▲2018年、2代目へとフルモデルチェンジしたヒミコ ▲2018年、2代目へとフルモデルチェンジしたヒミコ

ミツオカの車が似合うのは、成功した個人事業主?

1990年のデビュー以来、日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパー。中古車マニアでもあるMC、Boseが『カーセンサーnet』を見て触手が動いたDEEPでUNDERGROUNDな中古車を実際にお店まで見に行く不定期連載! 今回はイギリスのクラシックカーをモチーフにした2台のミツオカ車をフィーチャー!

今回は光岡自動車 東京ショールームにお邪魔した記事の後編です。

 

日本人だけでなく世界の車好きを驚かせたファッションスーパーカー『オロチ』に試乗し、ミツオカの車の奥深さを感じたBoseさん。

「僕は1980年代~90年代初めごろまでの車が好き。デビューから30年前後経過している車に乗っているので、いろんなことを聞かれるんだよね。一番多いのは『古い車はかわいいから私も乗ってみたいけれど、壊れたりしませんか?』ってこと。その時、『いや、全然平気だよ』と答えたら嘘になるわけ。やっぱり現代の車のように手をかけなくても何も心配せず乗れるものじゃないからね。レトロな感じは好きだけれど心配はしたくない。そういう人はミツオカの車って面白いと思う。実際、僕のまわりにも興味をもっている女の子とかいるし」
 

▲菅谷さんに光岡自動車の成り立ちや、1台1台の車に込めた思いを聞く▲菅谷さんに光岡自動車の成り立ちや、1台1台の車に込めた思いを聞く

展示場に並べられた黄色いビュートを眺めながら、「たぶん旦那さんは車好きで普段はメルセデス・ベンツに乗っていて、週末に趣味でクラシックカーに乗っていそう。そして奥さんにビュートを買ってあげていそう」と妄想を膨らませる。

すると営業担当の菅谷篤さんが「そうですね。ビュートのターゲットは女性になります。そして実際に奥さまのセカンドカーという使われ方が多いです」と返す。

そんな話をしていたら、たまたまショールームの前の道を緑色のビュートが通りかかった。初老のドライバーは我々に気づくと笑顔で手を振る。

「今のドライバーも平日の昼間なのに、ラフなチェックのシャツにパナマ帽をかぶって運転している。“成功した個人事業主”感が漂っているよね(笑)」

菅谷さんによると、ミツオカの車はモデルによりオーナーのキャラクターがはっきり現れるという。例えばオロチは一代で会社を大きくした、勢いのある社長。ヒミコは弁護士や開業医などのイメージが強いそう。
 

▲ビュートとヒミコをマジマジと見ながら「ベース車にパーツを貼り付けたのではなく、しっかりデザインされているのがすごいよね」と感心するBoseさん▲ビュートとヒミコをマジマジと見ながら「ベース車にパーツを貼り付けたのではなく、しっかりデザインされているのがすごいよね」と感心するBoseさん

ご存じのとおり、ミツオカのモデルはベースとなる国産車があってそれをクラシカルな雰囲気に仕立てたもの。だがベース車両をどのように改造しているのか、パッと見にはわからない。

例えばビュートのベース車は日産 マーチだが、マーチは5ドアハッチバックなのに対してビュートは4ドアセダン。ヒミコのベースはマツダロードスターだが、ホイールベースはロードスターより600mmも長い。

「それは車の中を見ていただくとわかります」。こういうと菅谷さんはビュートのトランクを開けた。

「トランクの奥にもう1つトランクスペースがある! なるほどね。つまりビュートはマーチのリアハッチを外してトランクを溶接しているわけだ。こうやってみると面白いな。手がかかっている。マーチはオーテックがレトロ調のボレロを作っていたよね。あれはフロントフェイスを変えただけだけど、ビュートは全体に手が入っている。もちろん値段も違うけれど、かなり凝っていることがわかるよ」

ちなみにビュートはリアハッチを外したことによる剛性不足を補うために、ルーフに鉄板を溶接しているそう。そのためマーチとはルーフ形状が異なる。

ヒミコは独特のシルエットを出すためにホイールベースを前側に延長。ボンネットを開けると前方にかなりスペースがあることがわかる。
 

▲フロント部を延長しているのでエンジンはかなり後ろにある▲フロント部を延長しているのでエンジンはかなり後ろにある
▲インテリアはロードスターのデザインを踏襲しているが、本革で高級感を高めている▲インテリアはロードスターのデザインを踏襲しているが、本革で高級感を高めている
▲イギリスのクラシカルなライトウェイトスポーツカーはトランク部分にキャリアを付けて革のスーツケースを載せて旅する雰囲気が似合う。ヒミコのリアデザインはそんな姿をモチーフにしている▲イギリスのクラシカルなライトウェイトスポーツカーはトランク部分にキャリアを付けて革のスーツケースを載せて旅する雰囲気が似合う。ヒミコのリアデザインはそんな姿をモチーフにしている

「これだけ形が違うのにエンジンに“SKYACTIV”って書いてあるのが大きな安心感だよね。僕が選ぶ車は不安なものばかりだから(笑)。でもミツオカが目指しているのはそういうことだもんね。昔のジャガーやモーガンに乗るのは普通の人にとってかなりスリリング。でもこれなら安心ですよって。ある意味、ここに未来がある気がするな。ミツオカに僕のデザイン案を持ち込みたいくらいだよ(笑)」

ショールームでヒミコの運転席に座ったBoseさんはフロント先端までの距離に驚く。

「ホイールベースを前に伸ばしたということは、運転席とかはロードスターと同じってことだよね。すごく後ろにいる感じがする。不思議な感覚。こんなに長いのに2シーターだから後ろに人が乗れない。贅沢だよね。不条理がもたらす贅沢。インテリアも贅沢だよ。実車を見るとロードスターより200万円以上高いというのが理解できるし、弁護士などが好むというのも納得できるね」
 

▲前、長いなあ(笑)。ロードスターがベースなんて信じらない▲前、長いなあ(笑)。ロードスターがベースなんて信じらない

ヒミコという名前もいいよね。Boseさんは菅谷さんにそんな言葉をかける。

「最近、日本車のネーミングがちょっとしんどいなと感じることがあるんだよね。いろいろな言葉が商標登録されているから使えるものがなくて、何語だからわからないような名前を作りあげたりするでしょう。それならいっそのこと発想を変えて日本の名前にすればいいじゃんって思う。世界を見渡したらそっちの方がウケるんじゃないなって」

すると菅谷さんは「ミツオカはロンドンに支店があり、ヒミコが人気」と教えてくれた。

「おもしろいね。元々会長が古い英国車に憧れてミツオカの車が生まれた。それがイギリスで人気になる。逆輸入? なんて呼べばいいのかな。でもイギリスにもクラシックカーのデザインが好きだけれど壊れるのは怖いという人はいるはず。『これの中身は日本車だろう? なら安心じゃないか』という需要は絶対にあるよ」
 

ビュートのボディカラーは全62色!? ヤバい、奥さんが知ったら絶対に欲しがる

▲ボディに付けられたアルミのモール。「僕はこれが好きなんだよね。今の車で採用されることはほとんどないのが残念」▲ボディに付けられたアルミのモール。「僕はこれが好きなんだよね。今の車で採用されることはほとんどないのが残念」

ショールーム内であらためてビュートをじっくり眺めるBoseさん。「ボディサイドのモールがいい味なんだ。最近の車はモールがなくなってさみしい」と話す。

「うちの車は古いゴルフとVクラス。どちらも壊れることもあるから『1台は普通のにしてよ』と奥さんに言われるんだよね。ビュートを見せたら絶対『これいいじゃん、かわいい! しかも壊れないんでしょ?』って言うよ。そして買った後にピンクがいい、薄紫に塗り直すって言い出すのが見える」
 

▲選択肢がありすぎて逆に選ぶのが大変。でも自分だけの1台を作れるって楽しいだろうね▲選択肢がありすぎて逆に選ぶのが大変。でも自分だけの1台を作れるって楽しいだろうね

すると菅谷さんが「今ならできますよ」とうれしそうに話す。

「このビュートは生誕25周年を記念した特別仕様車です。ボディカラーを62色からお選びいただけます。インテリアも4色用意しています」(菅谷さん)

「マジ! それはすごい!! 世界に1台、自分だけのビュートを作ろうってことだ。車にとって色は大事だからね。贅沢な買い方だよ。赤だけで何種類もあるのがすごい。逆に選ぶのが大変(笑)。本当はどの車もそういう選び方ができたら最高なんだけど、コストの問題もあるから現実的には難しい。それを実現できるのは大手には無い強みだよね」

ご存じのように国産車では白(パール系)と黒が圧倒的に人気が高く、中古車も相場が高くなる。でもミツオカの車は白や黒より色味があるものを選ぶ人が多いそう。独自の世界観を築き、何を言われようとそれをブレずに貫く。それこそが光岡自動車にしかできない強みなのだろう。
 

text/高橋 満(BRIDGEMAN)
photo/篠原晃一