1968年に初代モデルが登場したアウディのミディアムサルーン。4世代目は1990年から1994年まで発売され、ボディは4ドアセダンとアバント、駆動方式はFFと4WDがラインナップされた。シンプルなデザイン、高級志向という路線を守りつつ長きにわたり主力を務めたが、S4と呼ばれる最上位モデルを発売したあと、モデルチェンジを機に名前がA6に改められた。エンジンは直5ターボが主で、最終型ではV6のみ。 1968年に初代モデルが登場したアウディのミディアムサルーン。4世代目は1990年から1994年まで発売され、ボディは4ドアセダンとアバント、駆動方式はFFと4WDがラインナップされた。シンプルなデザイン、高級志向という路線を守りつつ長きにわたり主力を務めたが、S4と呼ばれる最上位モデルを発売したあと、モデルチェンジを機に名前がA6に改められた。エンジンは直5ターボが主で、最終型ではV6のみ。

クラシックカーになる直前の80、90年代の車たちにもこれから価値が上がる車、クラシックカー予備軍は多数存在する。そんな車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを探ってみたい

アウディの歴史に残る上品な名サルーンだね

EDGE:さて、今月はアウディ特集ですが、アウディってクラシックモデルを探すの、難しいですよね。イメージとして強いのはグループBのラリーカーですかね。

松本:僕は学生の頃にテレビで見た赤いアウディ 100がスキーのジャンプ台を登って行くCMかなぁ。「道を開くのはいつもアウディ」っていうようなナレーションだったけど、クワトロって凄いなって思ったよ。

EDGE:その年代のアウディってどうなんでしょうか?

松本:当時からメカニズムに凝ってたよね。VWよりもさらに特化し始めた年代が80年代初頭なんだよ。

EDGE:今回は松本さんが前に見かけたという、港区の高輪にあったアウディ 100です。

松本:そうそう、珍しいなって思ってよく覚えてたんだよ。

EDGE:こちらです。ディープな香りがする車ばかりですね……。

松本:これこれ。この100だよ。このオーバハングの長さも凄いし、ドアの見切りも潔くていいね。歴史に残るデザインだと個人的に思うよ。アウディの前身の会社であるNSUにRo80というモデルがあったんだけど、ロータリーエンジンを搭載していて、それはそれは素晴らしいデザインだったんだ。

EDGE:そのRo80は確かに名車として知られていますね。

松本:そう。ちょっと登場が早すぎた車なんだ。空力を考えて出て来たデザインで、いま目の前にある100は、それを80年代に復活させたようなデザインだね。

EDGE:高級感漂ってますが、車内もあまり派手さはないですね。

松本:そうだね。VWグループの中でアウディは高級市場に進まなければならない立場だったはずなんだ。実は60年代に登場した初期型のアウディ 100はデザインといいメカニズムといい、メルセデス・ベンツの影響が大きかったんだよ。今のアウディからすると語りたくない歴史かもしれないけど、メルセデスのエンジニアで「ルートヴィヒ・クラウス」という人がアウディの再建へと技術的に関与していることからも分かるんだ。ルートヴィヒ・クラウスはメルセデス W196などを手がけた歴史に残るエンジニアで、縦置きエンジンのフロントドライブとか理にかなった設計を生み出している。現在のアウディのアイデンティティは第一級のグランプリカーを作ったこのエンジニアのDNAが流れていると言ってもいいと思うんだよ。

EDGE:アウディは確かポルシェ 917のレーシングカーを作ったピエヒさんの考え方も入っていますよ?

松本:そうなんだよ。ポルシェのレーシングテクノロジーをアウディはラリーカーの多くに導入していたからね。グループBカーのクワトロはポルシェ 917のブレーキシステムだし。

EDGE:それは知らなかったです……。ところで松本さん、内装見て思ったんですけど、この年代のドイツ車ってエアバッグが装着されていませんでしたっけ? メルセデス・ベンツとか?

松本:いいところに目をつけたね。メルセデスは80年代から装着していたけど、アウディはなかなか付けなかったんだよ。その理由はアウディ独自のエンジニアリングで安全に対して対応しようとしていたんだ。procon-tenという安全装置で、衝突するとエンジンが後方バルクヘッド側に動く。そこにワイヤーが仕掛けられていて、引っ張られるとステアリングコラム共々ダッシュパネル側に移動する装置なんだ。衝突時のドライバーのダメージを軽減しようとしたんだ。凄い手の込んだシステムだったんだけど、故障すると大変な修理費がかかったらしいね。

EDGE:なるほど、そういった意味でもこの当時のアウディは現存率が低くなってしまうんですね。

松本:そうだね。だから貴重なんだよ。アウディは初めに話したNSURo80の時にすでに安全においては十分考慮した車作りをしていたんだ。特にステアリングホイールは衝突時の人体への影響が大きかったために、ステアリング中央に大きなブロックのようなゴムパッドを付けたりして。その他にもソフトパッドを採用するなどして次世代を考えて作っていたんだよね。

EDGE:へぇー歴史があるんですね。確かに内装をよく見ると突起物が無いようなデザインをしていますね。

松本:歴史的に様々な方向性を試みながら時代に沿うように作って来たんだね。今目の前にあるアウディ 100は他社とは違う方向性を見つけ出したモデルであると思うんだよね。特にすっきりとしたデザイン、クリーンなインテリア。その中から見つけた性能から導かれた機能美。それが歴史という時間をかけてつぼみから育てたモデルがこのアウディ 100なんだと思うけどね。間違いなくアウディの歴史に残る1台だよ。



100 リア
100インパネ
100シート
100ランプ
100エンジン
text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2017年3月号(2017年1月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています