▲初代SLであるW198の後継として1963年から71年まで製造された2座スポーツモデル。ボディは脱着可能なハードトップを備えたクーペとロードスターの2種類があり、その美しいルーフデザインは「パゴダルーフ」と呼ばれている。性能面では4速AT、パワステ、機械式燃料噴射装置など、多くの最新技術が採用され、エンジンはデビュー時が2.3L直6。その後2.5Lの250SL、2.8Lの280SLへと進化を続けていった ▲初代SLであるW198の後継として1963年から71年まで製造された2座スポーツモデル。ボディは脱着可能なハードトップを備えたクーペとロードスターの2種類があり、その美しいルーフデザインは「パゴダルーフ」と呼ばれている。性能面では4速AT、パワステ、機械式燃料噴射装置など、多くの最新技術が採用され、エンジンはデビュー時が2.3L直6。その後2.5Lの250SL、2.8Lの280SLへと進化を続けていった

才能がある人たちにしか作れない車だね

EDGE:さて、今回なんですけど、テーマは「お宝」です。

松本:この企画、出てくる車はどれもお宝じゃないか。

EDGE:そうなんですよ。よく撮影させてくれるなって個体ばかりですからね。今回はスーパーカーやヴィンテージとはまた違ったお宝といえる、280SLでいこうかなと。

松本:いいねぇ。パゴダルーフが有名だからてっきりもう紹介しているかと思ったけど、まだだったんだね。

EDGE:はい。ところで、SLっどんな意味でしたっけ?

松本:きみ、教えたことすぐ忘れるでしょ? 何回も説明した気がするんだけど……。まあいいや、メルセデスのSLはスポーツ・ライトウェイトという意味だよ。2代目のSLがコンパクトで女性にも受け入れられるモデルだったんだけど、これはデザインといいエンジニアリングといい、とても歴史に残るエンジニアとデザイナーが作っていたんだよ。

EDGE:へーそれは初耳ですね。あ、この車です。キレイだなぁ。

松本:そうだね。程度が良いから余計に上品に見えるね。

EDGE:このモデルはSLとしては2代目ですよね?

松本:そうだね。初代SLはチューブラフレームの純レーシングカー並みのスペックだったけど、この2代目のW113というモデルはオシャレで親しみやすいデザインなんだよ。でもハンドリングは抜群でね。それもそのはず、戦後のメルセデスのグランプリカーのエンジニアである「ルドルフ・ウーレンハウト」が関わったモデルなんだよ。彼はこの時代に高出力のエンジンに頼ることなく、シャシーとハンドリングが良ければ素晴らしいスポーツカーができると思っていたんだ。

EDGE:初期型は230SLって言うんでしたっけ?

松本:そうだよ。230SLはW111セダンのプラットフォームを30cmもホイールベースを短くして1963年に開発したんだ。セダンでも剛性が高いメルセデスなのに、さらに30cmも短くしちゃうんだよ。剛性の高さが想像つくよね。そして開発後、ウーレンハウト自身がハンドルを握って車はパワーだけじゃないことをサーキットで立証して、数々の伝説を作ったんだよ。今だったらジョン・バーナードやロス・ブラウンが作ったモデルの市販車のようなモノだからね。そりゃ凄いよ。エンジンは初期型であれば2.3Lの6気筒ユニット。それに機械式のインジェクションを組み合わせてるんだ。このモデルが67年まで作られたんだよ。でもメインマーケットのアメリカではそれほど人気はなかったんだ。230SLから250SLを経てそのあとに280SLだね。280SLは実用性もグッと上がってアメリカでもヒットしたんだよ。だから1967年から71年まで作られた半分以上がアメリカに輸出されたんだ。

EDGE:今回の車は最終型の1971年式です。サイドマーカーが前後に取り付けられているってことはアメリカ仕様ですかね?

松本:そりゃ間違いなくアメリカ仕様だね。でもこのマーカーがいい人もいるからね。さっきも言ったけど280SLは様々な部分が改善されているんだよ。エンジンだって排気量アップに伴って20馬力アップしているし、トルクが凄く向上してドライバビリティもいいよ。僕も20代後半に欲しくて乗せてもらったことがあるんだけど、オシャレなオープンカーっていう感じで、走っても楽しいんだ。内装だって豪華になってさ。米国に合わせるようにグランツーリスモ感がアップしたんだよ。

EDGE:デザインはどうなんですか? パゴダルーフが有名ですよね?

松本:デザインがまた凄いんだよ。基本ロードスターだけどハードトップがカッコイイんだ。オープンも素敵だけど個人的にはハードトップの方がスタイリッシュで好きだなぁ。ルーフの後ろをほんの少し凹みを付けてるんだけど、目の前で見ると平らに見えるんだよ。それにクオーターウインドウのパーティングも実にきれいでエレガントなんだ。

EDGE:現代の車にはないデザインですよね……。

松本:そのデザインを生み出したのがポール・ブラックというフランスのデザイナーで縦目のメルセデスをデザインして黄金期を作った人なんだ。その後BMWに移籍して世界で最も美しいクーペとして有名なBMW 635 CSiなども手がけたんだよ。

EDGE:知らなかった。それはスゴイですね……。

松本:BMWの初代3シリーズだってこの人だからね。ポール・ブラックがデザインしたモデルが基盤となって自動車メーカーは躍進したくらいヒットメーカーなんだ。時代を作った人ということになるよね。本当に才能がある人が作った車の集大成の1台がメルセデス 280SLなんじゃないかな。決して廃れない1台であることに間違いないよ。

280SL
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text/松本英雄
photo/岡村昌宏

※カーセンサーEDGE 2017年5月号(2017年3月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています