助手席に設置された不安定なシート(既製品の骨盤スリムチェア)にシートベルトなしで座り、徐行運転を体験するテスト。違いは体験できたのだが、その仕組みの理解は難しい……

次のセクションは新世代車両構造技術「SKYACTIV-VA(ビークルアーキテクチャー)」に関する、ちょっと変わったテストを体験した。

助手席が外された現行アクセラとテスト車両のマツダ3が用意された。

助手席部分には、支点をずらすと全く安定して座れない実験用シート(既製品の骨盤スリムチェア)が取り付けられている。
 

▲試乗前、技術者から新世代車両構造技術「SKYACTIV-VA(ビークルアーキテクチャー)」の説明を受けた部屋のテーブルの上には背骨が……。なんだか病院で診察を受けているような……。オレたち何やってるんだ? というか、どこだここは……? ▲試乗前、技術者から新世代車両構造技術「SKYACTIV-VA(ビークルアーキテクチャー)」の説明を受けた部屋のテーブルの上には背骨が……。なんだか病院で診察を受けているような……。オレたち何やってるんだ? というか、どこだここは……?

実験用のシートに背筋を伸ばして座り、時速5km/h程度、つまりクリープ現象とフットブレーキの調整だけでダラダラと走るような徐行状態を、双方の車両で体験するのだ。

これはかなりわかりづらいのだが、身体の動きを少なくするような考え方に沿った設計であるということらしい。

同行した編集者も同じ体験をしたのだが、彼いわくマツダ3の方が圧倒的にバランスが崩れにくいといって首をかしげていた。

この不思議な体験に興味をもったらしく、何度もしつこく体験していたが、最終的には「車が違う」以上の仕組みがわからなかったようだ。
 

▲テスト車両に装着されている同型の椅子を使って、マニアックな技術解説をできるだけわかりやすく紹介してくれている技術者の虫谷氏 ▲テスト車両に装着されている同型の椅子を使って、マニアックな技術解説をできるだけわかりやすく紹介してくれている技術者の虫谷氏

このパートの解説を仕切っているリーダーの虫谷氏は、私が帰路のバスに乗る寸前までパソコンを持ってデーターの説明をしに追いかけてくるほど熱心なエンジニアだった。

このような、今まで誰も気がつかなかった部分を研究し、考え方を言語化して説明しようとする彼らの姿勢が印象的だった。
 

変化する路面状況をものともしない安定感がすごすぎる

▲雪まみれの狭い林道を高速で駆け抜ける。アップダウンはもちろん、凹凸や轍、逆バンクがついたコーナーが混在する、まるでラリーコースのような状況。少しでも挙動を乱せば雪の壁に突っ込んでしまうようなコースだ。ここを高速で走るには運転技術はもちろん、それ以上に車の性能が高くなければはっきりいって「危ない」 ▲雪まみれの狭い林道を高速で駆け抜ける。アップダウンはもちろん、凹凸や轍、逆バンクがついたコーナーが混在する、まるでラリーコースのような状況。少しでも挙動を乱せば雪の壁に突っ込んでしまうようなコースだ。ここを高速で走るには運転技術はもちろん、それ以上に車の性能が高くなければはっきりいって「危ない」

次のセクションは、白銀の林道コースを高速で走り抜けるテスト。

ここでもハッチバックの現行アクセラとセダンのマツダ3の乗り比べができた。

先に結論をいうとセダンのマツダ3の方が、剛性が高くバランスが良い。車としての素養が高い印象を受ける。

乗り比べてしまうと、ハッチバックの現行型の方は剛性感が若干低くマツダ3ほどサスペンションが有効に働いていないため、追従性が低く、踏ん張ってくれない印象だった。

またマツダ3は、滑りやすい路面での6速ATの制御がワイドレシオにも関わらず、シフトタイミングとトルク制御プログラムが現行型よりも絶妙である。
 

4WD技術もマニアックに進化している! これも期待がもてる

▲マツダ3に搭載される改良型4WDの性能を、同型のシステムが搭載されたCX-3のテスト車両を使って試乗。滑り始める瞬間にリアにトルクが配分されるが、その味付けが変わることで、車のキャラクターも変わる ▲マツダ3に搭載される改良型4WDの性能を、同型のシステムが搭載されたCX-3のテスト車両を使って試乗。滑り始める瞬間にリアにトルクが配分されるが、その味付けが変わることで、車のキャラクターも変わる

最後のセクションは改良した4WDシステムの体験だ。

元々マツダの4WDは、トルク配分を後輪に大きく移す設計ではない。

つまり、積極的に後輪に荷重をかけたスポーティなコーナリングは若干苦手なのだが、大きなトルクを四輪に有効に分散する“安定性重視の4WD”としてはとても優秀と見ている。

マツダ3の4WDは後輪にも積極的に荷重をかけて走らせるタイプになるというのだが、テスト車両が間に合わず、新タイプの4WDシステムが搭載されているCX-3のテスト車両で試乗を行った。

試乗したのは雪上にパイロンでひょうたんの形に作られたコース。つまり右に左にと交互にコーナーが連続するコース設計だ。

CX-3は構造上サスペンションストロークの柔軟性が少ないので、実は慣性によってリアを滑らせることが比較的容易なモデル。

そこで、リアに荷重をかけた状態で、さらにアクセルを開けてみたのだが、安定感がとにかくいい。

前輪が滑って外に膨らむ瞬間に、リアからスッと押されるような感覚でノーズが内側に向き挙動が安定収束するのだ。

普段乗り用の4WDには「安定感という性能」が大切なのだというマツダの見解が、新たな4WDに対するアーキテクチャーなのであろう。

新技術の進化はもちろん、ネガティブな面も露出してしまう雪上という環境で、あえて我々に試乗させることで、自分たちの考え方を伝えるマツダの姿勢に虚勢はない。

エンジニアリング魂が極めて高い取材会で、新型アクセラへの期待が膨んだ。公道で乗れる機会がくるのが急に待ち遠しくなった。
 

▲こちらがマツダ3だ。セダンとハッチバックがラインナップされる。エクステリアデザインもさらなる進化が見て取れる ▲こちらがマツダ3だ。セダンとハッチバックがラインナップされる。エクステリアデザインもさらなる進化が見て取れる
text/松本英雄
photo/尾形和美、マツダ