※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲ナローポルシェと呼ばれるポルシェ911は356の後継機として1963年にフランクフルトモーターショーで発表。356の水平対向4気筒エンジンに代わり、水平対向6気筒エンジンを搭載した。また車体も4人乗りの大型なボディに変更され、ナローポルシェは実用性と走行性を大幅に向上させたスポーツカーとなる。バリエーションも豊富で、初期型の901から始まり1969年にはエンジン出力を向上させた911S、そして911T、911Eなどが追加。また1973年には現在まで語り継がれる名車、カレラRSが追加された ナローポルシェと呼ばれるポルシェ911は356の後継機として1963年にフランクフルトモーターショーで発表。356の水平対向4気筒エンジンに代わり、水平対向6気筒エンジンを搭載した。また車体も4人乗りの大型なボディに変更され、ナローポルシェは実用性と走行性を大幅に向上させたスポーツカーとなる。バリエーションも豊富で、初期型の901から始まり1969年にはエンジン出力を向上させた911S、そして911T、911Eなどが追加。また1973年には現在まで語り継がれる名車、カレラRSが追加された

実は当時のレース車両にはSよりもTが使われていた

徳大寺 今日はポルシェを見に行くそうじゃないか。ヴィンテージなポルシェはいいぞ。“ポルシェ356”のCあたりは今でも立派に普段使えるからな。それで今日はポルシェの何だ?“73カレラRS”か?
松本 今回は73カレラRSと同じ年代の911Tです。ナローボディの最終型になります。
徳大寺 ナローは今見ると小さくて、きゅっと締まっていてカッコイイんだ。当時乗ったとき、度肝を抜かれたよ。速いしとてつもないスタビリティの良さでな。
松本 こちらですね。チンスポイラーなど太いモールディングを装着してあると、一見911Sのように見えますが、この年式からすべてのモデルに標準でフロントスポイラーが装着されたそうです。
徳大寺 ポルシェがそのパーツを装着する場合は意味があるところが憎いんだな。それでいてスポーティで格好がいいんだ。ロッカーパネルのデカールも当時のレースカーにも貼られていたデザインで、とても合っているじゃないか。
松本 フロントのスポイラーを装着すると、フロントのリフト低下によってハイドロプレーニング現象を実に40%減らすことができたそうです。
徳大寺 この車は“T”だけど侮っちゃいけないよ。実は当時のレース車両にはSよりもTが使われていたんだよ。それはなぜだか分かるか?
松本 簡素化して軽量だったからですね。おまけにクランクなどもこの年式になるとSと同じ内容です。Tというモデルは贅沢なモデルで、オーバースペックな分、エンジンの静粛性は良好でした。
徳大寺 そう。2.4Lで130馬力だけど、車重は1tちょっとだから十分なんだ。ポルシェはとにかく昔から車が軽い。スポーツカーとしては基本だけど、当時そんな高性能車はなかなかなかったんだよな。
松本 エンジンで言うと、カムシャフトはSとは違いますが、シリンダーヘッドは同じです。ピストンとカムシャフトを交換すれば、190馬力のSスペックになるわけです。キャブレーションを機械式のインジェクションにする必要はありますが。
徳大寺 あの機械式のインジェクションは修理費が高くなるんだ。もっともウェーバーあたりのキャブレターに交換してあれば、メンテナンスは容易だけどな。この911Tはキャブレターっぽい音してるな。
松本 おっしゃる通りウェーバーに交換されていますね。IDAというダウンドラフトのタイプで、ランチアのV6に装着されているものをポルシェでも使ったと聞いたことがあります。
徳大寺 なるほど。実に調子も良さそうだ。それにこのベージュグレーと呼ぶ色もいい。ポルシェの魅力の一つに、当時からボディカラーのバリエーションの多さがあった。現在でも頼めば塗ってくれるはずだ。
松本 なかなか程度も良さそうですね。ポルシェアロイも定番ですが、これ以上ナローに似合うホイールはありませんから。
徳大寺 73年式だと防錆処理がそうとうきちんとされているはずだしな。ドイツは凍結防止剤を撒くからボディがやられちゃうんだ。
松本 73年のパンフレットの写真に、ボディを裏返しにして防錆剤とアンダーコートを丁寧に刷毛で塗っているのがありましたよね。刷毛塗りは金属との密着が良好ですから。しかもこの年式はルーフを除いて亜鉛メッキ鋼板ですから錆にはとことん強い。当時同じような処理をしていたのは、ロールスロイスのシルバーシャドーぐらいです。
徳大寺 35年前のポルシェだから、ボディがしっかりしてないとな。昔のエンジンとはいえ、ポルシェはエンジンがいいから速い。車はシャシーとエンジンのバランスが大切だ。なんたって89年までエンジン、シャシー共に使われていたほど基本設計がしっかりしてるんだからな。
松本 ブレーキも4輪ベンチレーティッドディスクです。加速が素晴らしい分、ブレーキに奢っています。
徳大寺 当時のポルシェはフェルディナント・ピエヒが技術のトップで、レースとの関連を持たせて開発していたんだ。いいモノを使っているからポルシェの価格が高いのもうなずける。
松本 新型のポルシェでも、内装よりも走りに徹した部分にコストをかけていることが分かりますね。
徳大寺 高級感云々より、安全に速くそして楽しく走らせるための本物のドライバーズカーなんだね。ナローが築いた歴史があるからこそ、今の911があるんだ。

ポルシェ 911T リア
ポルシェ 911T   エンジン
ポルシェ 911T    運転席周り
ポルシェ 911T サイド

【SPECIFICATIONS】
■車両重量:1110kg
■全長×全幅×全高:4147㎜×1610㎜×1320㎜
■ホイールベース:2271mm
■エンジン:水平対向6気筒SOHC
■総排気量:2341cc
■最高出力:130ps/5600rpm
■最大トルク:20.0kg-m/4000rpm

tefxt/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2009年8月号(2009年8月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています