※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲356は1948年から製造され、ポルシェの名前を受けて発売された最初のモデル。細かい仕様変更をしながら生産を続け、1955年からをA型、1959年からをB型、1963年からをC型と呼ぶ。A型以前のスピードスターは市場に流通する機会は少なく、見かけるのは約1700台が作られたA型のものとなる。簡素な幌を装備し、よりスパルタンに仕上げられた走りを支持する人は今も多く、中古車市場でも高値で取引されるケースが多い。撮影車両はアメリカにてレストアされた希少な良コンディション車 356は1948年から製造され、ポルシェの名前を受けて発売された最初のモデル。細かい仕様変更をしながら生産を続け、1955年からをA型、1959年からをB型、1963年からをC型と呼ぶ。A型以前のスピードスターは市場に流通する機会は少なく、見かけるのは約1700台が作られたA型のものとなる。簡素な幌を装備し、よりスパルタンに仕上げられた走りを支持する人は今も多く、中古車市場でも高値で取引されるケースが多い。撮影車両はアメリカにてレストアされた希少な良コンディション車

走る気持ち良さを追求した世界的に人気のロードスター

徳大寺 さて、今日はどこに行くんだ。どんな車を見に行くのか聞いてないんだが。
松本 それは大変失礼いたしました(笑)。今日のモデルはご存じの“ポルシェ 356Aスピードスター”なんですよ。
徳大寺 ほー。知ってるとは思うが、個人的に356(サンゴロ)は好きな車の一台なんだよ。何回も実際に見に行った記憶があるよ。
松本 356はこの企画でも一度だけ見に行ったことがあるんですけど、その時は普通の356、今回はスピードスターです。今号はポルシェ特集ということで探しました。探したというよりもいつもお世話になっているお店に、素晴らしい状態の1台があったんですよ。 
徳大寺 それでスピードスターというわけか。お、このマンションの地下にあるんだったよな。おーこれはキレイなスピードスターだな。
松本 確かにキレイに仕上げられてますね。
徳大寺 1958年製とは思えないコンディションだな。しかし、古くてもサンゴロはとにかく可愛いし普段乗っても全く問題ない車だよ。特に1962年以降のモデルは乗りやすい。形も様々でクーペ、カブリオレ、知っている人は少ないけどコンバーチブルなんかもいいよな。しかしスピードスターはカッコは抜群だけど、気軽に乗れる車ではないんだよ。
松本 おっしゃるとおり普段乗りはちょっと厳しいかもしれませんね。サイドウインドウははめ込み式で、突然の雨では間に合わないでしょうし。しかもビニールですから、視認性もお世辞にも良いとは言えないでしょう。
徳大寺 スピードスターは簡素な中に走る楽しみを見いだしたモデルだからね。軽量で、最高速よりも加速性能を良くするためにギア比も違ったと思ったな。確かに君の言うとおり雨天時の視認性は良くないだろうが、スピードスターの提案はアメリカからなんだ。おそらく雨の少ない西海岸を強くイメージしていたんだろう。
松本 356スピードスターはアメリカの要望があって作られたのは間違いないでしょうね。スピードスターは1954年に200台だけ作られたんです。pre-Aと呼ばれ、今ではかなり貴重ですね。その後、人気が高まり1955年の356A時代には1700台も作られたんだそうです。市場に出てくるスピードスターの多くはこの1955年製というのも、納得ですね。

カブリオレとは異なるスパルタンな356

徳大寺 ポルシェは1947年にチシタリアGPレーサーという4WDグランプリレーサーを作ったんだ。この開発番号が360なんだけど、急ピッチで進められたモデルらしい。設計番号は若いが、チシタリアGPレーサーを開発した経験から「自社で作るモデルはスポーツカーしかない」と確信して製作されたのがパイプフレームの356なんだよ。最初のモデルはクーペではなく2シーターでミッドシップのロードスターだったはずだ。
松本 ポルシェ 356の初めのハンドメイドボディはドイツ製ではなく、オーストリア製でしたね。ドイツ製になったのはボディメーカーがドイツに移された1950年から。当時のポルシェが開発を行っていたオーストリア・グミュント周辺のカッチベルグ峠を走ったことがありますが、映画「大脱走」でマックィーンがバイクで逃走するような所です。よくあんな田舎でポルシェが生まれましたよね。
徳大寺 当時はまだ戦時中だったから見つかりにくい場所ということもあったんじゃないか。このあたりは冬はとても寒いだろうし、ポルシェが冬場に強いのはこういった環境下で設計したからじゃないのかな。
松本 グミュントのときは従業員が50名ほどだったといわれていますから、少数精鋭でポルシェ設計事務所は優秀な人材が集まっていたのだと思いますね。サソリのマークでお馴染みのカルロ・アバルトも技術者でしたし、アルファロメオの伝説的なエンジニア、ルドルフ・ルシュカもポルシェ設計事務所出身ですからね。これらのエンジニアはすべてフェルディナント・ピエヒさんのお父さんが迫害から逃がしたから活躍できたわけです。
徳大寺 そういう歴史的な話を知っていると、車を見る目も変わってくるからな。しかし、これは素晴らしいコンディションだよ。半世紀以上前のモデルにも関わらずこのドアの閉まりは凄い。ボディ剛性など、車の基本性能が高く、車としての魅力もあるから、いつまでもこうして車が大事に扱われ、現代にも残ることになるんだよな。

356 SPEEDSTER フロント
356 SPEEDSTER シート
356 SPEEDSTER エンジン
356 SPEEDSTER 運転席周り
356 SPEEDSTER リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:3950×1670×1310(mm)
■ホイールベース:2100mm
■エンジン:水平対向4気筒OHV
■総排気量:1582cc

【ヴィンテージ湘南】
■所在地:神奈川県横浜市瀬谷区南台1-3-2 横浜サウスプラザ三ツ境
■営業時間:10時~19時
■定休日:不定休
■tel:045-300-3750

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2014年11月号(2014年9月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています