▲「なるべく大きな車がいい」というニーズがあるのと同様に、世の中には「できるだけかさばらない車が欲しい」というニーズだってあるもの。そんな場合にぜひ選びたいのがコレです! ▲「なるべく大きな車がいい」というニーズがあるのと同様に、世の中には「できるだけかさばらない車が欲しい」というニーズだってあるもの。そんな場合にぜひ選びたいのがコレです!

2シーターオープン1台でも普通に生きていけるという事実

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いやカネがないといっても日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではなく、地代の高い東京23区内某人気エリア在住でありながら、車生活においてはいちおう旧型ルノー カングーと初代マツダ ロードスターの2台体制を敷いている。ま、どちらも安く買った中古車ですけど。

で、カングーのみの体制から初代ロードスターとの2台体制に変更した直後は、「日々の買い物とか趣味の活動(釣りと草野球)にはカングーを出動させ、それ以外の純粋娯楽ドライブ活動の際のみロードスターを出動させよう」と考えていた。しかし実際は何のこたあない、ロードスターのみで結構な用が足せてしまうため、カングーの出撃頻度は極端に減ってしまったのだ。今ではカングーの売却と、その月極駐車場の解約を割と真剣に考えている。

これはもちろん筆者の生活環境(子供もおらず、趣味の用具もさほどかさばる類のものではない)によっている部分が大で、いわゆる一般的なご家庭では「2シーターオープン1台ですべてをまかなう」というのはなかなか難しいだろう。

だが何をもって「一般的なご家庭」とするかは微妙なところだ。厚生労働省による平成26年版「国民生活基礎調査の概況」によれば、2014年の核家族世帯数は2987万世帯で、うち60.7%の世帯には「未婚の子供」が同居している。しかし39.3%、つまり全体の約4割は「夫婦のみ世帯」なのだ。さすがにまだ多数派ではないが、夫婦のみの子なし世帯というのも、今や「一般的なご家庭」と評すべき存在であることは間違いない。

▲気晴らしのためだけに乗るつもりだった筆者の初代マツダ ロードスター。しかし実際は今、ほとんどの日常的な用事はこれだけで済ませており、もう1台のルノー カングーは出番を失っている ▲気晴らしのためだけに乗るつもりだった筆者の初代マツダ ロードスター。しかし実際は今、ほとんどの日常的な用事はこれだけで済ませており、もう1台のルノー カングーは出番を失っている

ミニマリストにはロードスターよりさらに小さな「スマート」が最適?

さて。さすがに育ち盛りのお子さんがいる家庭では厳しいが、夫婦のみの家庭であれば、例えば筆者のように小ぶりで軽快な2シーターオープンカーのみですべての用を足すのも(もちろん便利ではないが)不可能ではない。実際やってみるとわかるが、それってなかなかステキな毎日である。「余計なイナーシャ(慣性モーメント)が少ないコンパクトな車を運転するということは、こんなにも素晴らしいことだったのか!」と、運転好きな人であれば必ずや痛感することだろう。

そしてその論をさらに進めるとしたら、話は当然「ウチの場合はもしかして、ロードスターよりもさらに小さな、例えばスマートフォーツーでも全然十分じゃね?」というところまで行き着く。

スマートフォーツー。初代モデルはメルセデス・ベンツとスウォッチ社の提携により開発され、その後はメルセデスが独自に開発している超小型のシティコミューターだ。歴代モデルによって細部は異なるが、基本的には常に乗車定員は2名で、ラゲージスペースも必要最小限である。

それゆえ当然ながら「お子さんがいる家庭にとっての不向き度」は筆者が乗るマツダ ロードスターの比ではないが、しかしある種の家庭にとってはマツダ ロードスターも十分実用車になり得るのと同様に、スマートフォーツーだって「ある種の家庭」には実用車足り得るはずなのだ。

それがどんなご家庭かといえば、おそらくは「おしゃれなミニマリスト夫婦」だろう。

必要最低限のモノしか所有するつもりはなく、できれば自家用車の所有も避けたいところだが、何らかの事情で1台は必要となる。そして自家用車を所有するなら極力小さな、最小限のスペースしか専有しない、それでいて自らの美意識に反しないしゃれたデザインと存在感を持つ車にしたい……と考えたとき、スマートフォーツーこそが最適な存在の一つになるのである。

▲初代は00年12月に登場したスマート フォーツークーペ(登場時の名称はスマートクーペ)。メルセデスと時計のスウォッチ社とのコラボで構想された超小型シティコミューターで、その後はメルセデスが独自に開発と生産を行った。写真は07年10月から15年9月までの第2世代(旧型) ▲初代は00年12月に登場したスマート フォーツークーペ(登場時の名称はスマートクーペ)。メルセデスと時計のスウォッチ社とのコラボで構想された超小型シティコミューターで、その後はメルセデスが独自に開発と生産を行った。写真は07年10月から15年9月までの第2世代(旧型)

第2世代の乗り味はシティコミューターというより「上質な小型車」

そういった考えに基づいてスマートフォーツーを購入する場合、歴代スマートのなかからどの世代、どのモデルを選ぶべきか? 様々な考え方があるだろうが、筆者としては07年10月から15年9月まで販売された第2世代(旧型)のスマートフォーツークーペ、そのなかでも08年12月から追加されたmhd(マイルドハイブリッド)が良いのではないかと考えている。

理由はまず第一に価格だ。ご存じのとおり昨年10月に第3世代の現行スマートが登場したことで、旧型の中古車相場が急激に下がっているのだ。具体的には今年2月上旬頃から流通量が増えはじめ、同時に平均価格も急落。2016年3月上旬時点の平均価格は08~10年式mhdが約60万円で、10~12年式mhdが約73万円。それ以降の年式を選ぶとなると100万円超となってしまう場合が多いが、08~12年式付近の低走行良質物件を探すことができれば、ミニマリストとしても納得の出費で収まるだろう。

そして第二の理由として、第2世代スマートは走りの質が実は大変よろしいという事実がある。第1世代のスマート、なかでも特に初期年式のスマートフォーツーは正直、機械としてややガサツに感じられる部分も多々あった。「スウォッチと協同で新ジャンルの超小型コミューターを作ろうというその気概は尊敬に値するが、じゃあ実際コレを自分で金出して買うかと言われれば……」というのが、当時の筆者が思う率直なところであったのだ。

しかし年を追うごとにスマートフォーツーの走行時の質感は上がっていき、そして第2世代となり、そのクオリティはある意味炸裂した。「これってもはや超小型シティコミューターというよりも“上質なコンパクトカー”じゃないか!」と。特に08年12月から追加されたmhdは信号待ちなどでアイドリング機構が作動することもあって、ひたすらの静寂と、いざ走り始めた際の思いもよらぬほどのしっかり感というか「いい自動車を運転してる感」が同居する、大変素晴らしいコミューターに仕上がっていたのだ。

もちろん、繰り返しになるが居住スペースも荷室容量も普通の車と比べれば極めてミニマムなので、スマート フォーツークーペmhdは完全に「人を選ぶ車」であることは間違いない。だがもしもあなたが「なんかワタシ、スマートに選ばれてるような気がする……」と思うようなライフスタイルを採用しているのであれば、非常に手頃な予算で買える第二世代のスマートフォーツーは、あなたにとって最高の相棒になる可能性も秘めている。最小限の自家用車が欲しい人に、最大限オススメしたい1台である。

▲07年10月以降の第2世代スマートは、ミニマムな体躯からは想像できないほどしっかりとした走りを披露する。初めて運転する人はちょっと驚くのでは?(写真は本国仕様) ▲07年10月以降の第2世代スマートは、ミニマムな体躯からは想像できないほどしっかりとした走りを披露する。初めて運転する人はちょっと驚くのでは?(写真は本国仕様)
▲ボディ全体の寸法はひたすらコンパクトだが、運転席や助手席はそれなりに広々としている。や、広々というのはちょっと言いすぎかもしれないが、少なくとも閉塞感はない(写真は本国仕様) ▲ボディ全体の寸法はひたすらコンパクトだが、運転席や助手席はそれなりに広々としている。や、広々というのはちょっと言いすぎかもしれないが、少なくとも閉塞感はない(写真は本国仕様)
text/伊達軍曹
photo/ダイムラー