BMW Z4 Mクーペ

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
クラシックカーになる直前の80、90年代の車たちにも、これから価値が上がる車、クラシックカー予備軍は多数存在する。そんな車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

細部を見ていくと実にBMWらしい希少なスポーツクーペだよね

松本 なかなか名車予備軍で、程度の良い個体を探すのは大変そうだね?

――もう慣れましたけど……大変です。

松本 やっぱり特別なコンポーネントをもったモデルになってくるよね。例えばBMW Z3Mクーペ(*1)とかね。M3のパワーユニットにハードなサスペンション、2.46mのホイールベースと1.74mの全幅で、ドライバーを選ぶバランスだったね。

――松本さんが好きなの知ってるので、今回はその遺伝子を受け継ぐZ4のMクーペにしました。どうですか?

松本 いいじゃない。Z4 Mクーペはデザインのバランスがとても良いね。特にMTで乗れるMクーペは最高だよ。昔一緒に乗ったよね? 運転してもらったら、ぎくしゃくしちゃって苦労してなかった(笑)?

――ありましたね。どうやってスムーズに運転すれば良いのか迷いました。急激にトルクが出てゆったりと運転ができないんですよ。運転代わったら松本さんはめちゃくちゃスムーズに運転してて。運転スキルの差を見せつけられたのをよく覚えています(笑)

松本 Z3のMクーペよりも、アクセルとボディの動きはセンシティブで難しいからね。

――それを聞いて少し安心しました。あ、こちらの車両ですね。早速ですが基本的なことからいろいろ教えてください!

BMW Z4 Mクーペ
BMW Z4 Mクーペ

松本 祖先であるZ3 Mクーペは今でこそ珍重されているけど初めはあまり注目を浴びなかったんだ。僕がよく運転させてもらった後期型のS54(*2)が搭載されているZ3 Mクーペなんか生産台数は1100台程度だからね。

BMWのZコンセプトだけど、最初のモデルは1989年に登場したZ1(*3)。次に1995年のZ3、2000年に今ではプレミアムがついて価格が高騰しているけどZ8(*4)が発売されたんだ。

――あーZ8の存在を忘れてました……。

松本 そして4番目のZ4(E85/E86)が2002年から登場したんだ。クーペは2006年からと結構遅くに登場してね、それと同時にZ4 Mクーペも登場したんだ。

Z4 Mクーペは北米では少ないけど、わずか2年間で4280台弱が生産されたんだよ。Z3 Mクーペに比べるとおよそ4倍弱の生産台数だからスタイリングによる要素は大きいだろうね。

――結構売れたんですね……。というよりZ3 Mクーペが想像以上に売れてないんですね……。

松本 そうだね。ちなみにZ3時代はロードスターが先に販売されたんだ。でもZ4 Mはクーペが先。しかもZ4 Mロードスターよりもクーペの方がロール剛性を上げてコーナリング速度を高めた仕様になっていたんだよ。

――そっか。Z3はロードスターが先か。

松本 サスペンションはE46のM3とたくさんのパーツを共通にしているんだ。ブレーキキャリパーはM3のコンペティション仕様のモノだし、アルミハブのフローティングディスクローターはM3 CSLのモノを使っていたんだよ。

エンジンはS54B32というM3と同様のユニットが搭載されていてね。シーメンス製のECUが使われていて特殊な感じがするんだよ。高回転での耐久性を考えて鋳鉄製のシリンダーブロックも特徴の一つだね。

――かなりガチなスポーツモデルですね。

BMW Z4 Mクーペ

松本 そうだね。他にもM3とは別のZF社製の6MTが採用されていたり、LSDもE46のM3と同じものを採用しているんだよ。

――中身だけじゃなくて、クーペのルーフとか見た目も個人的に好きなんですよね。

松本 Z4のクーペボディはダブルルーフを使って空力的にも優れているしね。ファストバックとリアフェンダーの形状でスタビリティを高くできたといわれているんだよ。このソリッドルーフの恩恵でとても剛性が向上したんだ。

――やっぱりZシリーズはオープンを好む人が多いんですかね? 耐候性も高いし、実用性もあっていい車だと思うんですが。

松本 確かに本道ではないかもしれないね。ちなみにZ4はロードスターとクーペではデザイナーが違うんだよ。知ってた?

――知らないです……。

松本 このクーペをまとめたのは“トーマス・サイチャー”という人だね。最初から関わっていたわけでなく、途中からの参加だったらしいんだけど、よくここまでバランスのとれたクーペに仕上げたよね。

僕も断然クーペがカッコイイと思うよ。見た目、内容、ともに名車と呼ぶに相応しい車だと思うな。今後価値がどう変わっていくのか、注目したいよね。
 

BMW Z4 Mクーペ
BMW Z4 Mクーペ

■注釈
*1 Z3 Mクーペ
1998年に登場したZ3クーペをベースにしたMモデル。異形ともいえるクーペデザインが特徴で、前期、後期両方に設定されていた。

*2 S54
E46 M3をはじめとする同年代のMモデルが搭載していたエンジンで正式名称はS54B32。343ps、37.2kgmというスペックを誇っていた。

*3 Z1
Zコンセプトの最初のモデルとして1989年に登場。特徴は垂直に格納されるドア。国によってはドアを下げたままの走行も可能だった。

*4 Z8
2000年に発売されたオールアルミニウム製ボディをもつオープンスポーツ。映画「007」にボンドカーとして登場したことでも有名。
 

BMW Z4 Mクーペ(初代)

クーペとロードスターが用意されたZ4の最上位モデル。名エンジンと賞される3.2Lの直6ユニットを搭載し、Z4では唯一のMTモデルの設定となっていた。2006年から2009年まで生産され、2009年にフルモデルチェンジされるが、Z4の2世代目モデルにはMモデルの設定はされなかった。
 

※カーセンサーEDGE 2020年5月号(2020年3月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏