ランドローバー シリーズII

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
これからクラシックカーになるであろう車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。今回はすでにクラシックな、ランドローバーの礎を築いた、シリーズIIを紹介。ヒストリーも申し分のない、1962年式の1台だ。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

後世に語り継ぎたい、今のランドローバー社の礎を作ったモデルだね

——今回ですが非常に珍しいモデルにしました。ランドローバーのシリーズⅡです。いろいろストーリーがある個体みたいでして。

松本 また面白い車両を見つけてきたね。

——あ、この個体がそうですね。1962年式で、当時日本に輸入された5台のうちの1台なんだそうですよ。

松本 それはすごいね。58年前の車なのに未再生車だね。しかも林野庁で持っていたんでしょ? ヒストリー的にも申し分ないね。

——シリーズⅡって意外と知られていないですよね? こういう隠れた名車もいいかなと。まずは基本から教えてください!

松本 ランドローバーのシリーズⅠは1948年から1958年まで作られていたんだ。そして1961年からがシリーズⅡ。この車は1962年式だからシリーズⅡになるね。シリーズⅠとⅡはパッと見た感じではわかりにくいけど、Ⅱの方が10㎝ほどワイドボディになっているんだよ。シリーズⅡは曲面を使って新しさを打ち出していたのが特徴だね。細かく言うと、この車はシリーズⅡから発展したシリーズⅡAと呼ばれるタイプのようだね。

——なんか……雰囲気が凄いですよね…。

松本 そうだね。丁寧に使われていた雰囲気が残ってるよね。
 

レンジローバー シリーズⅡ
レンジローバー シリーズⅡ

——当時ってどんなポジションだったんですか? 結構知られてないですよね?

松本 そうかな? 僕は初期のシリーズⅠが欲しかったんだけど、反対されて買えなかったんだよね。若いうちに所有しておきたかったな。

——松本さん好みだったんですね。

松本 そうだね。特に2ドアで幌タイプ、オプションだったサイドウインドウの取り外しができるモデルがいいんだよ。あ、そうそう、このシリーズⅠの構想って1947年には考えがまとまっていたんだって。外貨とのキャッシュフローが目的で、当初は3年程度作ればいいとされていたらしいよ。ところが売れ続けて、現在ではランドローバー社はオフロード車のトップブランドだからね。すごい車だよ。強靭なはしご型シャシーはバンパーと溶接で連結されていて、剛性がとにかく高い。しかも錆に最も強いとされていた亜鉛メッキだったんだよ。

——亜鉛メッキって要はブリキですか?

松本 そうだね。僕が見たランドローバーのシリーズⅠはさらに強靭な耐腐食性の溶融亜鉛メッキっぽい色をしてたよ。

——かなりマニアな話になってきましたね。

松本 そういう話に凄さが詰まっている車を君が選んだからでしょ(笑)。
 

レンジローバー シリーズⅡ

——では、続けてください!

松本 まず、性能を優先した骨組みの車なんだよ。ボディの基本は有名なアルミ合金で、成分表から見ると5000番系というマグネシウムを添加したアルミ合金なんだ。

——凄い話になってきましたね……。

松本 これは加工すると硬化しやすい性質をもっているんだ。しかも耐食性が高くて、溶接性もいいんだよ。ランドローバー社は航空機で十分なノウハウをもっていたし、戦後すぐの話だから、鉄を製錬するんじゃなくて、手持ちの素材を大胆に使って作り上げたんだと思うんだ。

——時代を感じる話ですね……。

松本 ボディに鉄板を使っている箇所があるでしょ? ボディ前部のバルクヘッド、ドアの取り付け部にも使っていたんだけど、これは強度不足を補うためなんだ。アルミ合金を補強する形で鉄鋼製のプレートが取り付けてあってね。こっちのテールの部分がわかりやすいかな?

——ふむ。なんとなくわかります。

松本 これも亜鉛メッキだね。独特の模様だからわかるんだ。細かい部分から航空機技術との融合が見られるってことだね。

——ボディ色も不思議な感じですよね。

松本 いいところに気づいたね。実は亜鉛メッキって塗装がしづらいんだよ。この車も上から塗装しているけど塗料が付着しにくいんだ。だから何らかの理由で色をマシングリーンに塗ったんだと思うね。この色は工作機械などに塗る色なんだけど、道具感がたまらないよ。
 

レンジローバー シリーズⅡ

——よく残ってましたよね、この車。

松本 本当にそうだね。シリーズⅡの88インチのショートホイールベース仕様のモデルだから、使い勝手が良く運転しやすかったはずなんだ。だからこのままの状態で残っていたんだろうね。素晴らしいよ。シャシー、エンジン、動力系までしっかりと働いてきたと思うよ。基本設計が素晴らしいからハードな使われ方をしていても、こうして現存するんだと思うんだよね。

——設計した人も有名な方ですか?

松本 もちろん。ランドローバーシリーズを設計したイギリス人はアーサー・ゴダードさんという方で、もともと航空機エンジンの設計者だよ。しかもロールス・ロイスのマーリンエンジンに従事していたエンジニアなんだ。今でこそレンジローバーをプレミアムSUVっていっているけど、それもこれもこの素晴らしいエンジニアのおかげなんだよね。ディテールまで含めて、名車すぎるモデルだよ。
 

レンジローバー シリーズⅡ

レンジローバー シリーズⅡ

1948年、どんな環境にも順応できて走破できるタフな車として開発されたモデル。エンジンは4気筒の2260㏄で、4速MT。撮影車両は1962年式。
 

※カーセンサーEDGE 2020年10月号(2020年8月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏