▲過日、パレスホテル東京で開催されたポルシェ マカン発表会にて。ドイツのポルシェ本社からも数人のボードメンバー(取締役)が来日し、日本におけるマカン販促にはかなり気合が入っている様子がうかがえた ▲過日、パレスホテル東京で開催されたポルシェ マカン発表会にて。ドイツのポルシェ本社からも数人のボードメンバー(取締役)が来日し、日本におけるマカン販促にはかなり気合が入っている様子がうかがえた

マカンの価格を「安い!」というのはしょせん他人事だから?

過日、めずらしく新車の発表会というのにお邪魔してきた。ポルシェの新しいコンパクトSUV「マカン」である。あらためて説明するまでもないとは思うが、マカンとは全長4680mm(ターボは4700mm)の、プレミアム輸入SUVとしては比較的小ぶりな車で、搭載エンジンは2Lの直4直噴ターボとV6ツインターボが2種類の計3種類。プレゼンを行ったポルシェ ジャパンおよびポルシェ本社の人々が何度も何度も「スポーツカー」という単語を口にしていただけあって、おそらくは単なる小型SUVという枠には収まらない「SUVの形をしたスポーツカー」に仕上がっているのだろう。素晴らしいことである。

それと同様に素晴らしいのが「価格」だ。ベースグレードの「マカン」が616万円。……中古はさておき新車の場合は1000万円超となるのが普通なポルシェにあって、「600万円ちょいで買える新車のポルシェ」というのはかなり激安である。また、さらに激安なのが、1つ上のグレードにあたるV6ツインターボ搭載の「マカンS」だ。こちらの価格が719万円ということで、「たったの約100万円上乗せすれば“ツインターボのポルシェの新車”が買えちゃうのか……」と真剣に悩む人は多いだろう。いずれにせよ、どちらもポルシェの新車としてはウルトラ激安であり、それゆえウルトラ・アトラクティブな(魅力的な)ニューモデルである。

▲最高出力340psのツインターボを積むマカンSが719万円というのは、なかなか驚きのプライスだ ▲最高出力340psのツインターボを積むマカンSが719万円というのは、なかなか驚きのプライスだ

……しかし、筆者は思う。616万円と719万円の車をつかまえて「激安だね~」と言えてしまうのは、それが良く言えば「記者としての客観的な視点」だからであり、あえて悪く言えば「しょせんは他人事」だからだ。もしも自分が自分のカネで車を買うのだとすれば、600万円超級というのは果てしなく高額であり、果てしなく高額ゆえに、その使い道には超絶真剣にならざるを得ない。もうね、三日三晩悩みぬく自信がありますよ。

ということで、三日三晩ではないがいちおう真剣に悩んでみた。「わたしは616万円(プラス諸費用およびオプション代)を出して新車のマカンを買うだろうか?」と。

答えは「否」であった。まだ乗ってないけどたぶん、マカンはかなりステキなSUVなのだろう。それゆえ、お金持ちの方がセカンドカー的に気軽に買ったり、あるいはちょっとした会社員の方がポルシェ パワーローン(ポルシェ ジャパンの残価設定ローン)を使って3年間ぐらい気軽に乗ってみることを、筆者は決して否定しない。否定しないどころかむしろ、かなりうらやましく思う。

しかし、わたしはマカンを買わないのだ。なぜならば、筆者にとって600万円超とは「気軽に支払えるお金」ではなく、もしも支払うとしたら「一世一代の覚悟で臨むべきもの」であるからだ。そして一世一代の覚悟でポルシェを買うのであれば、マカンには大変申し訳ないが、SUVではなく、本丸中の本丸である「911」に突撃したいのだ。それこそ決死の覚悟でもって。

このあたりは各人のおサイフ事情や車というものに対する考え方によって大きく変わる部分なので、全員がこの考えに賛同していただけるとは思っていない。しかしある意味古典的スタンスの自動車愛好家で、なおかつごくフツーのおサイフ事情でもって生活している人であれば、ある程度ご理解いただけるものと確信している。

で、もしもあなたがわたくしと同じ「古典的スタンスの自動車愛好家で、なおかつごくフツーのおサイフ事情でもって生活している人」であるならば、例えば600万円ほどの予算で選ぶべきポルシェとは何だろうか?

新車のボクスター/ケイマンから中古の997型911まで様々な候補があり、どれもがステキなわけだが、わたくしから申し上げたいのは「やっぱ、どう考えても5MTの964型911じゃないですか?」ということだ。

▲1989年から1993年まで販売された3世代目のポルシェ911であるタイプ964 ▲1989年から1993年まで販売された3世代目のポルシェ911であるタイプ964

新車のボクスター/ケイマンや中古の997型911は確かにステキだが、何というかこう「まぁまた別の機会でも、買おうと思えばいつでも買えるし」という感が拭えない。要するに「一世一代感」にやや欠けるのだ。金持ちが道楽で支払う600万円ではなく、庶民が支払う600万円なのだ。そこにはやはり一世一代感というか、何らかの激しいドラマがあってほしい。それが、男の買い物だ(や、別に女の買い物でもいいのですが)。

しかし964型911であれば「今や新車では絶対に買えない伝説の空冷フラットシックス」であり、「(厳密に言えば違うんだけど)初代911と同じ顔立ちを残した最後のモデル」であり、そして「良質な個体は日に日に減少している絶滅危惧種」である。間違いなく男が、というか庶民が一世一代の覚悟をもって臨むに値する存在だと思うのだが、どうだろうか。

▲ちなみにコレはカレラRS3.8という少量生産モデルで、600万円級どころか2000万円級だ…… ▲ちなみにコレはカレラRS3.8という少量生産モデルで、600万円級どころか2000万円級だ……

懸念されるのは、昨今の異様なまでの中古車相場高騰か。実際、3年ほど前までは350万円も出せば結構な1台が買えた5MTの964も、ちょっと前には「500万円は当たり前」という状況になり、直近では「600万円見とけば何とか……」という相場に変わっている。さすがに高騰しすぎであり、これが例えば今から半年後に200万円級の暴落を見せるのであれば、今600万円を出して964を買うのは業腹というか、かなりの悲劇である。

しかし……こういった中古車相場の先行き予想というのは明日の日経平均株価を予測するのと同じぐらい難しいというか不可能なので、なんとも言えないが、基本的には今後も上がることこそあれ、大きく下がることはないと予想する筆者である。そりゃもちろんボロボロになった個体であれば今後いくらでも安く出てくるだろうが、「良質なMTの964」というのは冗談抜きで絶滅危惧種であり、絶滅危惧種であるのに、欲しい人間は世界中にいくらでもいるということで、基本的には下がる要因がないのだ。それゆえいざというときのリセール価格も、大切に乗っている限りはV8フェラーリ並みの好条件になるはずで、そういった意味でも比較的安心して購入に臨めるのではないかと思う次第である。

無論めちゃめちゃ高い車であり、年式が年式なだけに、良質な個体であっても修理代はそれなりにかかるだろう。それでも、今回のわたくしからのオススメは5MTの964型ポルシェ911だ。

text/伊達軍曹