レクサス IS F ▲コンパクトセダンに5L V8エンジンを搭載したIS Fを紹介。こんなモデルは最初で最後!?

高級さを出しながらサーキット走行も可能なハイパフォーマンスカー

名だたる高級車メーカーには、スポーツモデルがラインナップされている。メルセデス・ベンツには「AMG」があり、BMWには「M」があり、アウディには「RS」がある。

そんな流れに見習ったかのように、レクサスには「F」(富士スピードウェイに由来)が投入されることになった。

Fの車両コンセプトは、「基本性能を徹底的に鍛え込むとともに、走りの新技術を備えることにより、レクサスの新しいパフォーマンスを提案する」だった。

2007年にデビューしたIS Fはその名にあるように、コンパクトセダンであるISをベースに大排気量エンジンをぶち込んできた。

コンパクトな車体に大排気量のエンジン、という組み合わせのIS F。昨今では見かけない、珍しいこのモデルを、現在の中古車事情とともに紹介する。
 

レクサス IS F▲4本出しマフラーもこのモデルの特徴だ

IS Fは、300㎞/hオーバーでの走行安定性を真剣に考え、空力特性や排熱効率などへの取り組みに余念がなかった。実際、エクステリアはヘッドライト、前後ドア、トランク、ルーフパネルを除くほぼすべてが作り直されていた。

特にフロントまわりは、V8エンジンを搭載するためにオーバーハングを延長し、さらにヘッドの干渉を防ぐため、ボンネットは特徴的な形状をしている。

また、エンジンの冷却性能向上のため、フロントフェンダーにはスリットが設けられ、専用設計のリアスポイラー、アンダーパネル、リアディフューザーなどがダウンフォースを確実なものにしていた。
 

レクサス IS F▲フロントフェンダーに設けられたスリット

搭載される5L V8エンジンは、シリンダーに直接燃料を吹くダイレクトインジェクションと、従来どおりのポート噴射を併用した「D4-S」エンジンで、電動連続可変バブルタイミング(VVT-iE)などの先進技術を採用。最高出力423ps/6600rpm、最大トルク51.5kg・m/5200rpmを誇っていた。
 

レクサス IS F▲なお、このエンジンは「2UR-GSE」と呼ばれ、セッティングを変えながらRC F (現行型)、GS F(現行型)、LC500(現行型)で引き続き搭載されている

サーキット走行を想定し、コーナリング時の横Gに対応するため、オイルの潤滑はスカベンジングポンプを使って強制的に行う。また、燃料タンクはサブタンク構造が採られていた。その他、水冷式のオイルクーラーまで与えられた。

トランスミッションは、同時期のLS460用8速ATをIS F用にモディファイしたもの。トルコン式ATのロックアップ機構を、あたかも2ペダル式MTのように扱うものだった。変速スピードは0.1秒でフェラーリ 599と同じだった。

また、スポーツ走行時の対策として空冷式のATFクーラーが備わった他、ATフルードの噴き出し対策として、ブリーザーチューブの延長とブリーザータンクの追加がされていた。

ブレンボ製のブレーキは、フロントに6ポッド、リアに2ポッドのモノブロック・キャリパーが奢られていた。
 

レクサス IS F▲ブレーキローターはフロントが360mm、リアが345mmと大経口で1690㎏の車体に強烈な制動力をもたらしていた

つまるところ、IS Fは大排気量エンジンをぶち込むにとどまらず、サーキットマシンとしてレクサス流に“完全武装”した車だったのだ。

インテリアは、フロントにランバーサポートの効いたスポーツシートが奢られ、リアシートは2人がけの独立シートとなった。14スピーカーのマークレビンソン製オーディオも装備し、高級感とスポーティさを両立させていた。
 

レクサス IS F▲高級感がありながらホールド性に富むフロントシート
レクサス IS F▲革巻きのステアリングやブラックのダッシュパネルがスポーティ

総額100万円代後半から狙える最初で最後の貴重な存在

オーバースペックは、いつの時代も高級車には欠かせない要素だ。IS Fは、セダンでありながらサーキットマシンとしての十二分なポテンシャルを秘めた高級車であった。

そんなIS Fだが、デビューから13年が経過した今、中古車市場では総額100万円台後半から狙えるようになっている。

だが、オーバースペックはIS Fの維持費は……、はっきり言って安くない。5L V8エンジンゆえに燃費はさすがに良好とは言えないし、自動車税もそれなりにかかる。

消耗品であるブレーキパッドや大径スポーツタイヤも、それなりの出費を強いられる。それでも先述したような「AMG」や「M」といったライバルと比較した場合、日本車ならではの信頼性の高さに定評がある。

予算が許せば、“完全武装”をさらに強固なものすべく、ハイパワーとハイトルクに耐えられる専用開発のトルセンLSDを採用した、2010年以降を狙いたい。

世界的に環境性能が厳しく問われる昨今、大排気量自然吸気エンジンはどんどん消滅する流れにある。

これからは、ターボやハイブリッドを活用した、高効率エンジンが主流になるのは確実だ。たっぷりの空気を吸い込んで、たっぷりの燃料を燃やして走る高級スポーツセダンには、味わったことがある人しかわからない快感がある。

新車時価格766万円だったIS Fは、その完全武装ぶりに割安感が漂っていたほどだが、2代目の投入がないところを見ると……、販売には苦戦を強いられたのではないだろうか。そういう意味でも、最初で最後となったIS Fは貴重な存在だと言える。
 

文/古賀貴司(自動車王国)、写真/尾形和美

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古賀貴司(こがたかし)

自動車ライター

古賀貴司(自動車王国)

自動車ニュースサイト「自動車王国」を主宰するも、ほとんど更新せずツイッターにいそしんでいる。大学卒業後、都銀に就職するが、車好きが講じて編集プロダクションへ転職。カーセンサー編集部員として約10年を過ごし、現在はフリーランスのライター/翻訳家として活動している。