▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

中古車店の店頭で、切なさが込み上げてくる

今回は、「エーゼット オート横浜」で出合ったシトロエン C6について、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

1970年式のシトロエン DSとひと夏の恋に落ちそうになったお店で、もう一人、素敵なレディと出合いました。シトロエン C6です。

2CVは常に“もう一度乗りたい車”の上位にいるし、最近ではDS3を2台乗り継ぐなど、シトロエンはどの時代も魅力的です。でも僕はC6にちょっと負い目があるんです。久しぶりに実車を前にして、その感情が甦ってきました。

2006年にC6が日本で登場したとき、僕はそのスタイルを見て一目惚れしました。ライバルモデルとは一線を画す独創的なエクステリア。

『BRUTUS』(ライフスタイル情報誌)が紹介するモダンなホテルのようなインテリア。どこをとっても魅力的で、試乗してすぐに「欲しい!」と思いました。

でも僕は買わなかった。本当は好きで仕方ないのに「ちょっと大きすぎるかな」「フロントのオーバーハングが長くて不便かな」と、あら探しをして、結局乗らなかったんです。

当時、僕には乗る勇気がなかったのだと思います。自分の根性のなさが不甲斐なくて、デビューしてから10年以上経ってもどこかで負い目を感じて目を合わせられない感覚。中古車屋さんで車を見て切ない気分になるのは久しぶりです。

長いフロントのオーバーハングと、対照的に思い切りぶった切ったようなリアスタイル。ともすればアンバランスになりがちなシルエットなのにここまで美しくデザインするなんて、見事としか言いようがありません。こういう車はやっぱり日本のメーカーからは出てきませんよね。

最先端にいる人は別にして、多くの日本人は服装もファストファッションでいいと思っている。世の中がこれだけ便利になると、僕らは何も考えず便利な方へと流れていく。そこで満足しちゃうから先に進めない。

車もその感覚と同じなんですよ。どれだけカッコよくても「狭い」「燃費が悪い」と言うとすぐに拒否反応を起こしてしまいます。

でも不便さと引き換えに、美しさやカッコよさを磨きあげたものも存在します。その最たるものがハイヒールでしょう。

歩くうえであれほど不便なものはないですが、ハイヒールを履いた女性の佇まいはセクシーですよね。C6の美しさはそこに通じるものがあると思います。

もうひとつ、人は今までそこにあったものがなくなると、それを好きになる。マイケル・ジャクソンも晩年はゴシップを耳にするばかりで、彼の音楽をほとんど聴かなかった。でも亡くなった途端に彼の音楽は世界中で再評価された。

C6も2012年に製造が終了してからじわじわと人気が高まっていると聞きます。

テリー伊藤なら、こう乗る!

エーゼット オート横浜を訪れたときは、なんとC6が全部で5台ありました。ガンメタ系のグリファルミネーター、茶系のガナッシュ、限定車だったシルバー系のグリフェールなどC6にはいろいろなカラーがあります。

僕ならボディはベージュ系のサーブル ド ラングルニュを選びたい。この組み合わせが最も華やかなフランスの香りを感じることができます。

インテリアは迷わずベージュ。ベージュインテリアは汚れるから敬遠されがちですが、そんなこと気にしちゃダメですよ。乗ってどれだけファンタジーを感じられるか。その視点だけで選ばないと!

昔からシトロエンには雨や曇りの日が似合う。それはC6も同じです。そしてC6は、軽井沢のような閑静な別荘地がよく似合う。実際、軽井沢に遊びに行くとC6をよく見かけるんですよ。

きっとあそこに別荘を持って長期滞在する人の中に、C6をよしとする共通の価値観があるのでしょう。僕もC6を手に入れたら軽井沢の別荘に遊びに行きたいですね。

DSと違い、C6は現代の車です。何も心配することはありません。シートヒーターもついているし、ベースモデルならリアシートを倒してトランクを広げることもできるから、普段使いでもへっちゃらですよ。

でもさすがに20代の若者にはちょっと似合わないかな。何台かの車を乗り継いだ30代以上で、ジャケットをさらっと着こなせる雰囲気を持った人に乗ってほしい。

あとは気品ある女性。女性の車好きはズルイですよ。だってどんな車に乗っても似合うのですから。C6のようなクセのある車だってためらわずに乗ってほしいですね!

▲好きなのに、一緒になれなかった……。その負い目が今でも残っています ▲好きなのに、一緒になれなかった……。その負い目が今でも残っています

シトロエン C6

XMの後継モデルとして2005年に登場したC6。日本では2006年から発売になった。1955年に登場した名車、DSの再来と称されることもある大型高級セダンは、フランスのサルコジ大統領が公用車として選んだことでも知られる。日本に導入されたのは3L V6エンジンを搭載するエクスクルーシブとエクスクルーシブ ラウンジパッケージ。足回りにはオイルと圧縮空気を使った「ハイドラクティブIIIプラス」を採用。



■ テリー伊藤(演出家)
1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『白熱ライブ ビビット』(TBS系/毎週火曜水曜8:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。

text/高橋満(BRIDGE MAN)
photo/岡村昌宏