▲自動車デザイン界の金字塔といっても過言ではない初代アウディ TT。それが今、比較的低走行な物件でも車両価格100万円以下で十分狙えること、知ってました? ▲自動車デザイン界の金字塔といっても過言ではない初代アウディ TT。それが今、比較的低走行な物件でも車両価格100万円以下で十分狙えること、知ってました?

高コスパな物=飽きずに長~く使える物

耐久消費財におけるコスパ(コスト・パフォーマンス)の良し悪しには、当然のことながら「長期にわたり気に入って使えるかどうか」という問題が大きく関わってくる。

例えばTシャツだ。

……まあTシャツを耐久消費財と呼べるかどうかは甚だ微妙かもしれないが、6000円ぐらいの「単なるTシャツとしてはちょっと高いかな?」と思える品であっても、自分の体型や雰囲気に妙に合っていて、なおかつ頑丈でなかなかヨレないものであれば、筆者の場合は2年も3年も着倒す。当然その場合のコスパは結果として最高レベルとなる。しかし仮に3800円程度の品であっても、買ったはいいが「……イマイチ合わねえ」というものは、1~2回着ただけでタンスの肥やしまたは洗車用のウエスになる。コスパ的には最悪だ。

そんな観点で中古車マーケットを見渡してみると、「初代アウディ TTを今買えば、それってかなり高コスパな耐久消費財になり得るのでは?」と思えてならない。

▲こちらが初代アウディ TT。現在販売されている現行TTから見ると旧々型にあたるモデルだ ▲こちらが初代アウディ TT。現在販売されている現行TTから見ると旧々型にあたるモデルだ

美しきクーペも今や100万円以下で手に入る水準に

自動車愛好家たる紳士淑女の皆さんには今さら説明の必要もないだろうが、初代アウディ TTとは、1999年10月から2006年9月にかけてアウディ社から販売されたスポーティな2ドアクーペ。車台は同世代のアウディ A3やフォルクスワーゲン ゴルフと共用だが、「自動車デザイン界に燦然と輝く金字塔」とすらいえる美しき造形で世界に名を残したモデルだ。

当時、フォルクスワーゲングループの米国デザインセンターに所属していたフリーマン・トーマスによるそのデザインは、「円」のモチーフを外装および内装にひたすら反復表現したもの。それは斬新でありながら実は自動車デザインの超古典でもあり、その絶妙すぎるバランスに世界はシビれた。そして内装には贅沢なアルミニウムの削り出し部品が大胆に配置され、かなり高めのウエストラインの中に、まるでこもるかのようなニュアンスで着座する特異な車内環境などとも相まって、初代TTは世界に衝撃を与え、そして大ヒット作となった。

まあ純粋な「走り」に関しては、後の2代目TTや現行のTTと比べてしまうとアラも目立つわけだが、それは2代目および現行TTの走りがあまりにも素晴らしいゆえ相対的に目立つだけのこと。初代TT単体で見るならば、「90年代末から00年代中盤にかけて販売された車として及第点以上」と考えられるだろう。先ほど述べたとおり車台は当時のゴルフ、A3と共通なので、現在の視点で見るとやや無骨な印象はあるものの、普通によく走る車である。

で、その初代アウディ TTが今なかなかお安い。具体的には車両価格100万円以下で、走行距離2万km台から5万km台までのフルノーマルか、それに近いコンディションの1台を探すことができるのだ。

▲「円の反復」という手法を用いた初代TTの素敵なデザインだが、その素敵すぎるフォルムが災いして、180km/h以上の超高速域で車体がリフトして横転する事件が発生。それを抑制するため、写真にある小さなリアスポイラーを急きょ追加した。デザイン的には残念だが、やむを得ない話ではある ▲「円の反復」という手法を用いた初代TTの素敵なデザインだが、その素敵すぎるフォルムが災いして、180km/h以上の超高速域で車体がリフトして横転する事件が発生。それを抑制するため、写真にある小さなリアスポイラーを急きょ追加した。デザイン的には残念だが、やむを得ない話ではある
▲黒いレザーおよび樹脂とアルミニウムの対比が美しい初代TTのコックピット。特にセンターコンソールの「TT」と刻印されたパネルは重厚感たっぷりなアルミ削り出しで、この車の存在感をより一層際立たせている ▲黒いレザーおよび樹脂とアルミニウムの対比が美しい初代TTのコックピット。特にセンターコンソールの「TT」と刻印されたパネルは重厚感たっぷりなアルミ削り出しで、この車の存在感をより一層際立たせている

TTのデザインはぜひノーマルで

そんな初代TTであるが、筆者としては一つ重要と感じるポイントがある。それは「フルノーマルか、それに近い」という点だ。筆者は自動車愛好家各位によるモディファイ(カスタマイズ)活動を一概に否定するものではないが、こと初代アウディ TTに関しては、やはりフルノーマルが絶対にシブいのではないかと思う。なにせ自動車デザイン界の金字塔だ。「ネジ1本に至るまで」とは言わないが、目に見える部分については当時のオリジナル部品そのままの方が断然美しいのではないかと、常々思っているのである。

筆者が2年ほど前に独自調査した時点では、残念ながらアルミホイールやその他部品が社外品に交換され、ついでに車高も微妙に落とされている初代TTが妙に多かった。「嗚呼、このままフルノーマルの初代TTは絶滅していくのだろうか……」と悲嘆に暮れたものだが、その後のヤングタイマーブームのおかげだろうか、近頃は前述のとおり「フルノーマルか、それに近いコンディション」の物件が中心になっている模様。非常に喜ばしい傾向である。フルノーマルであれば数年後か10年後ぐらいには、もしかしたら「価値」が出るかもしれない初代TTである。

▲基本エンジンは直4の1.8Lターボで、4WDの1.8Tクワトロには高圧版が、FFの1.8Tには低圧版が搭載されていた。その他、V6 3.2L自然吸気を搭載する写真の3.2クワトロも、途中からモデルラインナップに追加された ▲基本エンジンは直4の1.8Lターボで、4WDの1.8Tクワトロには高圧版が、FFの1.8Tには低圧版が搭載されていた。その他、V6 3.2L自然吸気を搭載する写真の3.2クワトロも、途中からモデルラインナップに追加された

とはいえ初代TTはさほどレアな車ではなく、空冷ポルシェ 911のように「車台からして超スペシャル!」という車でもないため、「数年後か10年後ぐらいにプレミアム価格が付く」ということはたぶんないとは予想している。また当然、最終年式でも10年落ちとなる古めの車であるため、今後維持していくためにはそれなりのメンテナンスコストもかかることだろう。

しかしそれでも、フルノーマルかそれに近い初代アウディ TTの圧倒的なデザイン性は、手に入れ、そして長きにわたって慈しむだけの価値が大いにある。前述のメンテナンス代がいくらになるかをここで断言することはできないが、まぁフツーにちょっと古い輸入車をフツーに維持するにあたって、フツーにかかる程度のコストと思っておけば、おおむね正解なはずだ。

そしてそのコストも「飽きずに長く愛せること」で希薄化できるため、結果としては数年後、「あぁ、なかなか高コスパな買い物だったなぁ……」と心底思えるはずなのだ。歳月に負けない普遍的な美を比較的安価な予算で手に入れたいと願うすべての自動車ファンに今、「十分な整備履歴が確認できること」という条件付きではあるが、初代アウディ TTを熱烈にオススメしたい。

text/伊達軍曹
photo/アウディ