▲写真はクライスラー 300 SRT8。こういった大柄な車では「ドライビングプレジャー」は味わえないのか? ▲写真はクライスラー 300 SRT8。こういった大柄な車では「ドライビングプレジャー」は味わえないのか?

地味だけど大切な「艦長系ドライビングプレジャー」という在り方

過日、縁あってFCAジャパン(フィアット系およびクライスラー系各車の正規輸入元)が主催する「冬季フルライン試乗会」に参加した。都内から雪の白馬村まで大小様々なサイズのモデルを運転したわけだが、小さな車も大きな車もそれぞれ魅力があり、筆者としては基本的にすべてのモデルに対して「あ~楽しかった」というざっくりした印象を持った。

しかし、人によってはそうは感じないのかもしれない

例えば、比較的小柄で軽量なボディを持ち、それなりにハイパワーなエンジンとクイックなハンドリング性能を有するスポーティなコンパクトカー。こういったモデル群(↓)なら、おそらくは運転した10人中8人以上が「楽しい!」と答えるだろう。

▲FCAジャパン冬季フルライン試乗会にて。手前からアルファロメオ ジュリエッタQVローンチエディション、フィアット パンダ4×4、フィアット 500S、アバルト 595Cツーリズモ ▲FCAジャパン冬季フルライン試乗会にて。手前からアルファロメオ ジュリエッタQVローンチエディション、フィアット パンダ4×4、フィアット 500S、アバルト 595Cツーリズモ

いちばん手前のアルファロメオ ジュリエッタを「コンパクトカー」と呼ぶのは分類上間違っているような気もするが、同じFCAジャパンが取り扱うジープのSUVやクライスラーの大型サルーンと比べれば「コンパクトカーみたいなもの」と言ってしまっても……まぁ構わないだろう。

で、スポーティなコンパクトカーはとにかく楽しい。というか、その楽しさがわかりやすい。要するに旧式のプロペラ複葉機を操縦するようなもので、くるくるヒラヒラという軽快な動きを比較的簡単に引き出せるのだ。もちろん旧式複葉機と違い、現代のスポーティ・コンパクトはそれなりの「スピード」だって味わうことができる。運転という行為を多少なりとも愛する者にとって、それが楽しくないはずがない。

しかし、こういった車(↓)の場合はどうだろうか?

▲前述の試乗会で筆者が長野県の白馬から東京まで試乗したクライスラー 300 SRT8。最高出力472psを発生する6.4LのV8OHV「HEMIエンジン」を搭載する、アメリカン・マッスルカーの最新進化版だ ▲前述の試乗会で筆者が長野県の白馬から東京まで試乗したクライスラー 300 SRT8。最高出力472psを発生する6.4LのV8OHV「HEMIエンジン」を搭載する、アメリカン・マッスルカーの最新進化版だ

いわゆるマッスルカーであり、アクセルを床まで踏めば死ぬほど速いが、同じく死ぬほど速いBMW M5のように「コーナリングスピードもやたら速い」ということはない。いやクライスラー 300 SRT8だってそれなり以上のコーナリングは披露するが、お国柄だろうか、さすがにドイツの化け物サルーンたちと比べてしまうと分が悪い。それゆえ筆者も今回、SRT8の試乗中はユルユルと鷹揚な運転をしている時間の方が圧倒的に長かった。

もしもドライビングプレジャーというものが「くるくるヒラヒラ」あるいは「超絶ハイスピードコーナリング」だけを指すのであれば、筆者がクライスラー 300 SRT8を運転していたほとんどの時間は「退屈な時間だった」ということになるのだろう。なにせ本当にノンビリと運転してましたからね。

しかし、わたくしはまったく退屈ではなかった。なぜならば、ドライビングプレジャーには前述のくるヒラ系/ハイスピード系だけではなく、「艦長系ドライビングプレジャー」というものもあると知っているからだ。

「艦長系ドライビングプレジャー」とは何か? それは「大型な高性能車に乗員複数を乗せ、安全かつスムーズに目的地まで運ぶ歓び」のことだ。つまりは大型客船でも空母でもイージス艦でも何でもいいのだが、とにかく大きな乗り物の総責任者=艦長となり、それを極力スムーズに、そして何より乗員の安全に対して全責任を負い、最終目的地まで大過なく送り届ける歓びのことである。

いわゆるライトウエイトスポーツや主にドイツ系のハイパー・サルーン/クーペが得意とする派手なドライビングプレジャーと比べると、それはかなり地味な歓びかもしれない。しかしそこには確実に、ある種の歓びは存在するのだ。

乗員の身体を揺らさない絶妙なライン取りと微妙なブレーキング。無駄にブレーキを踏まないための繊細なアクセルワーク。そして何より、各種の危険を未然に防ぐための施策あれこれ。それらは、すべてが無事成功すると挙動が超絶スムーズとなるため乗員には気づかれにくく、結果的には誰もホメてくれないかもしれない。しかし、運転した本人だけは自分の功績を知っている。それで良いではないか。それが、「艦プレ」だ。

そういった「艦プレ」は凡庸なミニバンや軽自動車であっても追求できなくはないし、また前述のドイツ系ハイパー・サルーン/クーペでも実現可能だ。しかし凡庸な安物グルマでコレばかりやっていると少々悲しい気分になってしまうリスクがあり、そしてドイツ系ハイパー・サルーン/クーペだと、ついつい艦長ではなく戦闘員になってしまうケースも多そうだ。

それゆえ「艦プレ」を追求するうえで最適なのは、やはりクライスラー 300のような車、すなわち「ある程度以上のサイズとそれなり以上の性能、そして結構な存在感がある車」なのだろう。後ろから猛スピードでやってくるせっかちな車に追い越し車線を譲ることを「恥」と感じるのではなく、逆に「そんな自分が誇らしい」と自然に思えるような高級感とプライドを備えた車であることが、「艦長系ドライビングプレジャー」追求行為を長続きさせるためには重要だと考える。様々な候補があるが、一例としてはこんな車(↓)だろうか。

▲08年11月から12年7月まで販売されたフォルクスワーゲン パサートCC。現行型のフォルクスワーゲンCCもいいが、そちらは1.8Lのダウンサイジングターボとなったため、「鷹揚な感じ」はこちらのほうが楽しめるかも ▲08年11月から12年7月まで販売されたフォルクスワーゲン パサートCC。現行型のフォルクスワーゲンCCもいいが、そちらは1.8Lのダウンサイジングターボとなったため、「鷹揚な感じ」はこちらのほうが楽しめるかも

無論こればかりではなく、下記に筆者のセレクションとして挙げた車もあるだろうし、そのほかにも多数存在するはずだ。目を三角にしてかっ飛ぶことに疑問を感じはじめたあなたであるならば、ぜひともそういった車で、地味かもしれないが滋味あふれるプレジャーを追求してみていただきたい。ということで今回のわたくしからのオススメは「艦プレ」を味わいやすい、大柄かつまずまず高性能な、存在感のある輸入車」だ。

  • Search the selection!
  • Car:VW パサートCC&キャデラック ATS&キャデラック CTS&クライスラー 300&クライスラー 300C&ボルボ S80&プジョー 508&プジョー 508SW&プジョー 607
  • Conditions:総額表示あり&修復歴なし
text/伊達軍曹