※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲エンツォ・フェラーリが強く望み、ベルトーネに在籍したジウジアーロがデザインを行ったスモールGT。小排気量車を作ることでフェラーリ社のイメージが悪くなることを避けるため、別会社に製造権利を譲渡。ASAブランドとして1961年のトリノショーにて発表された。その際のプレゼンはエンツォ自身が行ったという逸話を持つ。フェラーリが生産をした4気筒1032ccエンジンは97馬力。専門家からの評価は非常に高かったが、同カテゴリーのライバルと比較すると割高となったためセールスは不調に終わった エンツォ・フェラーリが強く望み、ベルトーネに在籍したジウジアーロがデザインを行ったスモールGT。小排気量車を作ることでフェラーリ社のイメージが悪くなることを避けるため、別会社に製造権利を譲渡。ASAブランドとして1961年のトリノショーにて発表された。その際のプレゼンはエンツォ自身が行ったという逸話を持つ。フェラーリが生産をした4気筒1032ccエンジンは97馬力。専門家からの評価は非常に高かったが、同カテゴリーのライバルと比較すると割高となったためセールスは不調に終わった

日本では滅多に見られない希少なフェラリーナ

松本 巨匠、今回のEDGE本誌の特集はアメリカ車なんです。ところが、いつもお世話になっているアメ車屋さんに、凄い車があるのを発見してしまったんですよ。
徳大寺 どこの国だい?
松本 アメリカ車特集なのに忍びないのですが、滅多に見られない品物なので、独断と偏見で決めさせていただきました。ピッコロフェラーリの呼び名がヒントですね。
徳大寺 ということはフェラリーナかい? イタリアの「ASA(アーサ)」。エンツォが小排気量で小型のグランツーリスモにとても興味があって企画されたんじゃなかったかな。
松本 巨匠、さすがよくご存じですね。そうなんです。今回はASA 1000です。
徳大寺 かなり珍しいな。確かASA 1000GTの1車種しか作られなかったんじゃないかな。おそらく生産台数は数百台だろう。小さなGTとしては素質は十分すぎるんだよ。だってエンツォが企画してフェラーリで設計したんだ。
松本 そうなんですよね! とにかく凄い車なんですよ。我が家には兄が残してくれた、1960年発刊の「Automobileyear」があるのですが、そこにフェラーリの小型グランツーリスモが掲載されているんです。それはピニンファリーナボディでしたね。エンブレムはフェラーリの跳ね馬ではなくマシンガンでしたよ。
徳大寺 それが、今回見に行くASA 1000GTと進化するわけなんだな。1959年にフェラーリが発表したんだ。当時は4気筒で850ccだからね。しかもエンツォ自身が説明したんだから今や伝説だよな。後に1000ccとなる4気筒エンジン、シャシーやサスペンションなどは、当時のGT選手権でフェラーリの黄金期を作ったジョット・ビッザリーニの手によるものだな。
松本 ビッザリーニといえばフェラーリ250GTOを作ったエンジニアですね。
徳大寺 当時のフェラーリには優秀なエンジニアがたくさん在籍していたんだ。アルファロメオのティーポ33でも有名なカルロ・キティもビッザリーニと一緒に仕事をしていたんじゃなかったかな。まだASAになる前にフィアットの技術者を乗せたらしいんだけど、フィアットの4気筒とは比べものにならないほど高性能で静粛性に優れていたという話だ。弩級のエンジニアが作ると小さくても凄いんだろう。
松本 1961年のトリノショーでデビューしましたが、フェラーリは12気筒でピニンファリーナのブースで、後にASAとなるプロトタイプはベルトーネのブースで発表したそうです。フェラーリとは違うことを誇示したかったのでしょうね。
徳大寺 そりゃそうだろう。フェラーリは12気筒でないと許されなかったからね。特にグランツーリズモは。この当時フェラーリは内紛があって、ビッザリーニやキティなどのフェラリーナの設計に携わったエンジニアが辞めていくんだ。でも結局ビッザリーニは後のASA 1000GTのために働くことになったんだけどね。

伝説のエンジニアが作ったミニマムGT、その価値は計り知れない

松本 しかしこのASA 1000GTは、楕円鋼管フレームにフロントはウィッシュボーンによるコイル式、リアはダブルトレーリングアームワッツリンクによる位置決めですから相当凝っていましたね。250GTOを設計した人が作ったというのが本当だと分かります。その後ASA1000GT として正式にアナウンスしたのは1962年で、発売されたのが1964年ですから随分と出だしが遅くなってしまったんですよ。あ、そろそろ到着ですね。これですね。
徳大寺 ほー。いい色だね! この大きさでこれほどの存在感はさすがだな。幅は1550mmぐらいか。これをデザインしたのはジョルジェット・ジウジアーロだろう。彼は天才だな。
松本 これは、小さな高級グランツーリスモですね。内装や佇まいも1000ccクラスとは思えない。エンジンもさすがフェラーリの工場で加工しただけあります。精度の良さを感じますね。これが伝説のエンジニアが作ったミニマムGTだと思うと凝縮感があります。
徳大寺 それほど台数は作られなくとも、エンツォ・フェラーリの精神が宿っていて、しかも設計者も歴史に刻まれた人たちだからね。それとテストをしたドライバーも凄いと思うよ。おそらくフェラーリのワークスドライバーたちだから、ロレンツォ・バンディーニやリッチー・ギンサーだろうね。現在で言えばシューマッハやアロンソがテストしたようなもんだ。その価値は計り知れないよ。旧い名車はこういうことがあるからさらに魅力的になるんだ。

ASA 1000 GT  エンブレム
ASA 1000 GT  シート
 ASA 1000 GT  エンジン
 ASA 1000 GT  運転席周り
ASA 1000 GT  サイド

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:3880×1550×1200(mm)
■エンジン種類:直列4気筒SOHC ■総排気量:1032cc

【マリンコーポレーション 木場ショールーム】
■所在地:東京都江東区木場3-15-5
■定休日:月・火曜日(火曜日が祝日の場合は営業)
■営業時間:11:00~19:00
■tel:03-5809-8115

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2014年6月号(2014年4月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています