▲過日登場したMINI クーパーSDクロスオーバー。最新技術を用いたパワフルかつクリーンなディーゼルエンジンを搭載。JC08モード燃費は16.6km/L ▲過日登場したMINI クーパーSDクロスオーバー。最新技術を用いたパワフルかつクリーンなディーゼルエンジンを搭載。JC08モード燃費は16.6km/L

この極太鬼トルクは本当に素晴らしい、が…

過日、訳あってミニの最新モデル、2Lのクリーンディーゼルを搭載するMINI クーパーSDクロスオーバーのステアリングを握り、東京から北関東の某県まで出向いた。噂に違わず素晴らしい車であった。いろいろと素晴らしい点は多かったが、何といっても主たる素晴らしさはディーゼルエンジンゆえの極太鬼トルクにある。

1750rpmというアイドリングに毛が生えた程度の回転数で305N・m、2世代前のBMW 330i以上の最大トルクを発生してしまうのだから、その運転は「楽勝」の一語に尽きる。例えばの話、平坦な道をジェントルに巡航しているうちに、ちょっとした上り坂に出くわしたとする。普通の車ではこういった場合、ペースを保つためにはアクセルを1cmか1.5cmほど踏み込むことになると思うが、MINI クーパーSDクロスオーバーの場合は「1mm」だ。いや正確に1mmかどうかは知らないが、感覚的にはそんなもんである。そんなもんで、1.4tを超えるこの車はひたすらグイグイと坂を登り始める。その際の回転数は目見当でせいぜい1900rpmぐらい。なんたる鬼トルク。

飛ばす際も同様だ。高速道路で前方後方上下左右および遠方の状況が完全クリアな場合、車好きの運転者であれば「…ちょいとスピード上げて走ろう」となる瞬間だってあるだろう。そんな際、これまた普通の車ではペースを上げるためにはアクセルを3cmほど踏み込むことになると思うが、MINIクーパーSDクロスオーバーの場合は「1cm」だ。いや正確に1cmかどうかは知らないが、…以下同文である。ステアリングの両サイドには一応パドルシフトが付いているが、筆者はそれにほとんど触ることすらしなかった。だって、アクセル開度を1mmとか1cm変えるだけで自在に走れてしまうのだから。

▲超極太トルクゆえ、アクセルの微妙な加減だけで自在に加速する(※写真は本国仕様のMTモデル) ▲超極太トルクゆえ、アクセルの微妙な加減だけで自在に加速する(※写真は本国仕様のMTモデル)

そのように大変素晴らしいMINIクーパーSDクロスオーバーというか、最新のクリーンディーゼル搭載輸入車なわけだが、問題がないわけではない。いや、これを「問題」と呼ぶのもちょっと違うが、とにかくアレだ、「内燃機関を上の方までブン回すプレジャー」には著しく欠けるのである。

MINI クーパーSDクロスオーバーの場合、最大トルクが発生するのは前述の1750rpmから、上は2700rpmまで。それゆえ3000rpmあたりになっても特にドラマは何も生まれず、4000rpmともなるとエンジンは、それ以上もちろん回るが、明らかに回りたがらないそぶりを見せる。結果、このエンジンでいちばん気持ちいいのは「2000rpmぐらいを中心におうように走ること」ということになる。ディーゼルゆえ当然ではあるが。

▲速いが、高回転まで回しても意味なし。低~中回転が気持ちいいエンジンだ(※写真は本国仕様のクーパーS) ▲速いが、高回転まで回しても意味なし。低~中回転が気持ちいいエンジンだ(※写真は本国仕様のクーパーS)

まぁそれでも鬼のように速く、それはそれでドライビングプレジャーのひとつの形ではある。さらに言えば、時代の正義は当たり前だが「2000rpmぐらいを中心におうように走る」にある。「ガソリン撒き散らして高回転!」というのは今やまったく流行らない。

そういったすべては承知だが、それでも「ガソリンまき散らして高回転!」というプレジャーを完全には捨てられない自分がいることも確かだ。それは社会的にはほどんど生産性がない行為であり、生産性がないどころかむしろ「社会の敵」とすら言える行為なわけだが、どうしてもやめられないのだ。理屈では「人間、玄米・菜食と早朝のジョギングを毎日行うのがいちばんだ」とわかっていても、ときには脂たっぷりの牛肉をアルコールで流し込み、昼まで惰眠をむさぼりたくなるのが人間だ。いや「人間」ではなく筆者だけかもしれない可能性はあるが、実際はそんなこともないだろう。多くの者は「牛肉と酒と惰眠」を求めるのだ。たまにだとしても、生身の人間にはそれが必要なのだ。

車において比喩としての「脂たっぷりの牛肉」を求めるなら、選ぶべきはやはり中古車だろう。特にBMWまたはアルファロメオの、ちょっと前のモデルがいい。できることならBMWなら直列6気筒、アルファならV6がいいが、別に直列4気筒でも全然構わない。高回転域までガツンと回して初めて真価を発揮するそれら高回転型エンジンの快音と快感に身を委ねてみたとき、品行方正な近年の車に乗っているうちに忘れていた「背徳」というか「脂身のうまさ」のようなものを、あなたはきっと思い出すはずだ。

▲筆者が過去乗っていたアルファGTVのV6 3Lエンジン。燃費は正直かなりイマイチだが、高回転域まで回した際のパンチ力と甘美な排気音は、何物にも代えがたい魅力があった ▲筆者が過去乗っていたアルファGTVのV6 3Lエンジン。燃費は正直かなりイマイチだが、高回転域まで回した際のパンチ力と甘美な排気音は、何物にも代えがたい魅力があった
▲こちらは2世代前のBMW M3に搭載されてた直列6気筒DOHCエンジン ▲こちらは2世代前のBMW M3に搭載されてた直列6気筒DOHCエンジン

もちろん「毎日の通勤に車を使います」というような人は最新世代のエコ・コンシャスエンジン搭載車に乗ったほうが断然良いと思うが、筆者のような「基本、バスか電車。たまに車」という人であれば、こういった脂身CARであっても環境やおサイフにそう大きな打撃は与えまい。ということで今回のわたくしからのオススメは「高回転域までブン回すのが背徳的に楽しいBMWまたはアルファロメオ」だ。

text/伊達軍曹