▲一部のイタリア車好きの間では「フェラーリいらず」とも呼ばれるアルファロメオ アルファGTV ▲一部のイタリア車好きの間では「フェラーリいらず」とも呼ばれるアルファロメオ アルファGTV

フェラーリに興味はない。しかし美しくて速い、そして官能的な車が欲しいなら……

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、ATM引き出し手数料が基本0円となるオトクな新生銀行を家計のメインバンクに選びながら、ニッポンの中流ど真ん中を生きている。

そんなわけだからして、多くの車好き男性が憧れる「フェラーリ」という車に対してはこれっぽっちの興味も憧れもない。「大乗フェラーリ教」の開祖を自称するモータージャーナリストの清水草一さんにそのことを話すと「……キミは本当に変わってるな」と半ば呆れられるが、仕方ない。車に限らず「天変地異でもない限り絶対に買えないモノ」に対しては興味が湧かない性分なのである。

しかしそんなわたくしでも「フェラーリ的なるもの」に興味がないわけではない。というか、むしろ大好きだ。「フェラーリ的なるもの」とは何かといえば、「美しいクーペフォルムと爆発的かつ官能的フィーリングのエンジンを併せ持った、まるで工芸品のような車」のことだ。フェラーリそのものには興味がない筆者でも、食パン2斤か冷蔵庫のようなボディに面白味もヘチマもないエンジンを積んだ車よりは、そういった車に乗り、人生の瞬間瞬間を謳歌したいとは熱烈に思っている。

そういった車に乗りたい場合、本来はフェラーリそのものを買うのが一番なのだろうだが、フツーに考えてそんな金があるはずもなく、また積極的に長期ローンを組むつもりもなく、ていうかフェラーリそのものはよく考えたら全然欲しくなく、買うならもっとこうコスパに優れる何がいい……となったとき、俄然光るのがアルファロメオ、中でも「GTV」である。

▲90年代後半から00年代途中まで販売されたアルファロメオ アルファGTV。写真は前期型 ▲90年代後半から00年代途中まで販売されたアルファロメオ アルファGTV。写真は前期型

アルファロメオ アルファGTVは、アルファロメオが日本では1996年1月から2006年4月まで販売した2ドアクーペ。ボディデザインは当時ピニンファリーナに在籍していた鬼才エンリコ・フミアが担当したもので、大胆なウェッジシェイプ(くさび形)と、低いフロントノーズから高いテールまでを結んだ派手なキャラクターライン、得も言われぬ丸目4灯ヘッドライトなどが特徴となるモデルだ。その造形は内外とも、端的に言って「エロい」。

▲普通のレザーと普通の樹脂、そしてアルミ調のパネルというごく普通の素材を使っているだけなのに、妙にエロティックなアルファGTVのインテリア。このあたりの造形センスはやはりイタリア物ならではか ▲普通のレザーと普通の樹脂、そしてアルミ調のパネルというごく普通の素材を使っているだけなのに、妙にエロティックなアルファGTVのインテリア。このあたりの造形センスはやはりイタリア物ならではか

エロいのは造形だけではなく、エンジンも然りだ。日本への導入当初は「2LのV6ターボ」というかなり変則的なエンジンを採用していたが、それは今やかなり希少で、現在メインで流通しているのは1997年6月からの自然吸気3L V6と、2003年7月からの自然吸気3.2L V6。それに加えて、少数ながら自然吸気2Lの直列4気筒エンジン搭載グレードが流通している。

で、このV6エンジンがとにかく爆発的かつ官能的フィーリングなのだ。つまりは「フェラーリ的」なのである。

回るというよりは「歌う」といったニュアンスでエンジン回転数は上がっていき、そして高回転域ではむせび泣く。まるで丁寧に作られた金管楽器のようだ。そして回転数に連動して高まっていくパワーとトルクの感触は、こういった場所でこういうことを言うのもアレかもしれないが、人類の生殖行為のようである。

つまりエロスであり快感であり、生の歓びである。「こ、こんなにも素晴らしいモノが世の中にあったのかー!」。生まれて初めてアルファGTVのフル加速を体験した者は、きっとそう叫ぶだろう。

▲写真は筆者が数年前乗っていたアルファGTV 3.0 V6 24Vのエンジン。性能だけでなく見た目も最高だった ▲写真は筆者が数年前乗っていたアルファGTV 3.0 V6 24Vのエンジン。性能だけでなく見た目も最高だった

まぁ正直フェラーリのエンジンはその10倍以上「生の歓び」にあふれているし、タイトな峠道などでの回頭性能などもフェラーリの方が10倍ぐらいは優れている。しかしあちらは中古車でも1000万円超の世界であり、こちらは中古で100万円の世界だ。

そういった意味では「フェラーリとアルファGTVはおおむね引き分け」とも言えるのだ。10分の1ではあるがフェラーリと同じ何かを、10分の1(かそれ以下)の予算で手に入れられるのだから。コスパ的には大健闘というか、むしろ大勝利である。

とはいえ今や古くさい設計と評するしかないV6エンジンがもたらす燃費はイマイチであり(経験者=筆者談)、オイル交換は3000kmに一度のペースでやった方がいいなど、維持費もそれなりにかかることは間違いない(経験者談)。そういった意味では「アルファGTV=高コスパ車」とはとてもじゃないが言えない。

しかし問題は「何と比較し、何を求めるか」だ。

フェラーリそのものと比較し、そしてあなたが車というものに、移動手段であることを超えた何らかの「歓び」を求めるのであれば、アルファロメオ アルファGTVは間違いなくウルトラスーパー高コスパ車なのだ。

▲2003年7月からの後期型はこのようなフロントフェイスに変更された。同時にV6エンジンも3Lから3.2Lに ▲2003年7月からの後期型はこのようなフロントフェイスに変更された。同時にV6エンジンも3Lから3.2Lに
text/伊達軍曹