▲2009年まで販売された旧型ルノー カングー。基本的には「道具グルマ」だが、走らせても意外と俊敏? ▲2009年まで販売された旧型ルノー カングー。基本的には「道具グルマ」だが、走らせても意外と俊敏?

「オールインワン」だが、決して「中途半端」ではない

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではなく、過日のシルバーウイークも沖縄へ行き、まずまず高級なホテルに滞在した。しかし「じゃらんnet」で見つけた掘り出しモノの超格安プランである。当然である。

そんなわけだからして輸入車も、そう何台も同時所有することはできない。ていうか1台しか持っていない。これが「現預金や株券等13億円の他、土地建物がおおむね2億円」ぐらいの資産を持っているわたしであれば、用途に応じた様々な輸入車を最低3台、できれば6台は同時所有するだろう。しかし現実はその100分の1の資産も持っているかどうか怪しいため、車はどうしても「オールインワンな感じなモノを1台」ということになるのだ。

▲こんな邸宅に住めるほどの資産があれば、オールインワンな車ではなく6台ぐらい所有しますが…… ▲こんな邸宅に住めるほどの資産があれば、オールインワンな車ではなく6台ぐらい所有しますが……

この場合のオールインワンとは要するに「走れて」「そこそこの人数が乗れて」「荷物もそこそこ載せられて」という車のことだ。これら3要素に加え、できれば「見て良し・見られて良し」のナイスなビジュアルも備えた輸入車であれば言うことはない。最高である。

しかし「すべての要求をそこそこ満たす」というのは「すべてにおいて中途半端」というのとほぼ同義である。車に興味のないフツーの人が、そういった中途半端な車を「これで全然いいじゃん。何が問題なわけ?」とばかりに乗り回すことに文句はないが、こちとらあいにく車好きである。できれば中途半端な車とは一生無縁でありたいものだ。

だが、「そこそこ走れて」「そこそこの人数が乗れて」「荷物もそこそこ載せられて」という我儘なニーズを満たしつつ、それでいてグッドルッキンで、なおかつ中途半端感もない車……というのは実際かなり少なく、探すのはなかなか難しい。しかし先日わたしはひとつの模範解答にたどり着き、たどり着いただけではなく、実際にそれを購入した。

旧型ルノー カングーである。

▲こちらが旧型ルノー カングー。バンパー付近のカラーリングは年式によって多少異なる ▲こちらが旧型ルノー カングー。バンパー付近のカラーリングは年式によって多少異なる

ご存じの紳士淑女も多いかと思うが、旧型というか初代ルノー カングーは、日本では2002年3月から2009年8月まで販売された小型のフルゴネット(乗用車の前半分と大きな荷箱とをつなぎ合わせた形状のバン)。2003年7月までの最初期型は1.4Lエンジンと、後のモデルとは若干異なるフロントフェイスを擁していたが、それ以降のモデルはすべて1.6Lで、トランスミッションはATと5MTから選択可能。まぁ中古車市場にあるのはATが大半だが、5MTがないわけではなく、実際わたしが買ったのも5MT仕様である。

そしてこの初代ルノー カングー、以前より薄々気づいていたことではあるが、実際所有してみると本当に素晴らしい「オールインワンCAR」であることがわかった。

▲筆者の場合は山奥や海まで釣りに行くだけでなく、都内近郊での取材の足として、あるいは写真上のようにセレブな街(※写真は南青山です)での買い物まで、なんでも旧型カングーでこなします ▲筆者の場合は山奥や海まで釣りに行くだけでなく、都内近郊での取材の足として、あるいは写真上のようにセレブな街(※写真は南青山です)での買い物まで、なんでも旧型カングーでこなします

まず「そこそこ走れて」の部分だが、当然ながら古典的な1.6L自然吸気エンジンと伝統的な足回りを組み合わせただけの車なので、「スポーツカー並みの走りを披露する」というようなことは一切ない。しかしその動きというか身のこなしは、後部に巨大なハコを背負っている車としては出色のデキだ。大した速度は出ず、そして形状上どうしても横風に弱いという欠点はあるが、タイトな山道などでもスイスイと曲がってくれ、続く直線では(遅いけど、それなりに)気持ち良く加速する。世の中に存在するすべての車の中で何位になるかは知らないが、少なくとも「道具グルマ」というジャンルの中では最上位付近に位置する走りっぷりだ。

「そこそこの人数が乗れて」「荷物もそこそこ載せられて」という部分については、求める基準が人それぞれなので一概には評価できない。少なくとも、2列シートであるゆえ大家族には向かないし、5ナンバーサイズゆえ「かなりの量の道具類をフル積載させたい」と考える超趣味人にも向かないだろう。しかし筆者のような「乗車するのはせいぜい最大で3人か4人で、載せる荷物も釣り道具や、週末に大型スーパーで買い込んだ日用品および食料品程度」という使い方であるならば、初代ルノー カングーはまさに最適なサイズ感だ。

また、人によってはどうでもいい部分かもしれないが、ラゲージのダブルバックドア(いわゆる観音開きのリアゲート)も、カングーをカングーたらしめているおしゃれポイントであり、筆者のお気に入りポイントでもある。

▲ダブルバックドアが売れているのは日本とシンガポールだけという話も聞いたことがあり、また雨の日などは通常のシングルハッチゲートの方が実は便利なのだが、やはりおしゃれなのはコレ! ▲ダブルバックドアが売れているのは日本とシンガポールだけという話も聞いたことがあり、また雨の日などは通常のシングルハッチゲートの方が実は便利なのだが、やはりおしゃれなのはコレ!

このように素晴らしいオールインワンCARである初代ルノー カングーだが、その中古車相場はもはや超お手頃だ。一時期は人気のため相場が高止まりし、とてもじゃないが「高コスパ車」とはいえなかったが、昨今では40万円から100万円あたりが車両価格のボリュームゾーン。輸入車としては「激安」と称しても間違いではないだろう。

ただ、オーナーになると思わずあちこち飛び回りたくなるステキな道具グルマだけに、車両価格が安めの初代カングーは走行距離が多めである場合も多い。過走行車=良くないと一概には言えないが、内外装の美観などを考えれば、できれば6万km以下ぐらいの個体を選びたいところだろう。しかし、ちょっと前までは「走行6万km以下の初代カングー=人気のため超高値」だったのだが、ここ最近はそういった条件の個体でも車両価格90万円前後で探すことができるようになってきている。

が、そういった(初代カングーとしては)低走行な物件が枯渇していくのも時間の問題と思われる。新車では二度と買えない絶版名車だけに、ご興味のある方には早めのサーチ&デストロイ……じゃなかった「サーチ&パーチェイス」をオススメしたい。

text/伊達軍曹