ランドローバー レンジローバー イヴォーク ▲2011年12月に登場し、2019年途中まで販売されたプレミアム・コンパクトSUV、旧型ランドローバー レンジローバー イヴォーク。写真はカーセブンインポート三郷店が販売する2015年式ピュアで、走行5.3万km。車両本体価格は259.9万円

世の中の大半の人は新型も旧型も同じに見える?

こちらは、雑誌「カーセンサーEDGE」で8年以上続いている自動車評論家MJブロンディさんの長寿連載「EDGEセカンドライン」のB面である。すなわち、なぜかその取材現場に同席している自動車ライター伊達から見た「同じ車の別側面」だ。

第4回目となる今回は、2019年8月27日発売のカーセンサーEDGE 10月号で取材した2015年式ランドローバー レンジローバー イヴォーク ピュア(車両本体価格259.9万円/走行5.3万km)のB面をお届けする。

「A面」にてMJブロンディさんが語った内容の要旨はおおむね以下のとおりだ。

「確かにレンジローバー イヴォークはファッショナブルな車だが、一時の流行りで終わるレベルではない“絶対的な美”をまとっている。そしてそれは、本年6月に登場した新型も、それ以前の旧型も変わらない。であるならば、お安くなった旧型の中古車の方が良いではないか」

自動車デザインに造詣が深く、日産自動車のチーフデザイナーだった前澤義雄さん(故人)と自動車デザインに関する雑誌連載も長く行っていたMJさんらしい、本質に根ざした意見である。そしてその意見には、自動車デザインには大して造詣が深くない筆者も諸手を挙げて賛同したい。

そしてそのうえで、造詣が深くない者ならではのミもフタもない意見も開陳させていただく。

新型が登場したことで比較的お安く買えるようになった旧型レンジローバー イヴォークの中古車は、「見え」や「見栄え」「世間体」を重視して車を選びたいユーザーにとって非常に素晴らしい選択肢である。

なぜならば、世の中の大半の人は新型イヴォークも旧型イヴォークも見分けなどつかないし、そもそもレンジローバー イヴォークがフルモデルチェンジしたことなどまったく知らないからだ。
 

ランドローバー レンジローバー イヴォーク▲旧型イヴォークには5ドア版と3ドア版があり、5ドアは「イヴォーク」、3ドアは「イヴォーク クーペ」と呼ばれる。5ドアと3ドアでは全長、全幅、ホイールベースはともに同じだが、全高のみクーペの方が3cm低い。搭載されたエンジンはすべて2L直4の直噴ターボ

「型遅れ感」はほとんどなく、そもそも型式変更自体知られていない

カーセンサーnetに掲載された物件の情報を見るだけでなく、こういった記事も熱心に読む方というのは、おそらく「車好き」と呼ばれる人種である場合が多いだろう。

そして車好きにとって車というのは「関心事の中心近くにあるモノ」であるゆえ、「新型と旧型の見分けがつかない」とか、「モデルチェンジされたことすら知らない人が多い」というのは想像しづらいかもしれない。

だが世間というのはそんなものだ。

日本に住まう成人の推定9割はレンジローバー イヴォークの新旧など見分けがつかないし、モデルチェンジの事実も知らない。というか、そもそも「レンジローバー“イボーク”って何ですか?」ぐらいの感じである可能性も高い。

いや、「そこそこ車が好きなヒト」であっても割とそうなのだ。

事実、今回の取材車両を撮影してくれたカメラマン氏も、イヴォークのモデルチェンジについては「あ、そうなんですか? 知りませんでした」と平気で言っていた。

そのカメラマン氏は「今回たまたま車の撮影を頼まれた」という人ではない。車専門ではないが、車の撮影も普通以上にガンガンしているタイプのカメラマンさんだ。

そんなヒトでも、そんなモンなのである。

であるならば、「フルモデルチェンジして型遅れになっちゃったから、今さら買うのは恥ずかしいかも……」なんてことを思う必要はいっさいない。旧型となった時点でなお、その車の造形や雰囲気が「イケている」と思うのであれば、それを買えばいいのだ。新型の新車よりも断然お安い予算総額で。

「わはは。あいつ、今さら型遅れの中古車なんぞ買いよった」と陰で笑う者もいるかもしれないが、そんなのは10人中1人いるかいないか程度である。

もしもその車が旧型レンジローバー イヴォークであったなら、10人中4人は「おっ、あの人なんか知らんけどカッコよさげなガイシャのSUV買ったな?」と思い、残る5人は「………」と無反応。つまり「車とかよく知らないし、どうでもいいし」というのが、おおむね今の時代だ。

ならば安い方、つまり「旧型の中古車」でも十分以上ではないか。
 

ランドローバー レンジローバー イヴォーク▲ダッシュボードを貫いているのように見えるセンターパネルは、兄貴分であるレンジローバーゆずり。撮影車両はオプション装備だった全面ガラスの「パノラミックルーフ」が装着されている
ランドローバー レンジローバー イヴォーク▲ATの操作はダイヤル式。当初はアイシンAW製の6速ATが採用されていたが、2014年モデルからはZF製の9速ATに変更された
ランドローバー レンジローバー イヴォーク▲撮影車両のシートはブラックレザー。走行5万km台ゆえ「新車同様!」みたいな感じではないが、いわわゆる使用感は少なめと言えるコンディションだ

「おしゃれで旬で、そんでもって安いから」という理由で十分じゃないか

以上のとおりの鉄壁の理論(?)により、「見栄えの良い、イケてる感じの輸入SUVを比較的安価に手に入れたい」と考えている人にとって、車両価格200万円台でまずまず好条件な物件が買えるようになった旧型レンジローバー ランドローバー イヴォークは、大注目すべき選択肢のひとつであることがわかった。

だが、ある種の人はこうも言うだろう。

「車ってのは見栄えとか世間体とか女子ウケとか、そんなくだらない理由で選ぶべきモノではないでしょ? そんな物差しではなく、乗り味とか諸性能が自分にとってイイかどうかという本質で選ぶべきでしょ!」と。

確かに、その意見にも一理ある。

とはいえ、ある種の人はそこもさほど気にする必要はない。

や、自動車というものに対してかなり真摯でマニアックな人は、新型イヴォークと旧型イヴォークの乗り味の違いは子細に感じ取るだろうし、そこまでマニアックではない普通ぐらいの人も、「新しいやつの方がいいな、なんとなく」ぐらいは確実に感じるだろう。またそもそも新型の後席は単純にかなり広くなり、快適になっているし。

だがそれは「新型と旧型を(ほぼ)同時に乗り比べた際に初めてわかること」でしかない。

すべてを覚えている超マニアックな人はさておき、一般的な人が普通に(コンディションの良い)旧型だけに乗れば、「ああ、普通にいい車だなぁ」と感じるものだ。「新型の方が何かといい」のは事実だが、それは「だから旧型は悪い」という意味ではない。「新型の方が“より”いい」というだけの話なのだ。
 

ランドローバー レンジローバー イヴォーク▲ボディ後端に向けてルーフが微妙に下がり、しかしウインドウ下部のラインは微妙にせり上がっていくというこのあたりの造形は旧型も新型もほぼ同様で、イヴォークという車の「おしゃれ感」を支えている大きなポイントのひとつ

以上、ここまで展開してきた筆者の話は「非常に浅い」ということを我ながら理解している。要するに「旧型イヴォークってまだまだイケてる感じのおしゃれな輸入SUVで、それなのに結構お安いから、オススメですよ」以上のことは、実は何ひとつ言っていないからだ。

硬派な自動車マニアからすれば噴飯モノの記事だろう。

だが「それでいいじゃないか」と筆者は思っている。

まるで空手着を着て真冬の滝に打たれるかのような硬派でマジメな自動車趣味があってもいい。だがそうではない類の、もっと気楽な自動車趣味というか「自動車選択」があってもいいじゃないかと、わたしは思っているのだ。
 

文/伊達軍曹 写真/大子香山
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。