基本のイメージを変えずに存続する希少なスポーツカー、次期日産 フェアレディZ【EDGE’s Attention】
2020/10/16
世の中には、こだわりすぎ、コスト度外視、先進的、独創的すぎというモデルが存在する。当然、多くの人が購入できるような大衆性はめちゃくちゃ低い「癖強モデル」。まさにエッジィな一部の人にだけ強烈にぶっ刺さるモデルだ。
EDGE編集部が注目するそんな世界のエッジィなモデルに「アテンション プリーズ!」。
今回は先日お披露目された次期日産 フェアレディZだ!!
“アメリカで盛り上がる”日本を代表するスポーツカー
フェアレディZという車は、もちろん日本を代表するスポーツカーではあるけれども、その実、ファンの大勢はアメリカにいらっしゃる。中でも初代ZのS30は“ダッツンズィー”として、誤解を恐れずに言って、まるで“アメリカ車である”かのように彼らに愛されてきた。生まれたときから恐ろしくエッジの効いた和製スポーツカーだったのだ。
そんなZの現行モデルは2008年に登場したZ34である。日産においてスポーツモデルの双璧をなすGT-Rとともに、そろそろモデルチェンジしてくれやしないかとファンはずっと願っていたわけだけれど、このたびようやく次期型のデザインが発表され、話題となっている。
もっとも市販モデルの登場は少し先だろう。ナカミの確定をしない段階で“ほぼこれで決定”というデザインを公開すること自体、異例中の異例だったから、すぐにでもデビューしそうだと勘違いしそうだが……。
過去にも一度、同じような事例があった。同じく日産のGT-Rである。市販モデルとほぼ同じデザインをまとった「GT-R PROTO」が正式発表のちょうど2年前、2005年の東京モーターショーに姿を表したのだ。この事例を参考にすれば、「ZPROTO」も市販化までに同じくらいの時間がかかっておかしくない(GT-Rは極めて特殊なモデルだったから予想以上の時間を要したのもまた事実だけれど)。現行モデルの生産が中止される話などディーラーにも入っていないというから、今しばらくは次期型へのモデルチェンジもなさそうだ。
要するにこのタイミングで次期型の“ほぼ決定”デザインを見せた理由は、Zそのものの戦略的事情(まだか~と叫ぶ英語圏ファンの大きな声に応えたい)もさることながら、むしろ、日産という会社の都合にも合致したと思えてならない。ご存じのように日産は今、会社として非常な苦境に立たされている。世界中の日産ファンに向けた、それはブランドアイコンのカタチを借りての“応援要請ののろし”のようなものではなかったか。
半世紀以上イメージを変えずに続いてきた
それゆえ、新型Zのデザインに対する日本とアメリカの盛り上がり方をSNSなどで比較すると、けっこうな温度差のあることは否めない。アメリカのピュアなZファンはおおむね大歓迎しているようだ。ところが日本のZファンには賛否両論あってデザイン議論がかしましい。
とはいえ、どこからどう見てもこれは“新しいZ”である。S30やZ32といった過去の名車と呼ばれるZへのオマージュを散りばめたが、それは歴史あるモデルやブランドの場合には当然のことで、むしろヘリテージをもつ者の強みだと言っていい。
考えてもみてほしい。世の中に半世紀以上にもわたって基本のイメージを変えずに続いてきたスポーツカーがいったい何台あるというのか? C2以降のシボレー コルベットと、ポルシェ 911だけである。
Zは確かに途中で2年の中断があった。雑誌の休刊と同じでフツウなら復活などありえない。けれどもZはわずか2年で蘇った。(当時は)稀代のビジネスマンと評されたカルロス・ゴーンによってだ。コルベットや911と同じく連綿と、とは言わない。けれどもそれに近い存在であることは間違いない。
911もコルベットも、その国を代表するスポーツカーだ。国民にも愛されて続けてきた。存在自体がもはや文化的ですらある。Zもそうだ、と言いたいところだけれど、文化圏でみればアメリカ色が濃い。そこに冒頭にも記したけれども、Zの特殊性があるのだと思う。
そのナカミは想像するしかない
ともあれ、今回の発表でZの存続は決まった(日産に非常事態が起きない限り)。現時点で発表されているスペックはごくわずか。デザインプロトの外寸と、V6ツインターボでMTがある、ということだけ。あとは市販までこのカタチを眺めつつ、そのナカミの想像をたくましくするほかないだろう。
車のサイズ感はもちろん、フロントウインドウやルーフの形状、内外ドアノブやエアコン吹き出し口などの様子からから、Z34のメカニカルコンポーネント、端的に言って“FMプラットフォーム”をベースとして使いつつも、いっそうの進化させたものになると予想する。
MTと組み合わせて楽しめるスペックはせいぜい400psあたりまでだろうから、スカイライン400R用のエンジンを積んでくる可能性が高い。これで“匠”が足腰を存分に鍛えてくれたなら、相当に面白い存在になりうる。最新の電子制御技術や電動パワートレーンを使わないぶん、原点回帰的なドライビングファンが期待できるかもしれない。
実をいうと、FRのそんなスポーツカーは今、世界的に見て絶滅危惧種である。世界中の“車運転好き”が喜ぶ、アフォーダブルなスポーツカーになってほしいと切に願っている。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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