アルファロメオ 147GTA

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
これからクラシックカーになるであろう車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

こんなに凝縮したアルファ ロメオはもう出ないんじゃないかな

——今回ですが、結構長いこと探していたモデルが出てきたので、それにしました。

松本 何だろう? 雰囲気から言うとフルノーマル車が少ないモデルかな?

——鋭いですね。アルファ ロメオの147GTAにしてみました。意外と状態の良い車、ないんですよね。あ、こちらの個体がそうですね。白、いいですね。

松本 美しいボディにハイパワーなエンジン。僕の好みだね。いいじゃない。

——147ってかなり売れたモデルですよね?

松本 156と一緒にアルファ ロメオの一時代を支えたよね。普通に足として使えるグレードだけじゃなくて、しなやかで粘り強い走りの147TIとか、魅力的なグレードも多かったし。

——なんか……5ドアモデルもありましたよね?

松本 もちろん。ホイールベースは変わらないけど、乗ったときのバランス的には5ドアの方が落ち着いた印象だったよ。
 

アルファロメオ 147GTA
アルファロメオ 147GTA

——それはちょっと面白い傾向ですね。

松本 そもそもアルファ ロメオのクオリティがグッと上がったのは1997年に登場した156からなんだ。デザイナーはワルテル・マリア・デ・シルヴァ氏。のちにVWグループのデザインのトップになった人物だね。日本に来た時に話したことがあるけど柔らかい雰囲気でセンスのいい人って感じだったね。僕のアルファ ロメオのイメージは、しなやかで、機敏な車なんだ。147という車はそのイメージにとても合致するんだよね。

——147もデ・シルヴァ氏の作品でしたっけ?

松本 すべてではないけど、関わってるね。156が分かりやすいんだけど、柔らかいフォルムに象徴的なラインを入れて、シャープさを演出するっていう、この手のデザインは飽きがこないんだよ。ずっと古くさくならない。色褪せないデザインは名車の基本だよね。

——GTAの話もおねがいします!

松本 あ、そうだね。エンジンは3.2L V6。よく この小さいボディに積んだよね。36mmほどフェンダーをワイド化しているんだけど、ホイールアーチのヘミング部分を薄くすることによってサイドビューのデザインにシャープさを残しているんだ。

——なるほど。「オーバーフェンダー=イカツイデザイン」ってイメージでしたけど、イタリア人が作るとまた違った雰囲気になるってことですね。

松本 そのとおり。もちろん、見た目だけじゃないよ。トレッド幅を増やしてコーナリングフォースや直進安定性も高めてある。フェンダー周辺だけ見ても、ポテンシャルの高さが感じられるよね。
 

アルファロメオ 147GTA

——やっぱりエンジンのポテンシャルは素晴らしいんですか?

松本 当たり前でしょ。アルファ ロメオの血統の証しとも言える代物だよ。

——そうなんですか? 確か古いV6の3.2Lエンジンですよね。

松本 あのね。古いって言わないでほしいなぁ。 これは伝統ある名機だよ。なんたって1979年から2005年までベースエンジンとして使われ続けて、しかも第一線のフラッグシップユニットだったんだよ。開発を行ったのはジョゼッペ・ブッソという、アルフィスタにとって伝説的なエンジンデザイナーなんだ。このV6エンジンの構想は、1960年代からあったそうだけど、実際には70年代に入ってから量産に向けて開発されたユニットなんだ。以前、アルファ6(セイ)という少しBMWのデザインに似たフラッグシップモデルがあったんだけど、それを買わないかって言われて東名の川崎から横浜町田まで試乗したことがあるんだ。 昔のアルファ ロメオにV6があったことを知らなかったけど、マフラーからの音はすごく良かった。その車はATだったから間延びした感じで官能性はちょっと物足りなかった。とはいえ、音は最高だったよ。164のQVも借りてよく乗せてもらっ てたんだけどこれも最高だったね。それらがベー スにあるすごく素朴で、ストレートに性能を感じる ことができるエンジンなんだ。

——確かレースにも使われてましたよね?

松本 そうだね。そのV6 SOHC、ブッソV6と言われるユニットは1993年から95年まで155 V6TIに使われていて、DTMでも活躍したんだよ。このエンジンは2.5LのNAながら400馬力以上と言われていたんだ。そして、147GTAに搭載されている3.2Lのユニットは1979年に作られた2.5LのSOHC12バルブ仕様をDOHC化し、24バルブにしてある。ブッソV6を積んだ量産車では最も出力があるエンジンなんだよ。

——すごいエンジンじゃないですか……。

松本 だからそう言ってるでしょ(笑)。エンジンサウンドはSOHCのときよりも低音が効いているんだけど、実はトルキーで乗りやすい。コンパクトなボディとMTで、伝説的な名機が楽しめる、それが147 GTAなんだよ。

——相当味の濃いアルファですね。

松本 こんなにアルファらしさを凝縮したモデルは、これから先も出てこないんじゃないかな。このブッソV6ユニットは2005年で生産は終了するんだけど、設計したジョゼッペ・ブッソはそれから 3ヵ月後に他界するんだ。なんともドラマチックな話だよね。おそらくすべてを見届けたんだね。たどりたくなるヒストリーがある車こそ名車への道に相応しいんじゃないかな。
 

アルファロメオ 147GTA
アルファロメオ 147GTA

アルファロメオ 147GTA

2003年に登場した、コンパクトな3 ドアハッチバックに、大排気量3.2L NAエンジンを搭載。伝説の GTAの名を冠した、147のハイパ フォーマンスモデルだ。エクステリア は前後トレッドを拡大し、エアロパー ツを装着することで迫力を増した。 撮影車両は6MTとなる。
 

※カーセンサーEDGE 2020年11月号(2020年9月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏