レクサス LS ▲レクサスの新型LSには高度運転支援システム「Lexus Teammate」を採用。その技術的特徴にソフトウエアのアップデートも挙げられている。2021年に発売予定とされるAdvanced Driveはその新機能のひとつ

OTAは間違いなくトレンドではある、が・・・・・・

「CASE&MaaS」「カーボンニュートラル」etc・・・・・・、まさに自動車産業は100年に一度のパラダイムシフトに入っていることは多くの人が理解しているはずだ。ここでは触れないが、コロナ禍もその動きに対して少なからず影響は与えていると言えるだろう。

自動運転をはじめとするADAS(先進運転支援システム)の進化はもちろんだが、ここ数年、そして今後大きく伸びていくのが、自動車におけるソフトウエア領域であることは市場全体からも見えてくる。

その中で特に注目すべきは、通信などを活用し、車のECU(Electronic Control Unit)に代表されるシステムのプログラムの書き換えなどを可能にするOTA(Over-The-Air)である。

OTAを世の中に認知させたのは、2012年に発売されたテスラの「モデルS」がその代表格だろう。搭載する通信ユニットを介して、常時(実際はオーナーの就寝中など)にシステムをアップデート。特に自動運転領域や17インチの大型タッチスクリーンにナビ機能(発売当初はデジタルマップとしての自車位置表示しかできなかった)を追加するなど、目に見える機能アップをオーナーが体験できることで所有欲を満たし、ブランド価値も上げることに成功した。

また、昨今CASEにおける“C”つまり「コネクテッド」に関しては、他社でも車両本体への通信モジュールの搭載が増えてきている。これまではオペレーターサービスやプローブ情報による高精度ルートを提案するナビゲーション機能、そして地図更新などがメインだったが、レクサスもOTAによる「Advanced Drive」と呼ばれる高度運転支援システムの発売を予定している。(2021年中)

OTA自体は、表向きは新機能の追加がメインとなるが、一方で今後は大きな役割も担うことになる。それがリコール時などにおける大幅なコスト削減とスピードアップだ。

リコールの内容にもよるが、それがもしECU関連の場合、従来であれば「販売会社からのお知らせ」という形で店舗への入庫を促進する。しかし、大量のリコールが発生した場合は入庫待ちの状態が発生し、逆に顧客に迷惑をかけるケースも。これをOTAで対応させることで、入庫することなく同時に多くの台数を改修することも可能になる。もちろん、通信環境の安定やセキュリティ、さらにユーザー側からの許諾など細かな問題は残しているが、ことECUのソフトウエアに関しては今後の大きな流れになることは間違いないはずだ。
 

マツダ 3 ▲2020年に一部改良を受けたMAZDA3。e-SKYACTIV X搭載車のエンジンとミッションを制御するソフトウエアがアップデートされている

マツダに見るアップデートにも注目

それでは今後すべてOTAになるのか、と言えばそう簡単なものではない。前述した通信に関してもロバスト性(この場合は信頼性と解釈)を考えるとまだ検証する部分は多い。

そこに登場したのが、2020年11月19日に発表・発売された「MAZDA3」である。年次改良による性能向上は昨今のマツダの十八番とも言えるものだが、MAZDA3は新世代ガソリン車である「スカイアクティブ-X」のエンジンとトランスミッションの制御をアップデートさせた、と報道されている。細かい話だが、このパワーユニットは今回新たに「e-SKYACTIV X(イー・スカイアクティブ エックス)」の呼称に代わっている。

最高出力&最大トルクの向上はもちろん、応答性や全域にわたってドライバーの意図に応えるアップデートを行っているとのことだが、ポイントはこのアップデートが既存のMAZDA3ユーザーにも対応できる可能性があることだ。

時期などは未定だし、何よりもエンジンの出力なども変更されることで監督官庁との調整が必要な点もあるなど、正直見えていない部分もある。

さらに、今回の商品改良ではサスペンションまわりのレベルアップも行われているが、これはアップデートとは全く違う次元の話。つまり厳しい言い方をすれば、既存ユーザーがアップデートできたとしても最新モデルと同じハンドリング性能を堪能することは物理的には難しい、ということだ。
 

テスラ モデルS ▲テスラの全モデルはワイヤレス ソフトウエア アップデートにより最新の便利な機能が利用できる、とうたわれる。モデルSも2012年の登場以来、何回も大小アップデートが配信され、現状ではバージョン10.0が配信されている

中古車の商品価値向上に期待

とはいえ、この手のアップデートは商品の魅力を再認識させる。OTA同様に商品のロングライフ化や、整備入庫の促進によるディーラーの利益確保にも寄与するはずだ。

そして、注目はやはりリセールバリューの向上だろう。元々、現在販売されているマツダの新世代商品群のリセールバリューは自社の努力もあり高い水準をキープしている。

これに、今回のようなアップデートがプラスされることで中古車の価値はさらに高まる。新車には手が届かないけど、何よりもアップデートされている中古車ならば魅力的だし購入できる、といった購入動機も今後は増えてくるはずだ。

中古車には公取協(自動車公正取引協議会)が定めた規約に基づいた内容を表示する必要があるが、基本的なデザインに関しては自由度が与えられている。カーセンサーやカーセンサーEDGE.netでも、今後はコメント欄に「アップデート済み」といった表記がされる日もそう遠くはないだろう。
 

文/高山正寛、写真/レクサス、マツダ、テスラモーターズ