フォルクスワーゲン ゴルフⅡとテリー伊藤さん▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

ゴルフ人気による相場上昇に、ちょっと戸惑っています

今回は、「スピニングガレージ」で出合ったフォルクスワーゲン ゴルフII について、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

自動車評論家の徳大寺有恒さんは、名著『間違いだらけのクルマ選び』においてゴルフIを基準に評価していたのは有名な話です。国産メーカーもゴルフをお手本に様々な車を世に送り出しました。

つまりゴルフは、日本人のDNAに深く刻まれたモデルと言えるでしょう。

フォルクスワーゲン ゴルフⅡ(写真:柳田由人)▲ゴルフIの雰囲気を受け継ぎながら、ボディサイズを拡大したゴルフII。この四角いラインがたまりません

そんなゴルフに異変が起こっています。

今回紹介するゴルフIIの中古車相場が、かなり上がっているんですよ。数年前までは50万円以下の中古車が多くて中には10万円台の車もあったのに、僕がちょっとよそ見をしている間に100万円を超える車が多くなってきました!

すべてにおいて“普通”であるゴルフにまでこの現象が出ていることに、僕はちょっと戸惑っています。

でもよく考えれば当たり前のことかもしれません。

今、若い世代の間では “新しいものを受け入れない”という風潮が生まれています。

最新モデルのデザインが自分の暮らしに馴染まないと感じる人が、古い車に目を向けている。

フォルクスワーゲン ゴルフⅡ▲Cピラーのデザインは、現行型ゴルフにも受け継がれるアイコンとなっています

彼らが着目しているのは予算300万円以内で手に入る車たち。これを超えると今度は車が生活を圧迫してしまう。

無理して高い車を手に入れるのは彼らの価値観には合わないのです。

ゴルフはいろいろな意味でちょうどいい車です。例えるならラルフローレンのような存在。

個性を主張しつつも、とがりすぎていないから肩に力を入れずに乗りこなせる。

ゴルフIIと同じ時代のイタリア車やフランス車が僕は大好きですが、ゴルフを選ぶ人はイタフラ独特の頼りなさを求めていません。

例えば、イタフラを選ぶ人は途中で車が動かなくなったことを笑い話にできるけれど、ゴルフオーナーは武勇伝より安心感を求めるイメージです。

でも、もし何か起こったときは落ち着いて対処できる。車同様、よくできた人ですよ。

フォルクスワーゲン ゴルフⅡ▲堅実だけれど、人とは違う暮らしをしたい。そんな人にピッタリの車ですよ

テリー伊藤ならこう乗る!

車で個性を表現する手段のひとつで、サビ塗装が流行しています。自然にできたサビを生かしてサビが広がったように見える塗装を施すのですが、マニアックな楽しみ方として、ゴルフIIでサビ塗装を施すのも似合うでしょう。

あるいは今回見つけたシャンパンゴールドのように、国産車では似合わない素敵な色のゴルフを選んでノーマルの良さを味わうのも楽しいと思います。

フォルクスワーゲン ゴルフⅡ
フォルクスワーゲン ゴルフⅡ▲ゴルフIIは丸目2灯が基本ですが、GTIに採用された4灯に変えることもできるそう

僕の印象に深く刻まれているのは、真っ赤なゴルフII。若い頃に付き合っていた彼女が乗っていたんですよ。

当時、お嬢様系の女子大生でゴルフIIに乗る子が多かったように思います。

派手な感じがしないし、いわゆる“車好き”とはかけ離れた層が選んでいたような……。ATも設定されていたから選びやすいというのもあったのでしょう。

そして何よりヤナセが扱っていたから、メルセデス・ベンツに乗るご両親も安心だったのでしょうね。

フォルクスワーゲン ゴルフⅡ▲この直線的なインテリアも当時の雰囲気を色濃く表す部分です
フォルクスワーゲン ゴルフⅡ▲取材車両はインテリアが革仕様に。「僕はファブリックの方が好み。取り替えることはできるのかな?」とお店にいろいろ聞いてしまいました

その頃の空気感を楽しみたいから、僕が今このシャンパンゴールドのゴルフIIを買うなら、ガールフレンドにプレゼントしたいです。

ゴルフはどこをとってもすごく普通。これはものすごいことです。

でも普通だからこそ、自他ともに認める“車変態”の僕は退屈に感じてしまうでしょう。

ゴルフが似合うのは、僕とは正反対の堅実な人じゃないでしょうか。

だからこそ、僕もゴルフをプレゼントするなら堅実な女性を選びます。

例えば学生時代に欲しいと思ったギター。当時のギターはビンテージものになり値段も上がっていますが、経済的に余裕ができたからおじさんになった今手に入れる。

それと同じように、ゴルフを選ぶのも素敵だと思います。

冒頭で話したように、ゴルフは日本人のDNAに深く刻まれたモデルです。

今、40~50代の人がゴルフIIを素敵に乗りこなしていると、今度はその姿を見た平成生まれの若者が「かっこいいな、いつか自分もゴルフに乗ろう」と感じるのではないでしょうか。

スピニングガレージで話を聞いたところ、実際、運転免許を取得して初めての車でゴルフIIを買いに来る人が増えているといいます。

そして、彼らがゴルフを新しい感性で乗りこなす姿を見て、今度は令和生まれの人がゴルフを選ぶという時代が来るかもしれないですよ。

僕は子供の頃にビートルに憧れて、何台かビートルを買いました。でもビートルはさすがに何世代にもわたって多くの人が選ぶというところまではいかなかったように感じます。

オシャレで、でも堅実な暮らしも忘れない。そんな人にこの時代のゴルフを素敵に乗りこなしてもらい、次の世代へと受け継いでいってほしいですね。

フォルクスワーゲン ゴルフⅡ
フォルクスワーゲン ゴルフⅡ▲ゴルフは究極のベーシックカー。あらゆる面が“普通”です。その良さを次の世代にも受け継いでほしいですね

フォルクスワーゲン ゴルフⅡ

1974年にジョルジェット・ジウジアーロが世に送り出した傑作、初代ゴルフ。2代目ゴルフは1983年にデビューし、1992年まで製造された。初代よりボディが大きくなるも、日本の5ナンバーサイズに収まる車体は扱いやすく、日本でも大ヒット。ベーシックなCiの他、ホットハッチのGTI、GTI 16Vなどが導入された。また、ゴルフの最低地上高を高めて背面タイヤを背負ったゴルフカントリーなどの派生モデルも存在。これらは当時からカルト的な人気を誇った。

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/柳田由人

テリー伊藤

演出家

テリー伊藤

1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『ビビット』(TBS系/毎週木曜8:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)、他に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。