▲中古車であれば現実的な価格であるはずのポルシェ 911に対し、必要以上にビビってませんか? ▲中古車であれば現実的な価格であるはずのポルシェ 911に対し、必要以上にビビってませんか?

BD-1の盗難に対してビクついていたのも最初の1週間だけだった

少し前の当欄でも触れたが、BD-1という約15万円の折りたたみ自転車を買った。これがやはり非常に素晴らしい自転車で、納車直後は大満足していたのだが、しばらくするうちに「……大失敗だった」と思うに至った。なぜならば、あまりにも(折りたたみ自転車としては、そして筆者にとっては)高価で、そして軽量小型な折りたたみ自転車ゆえ盗もうと思えば簡単に持っていける代物だけに、駐輪中の盗難が気になって仕方ないからだ。

昼食をとるために駅前の飲食店に行き、店の前にBD-1を駐輪していても、「……こうしてのんきにメシを食っているうちに盗まれてるんじゃないか?」と思うと食事の味もよくわからなくなる。喉を通らなくなる。やはり、筆者のようなド庶民にBD-1はすぎた買い物だったのかもしれない。ということで皆さん、お買い物をする際は「身の丈」というものをよくよく考え、そしてわたしを反面教師にしていただき、分相応なモノを買いましょうね……というような原稿を途中まで書き、その後自らボツにした。

▲最初のうちは地球ロック(地面から生えている固定物に自転車をロックする方法)をして駐輪していても「……食事中に盗まれちゃうんじゃないか?」と、気が気じゃなかった筆者だが ▲最初のうちは地球ロック(地面から生えている固定物に自転車をロックする方法)をして駐輪していても「……食事中に盗まれちゃうんじゃないか?」と、気が気じゃなかった筆者だが

なぜならばBD-1に関する盗難恐怖症のようなものも、その後すっかり治ってしまったからだ。ビクビクしていたのは最初の1週間だけで、その後はごく当たり前のように(適切なロックをしたうえで)駐輪し、そしてのんびりと美味しい昼食を楽しんでいる。要するに人間は何にでもすぐに慣れるのだ。

となれば、もはや筆者にとって「BD-1のない生活」など考えられないというか、量販店などで2万~3万円ぐらいで売ってるような自転車など、大変申し訳ないが乗る気も触る気も起きない。自転車でも車でも、やはり手触りと乗り味、そしてデザイン性に優れるプロダクトというのはやはり最高だ。毎日が楽しくなる。最初の1週間で感じた「身の丈」とか「分相応」とかいったしょっぱいことを実行に移さず、本当に良かったと今では思っている。

身も蓋もない言説で恐縮だが、やはり「良いモノ」に囲まれた暮らしというのは大変気分がよろしいものだ。良いモノというのは往々にして最初は(筆者のBD-1のように)ビビったり、あるいは照れたりするものだが、先ほども申し上げたとおり人間というのは何に対してもすぐに慣れてしまう生き物ゆえ、そこについてはあまり心配する必要はない。欲しければ、とりあえず買ってしまえばいいのだ。

それと同様のことがポルシェ 911についても言える。

▲憧れの存在であると同時に、非常に優れた「実用車」でもあるポルシェ 911。写真は90年代のタイプ964 ▲憧れの存在であると同時に、非常に優れた「実用車」でもあるポルシェ 911。写真は90年代のタイプ964

筆者を含む庶民育ちの人間というのは「ポルシェ」と聞くとどうしてもビビってしまいがちで、仮に911を買える予算を有していたとしても「……オレなんかがポルシェに乗っていいんだろうか?」とか、あるいは「オレには911なんて似合わないし……」と、本来はする必要のない謙遜をしてしまう。そして、カーセンサーEDGE.netや雑誌のカーセンサーEDGEなどでポルシェ 911の写真や記事を見て憧れるだけで、自動車趣味を終えてしまう。

非常にもったいないことである。なぜならば、人は「自宅車庫にポルシェ 911のある生活」にもすぐ慣れるからだ。BD-1と違って1週間では難しいかもしれないが、1ヵ月もすれば「自分ちの車庫に911があること。そしてそれに乗って出かけていく自分」について、人は何とも思わなくなるものだ。

「何とも思わなくなる」と書くと、世界最高峰の車の一つであるポルシェ911を侮辱しているようにも思われるかもしれないが、当然そうではない。世界最高峰の車が自宅にあること、そしてそれに乗ることが、当人にとっての普通になるという話である。筆者がポルシェ 911を購入したときも最初は何やらこっ恥ずかしく、一人で勝手に照れていたが、1ヵ月もすると「照れ」はどこかに雲散霧消した。照れやビビリはなくなり、ポルシェ 911という素晴らしい車に対する静かな畏怖のみが残った。そういうものなのだ。

▲数年前に筆者が乗っていたポルシェ 911(タイプ964)の同型・同色車 ▲数年前に筆者が乗っていたポルシェ 911(タイプ964)の同型・同色車

ということで、欲しくもない人に無理やり勧めるつもりは毛頭ないのだが、もしもあなたがポルシェ 911という車が強烈に欲しく、そしてそれを買うだけの予算をお持ちで、しかし「でもなぁ、このオレがポルシェってのも似合わなそうだしなあ……」と考えているのであれば、「そんなことウダウダ考えてても時間の無駄! とにかく買っちゃいなさい! 買えばすぐに慣れるから!!!」と言いたい筆者なのである。

で、本当の問題は「どんな911(どの世代の911)を買うか?」ということなのだが、基本的には自分が強烈に欲しい世代を買うのがいちばんであり、筆者を含む評論家の意見などいっさい聞く必要がない。どの世代であっても素晴らしいのが911なのだから、ある意味どれでもいいのだ。

それを承知であえてアドバイスするなら、やはり狙うべきは1世代前の「タイプ997」だろうか。

▲04年途中から11年10月まで販売された「タイプ997」。ポルシェ 911のいわゆる先代モデルだ ▲04年途中から11年10月まで販売された「タイプ997」。ポルシェ 911のいわゆる先代モデルだ

最新のタイプ991では高価すぎ、2世代前のタイプ996は立ち位置が微妙に半端で、「いっそクラシカルな空冷で」となると中古車相場が死ぬほど高騰しているため、今さら買うのは若干業腹。となると、500万円台後半ぐらいのタイプ997というのが中古車ハンターの目には光り輝いて見えるのである。

ということで今回のわたくしからのオススメはずばり「600万円以下のポルシェ911(タイプ997)」なのだが、もちろん無視していたいても構わない。せっかくのポルシェ 911だ、あなた自身が本当に熱くなれるモデルを買いましょう。誰に何を言われようとも!

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  • Car:ポルシェ 911(997)
  • Conditions:修復歴なし&走行5万km以下&本体価格600万円以下
text/伊達軍曹