▲1969年に登場したディーノ 246GT/GTSのおかげでユーザー層を広げたフェラーリが次なる一手として送り出した2+2シーター ▲1969年に登場したディーノ 246GT/GTSのおかげでユーザー層を広げたフェラーリが次なる一手として送り出した2+2シーター

次世代に伝えようというオーラが漂うのは本物の証し

現在のV8フェラーリのルーツとも言える存在で、後席を用意することで利便性も高められていた。現代車では実現不可能な美しいデザインはマルチェロ・ガンディーニの手によるもの。ただ、当時の人々にはこのデザインは受け入れられず、75年に発表された308GTBに話題をさらわれてしまう。デビュー時はディーノ308gt4、のちにフェラーリ・ディーノのダブルネームとして発売されていた。

松本 フェラーリと巨匠というと乗ってらっしゃった365GT2+2の印象が強いですが、今欲しいと思えるフェラーリってありますか?
徳大寺 最近では地を這うようなスポーツカーのイメージが強いけれど、僕はグランドツーリングが好みなんだ。だから2+2、モンディアルなんかいいな。
松本 モンディアルのボディは全幅1800㎜を超えていますけど、ミッドシップの恩恵でフロントの見切りが良くて扱いやすいですよね。
徳大寺 確かにモンディアルは乗りやすいんだよ。車重は1500㎏チョボチョボだろう。最終モデルは3.4Lで300馬力だからね。そりゃ速いよ。これ見よがしのないところもいいね。セミオートマのヴァレオマチックは問題があるらしいけど、後にフェラーリの2ペダル化に貢献したっていう功績もあるしな。
松本 ですね。今回は巨匠もお好きだろうなと見越して、モンディアルの先駆けとなった「フェラーリ ディーノ308gt4」にしました。
徳大寺 ほ~、いいね。フェラーリ308gt4は308GTBの陰に隠れたように思いがちだけど、V型8気筒を搭載した初めてのフェラーリだからね。デビューした時はフェラーリとは名乗らずに、ディーノ308gt4と名乗ったんだ。キャバリノランパンテのエンブレムを纏うには12気筒以外はあり得なかった。しかしディーノ308に搭載されたV型8気筒は1975年の308GTBの登場とともにフェラーリのエンブレムを付けることが許されたんだ。
松本 僕はスーパーカー少年だった当時、フェラーリ ディーノ308gt4とダブルネームで呼んでいましたが、後にも先にもダブルネームはこの“gt4”だけだったんですね。子供の時分は308GTBのほうがカッコイイと思いましたが、今ならシックでノーブルな308gt4を選びたいですね。デザインはベルトーネのチーフデザイナー、マルチェロ・ガンディーニ。ランチア・ストラトスのスタイリングで有名ですが、ディーノ308gt4を見るとマゼラティ カムシンにとても似ていて、同時期の作品だということがよく分かりますね。
徳大寺 フェラーリは1975年でも我々が記事を書く際に借りる広報車なんてものはなかった。だから当時フェラーリに乗ることができた人はごく希だったんだ。今じゃジャーナリストは軽く乗るけど本来はもっと神々しい存在だったんだよ。購入するかもしくは友人がオーナーで乗せてもらうか、そのくらいだったからな。
松本 巨匠は友人のほうですね。
徳大寺 恵まれてたんだ。類は何とやらで(笑)それで、モノはどこにあるの?
松本 巨匠も僕も好きな浅草ですよ。もっともクルマじゃなくて老舗の食べ物屋が沢山ある…。
徳大寺 いいねー。浅草界隈は旦那衆がいまだにいるからけっこう粋なお店があるんだよ。これから行くお店だって308gt4を多数扱ってるんだろ。趣味が良いじゃないか。
松本 そうですよね。これじゃないですか。ライトブルーの素晴らしい個体ですね。
徳大寺 良いコンディションだ。内装のブルーとマグノリアもリゾートに置いてあった感じでいいね。こんな程度の良い308gt4があるのは、高級車だという認識がヨーロッパじゃ高いから裕福な人がいまだ持ってるんだよ。狙い目だな。
松本 モールディングとかシートのデザインとかめちゃくちゃ出来がいいですね。ラグジュアリーなクルマにふさわしい調度品ですね。
徳大寺 308GTBに比べてメーターナセルも極めて実用的で、すべての情報が一目で分かるレイアウトなんだ。GTBは2シーターだから実用よりも見せるクルマだよな。2人乗り込んでちょっと鞄なんかを置くのにも考えちゃうからね。その点、gt4ならリアシートに置いたりさぁ。空調のレバー類もメーターナセルのところにあって目線を変えずに操作できるんだよな。
松本 気取らずに乗るには今だからこそカッコイイ感じがしますね。強烈なデザインのモデルが多い昨今ではこの手の奥深いスタイリングはなかなかありませんからね。
徳大寺 こういう一見地味な高級スポーツカーは飽きがこなくて大切に扱われているクルマが多いというのがよく分かる。オリジナルのきれいなモデルは次の世代に伝えようというオーラが漂うな。本物とはそういうものだよ。

▲308 シフト
▲308 リア
▲308 インパネ
▲308 エンジン
text/松本英雄
photo/岡村昌宏