【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】新しい生活様式と自動車について(中編)


大変長らくお待たせいたしました。時事放談企画の第1弾「新しい生活様式と自動車」の中編をお届けします。

“第1弾の中編”、ということですから、当然次回は後編になるわけでして、つまりは1回の対談で3本の記事を作ってしまおうという算段です。エコですね。サスティナブルですね。新時代の企画はこうでなければいけません。

今回は新時代に相応しく、関西の大学生諸君をお招きして、ナウなヤングのみなさまのご意見も拝聴しようと存じます。時節柄、当然リモートで行います。予算の都合もありますしね。

現役大学生たちのコロナ事情
そしてその時、自動車は?

西村
西村

もしもし、聞こえていますか?

学生Aくん
学生Aくん

はーい!

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

おお、数名いらっしゃるんですね。

西村
西村

志願者数全国1位の超人気私大・近畿大学の現役大学生たちです。去年から「学生編集部員」としてカーセンサーで記事を書いてくれています。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

近畿大学って、あのマグロで有名なところですよね。最近はウナギ味のナマズの研究もされているとか。どうも、こんにちは。若者の車離れが叫ばれて久しいですが、皆さん普段は車に乗っているのですか。

電話会議 このような形で関西在住の現役大学生もトークに参加
学生Aくん
学生Aくん

こんにちは! はい、僕は乗っています! 実家の車ですけど……。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

なるほど、自分の車ではないということですね。女性の意見を伺いたいのですが、付き合っている男性が車を持っていた方がいいですか? どちらでもいいですか? 別に無くても良いですか?

学生Bさん
学生Bさん

私は持っていてほしいです。

西村
西村

じゃあ、持っていないけど、毎回、カーシェアやレンタカーで借りて、必ず車で来るのはどうですか? 印象は変わらないですか?

学生Bさん
学生Bさん

う~ん、「持っていてほしい」です。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

例えば、彼の乗ってきた車がホンダのフィットであるとします。デートの内容は同じ。食事もするし、家まで送ってくれて、おやすみと言って頬にキスもして……やること、できることは何も変わらない。それでもそのフィットは「カーシェア」より「持っている」方がいいですか?

学生Bさん
学生Bさん

はい、「持っている」方がいいです。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

それは端的にいうと、きちんと車を持っている、経済的に余裕がある彼の方がいいということですか。

学生Bさん
学生Bさん

そういうわけではありません。う~ん、たぶん、生活感が出ているのが良いんだと思います。あと、いつも同じ車に乗っている安心感が良いのかもしれません。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

なるほど。もう一人の方はどうですか。

学生Cさん
学生Cさん

私も自分の車を持っていてほしいです。レンタカーで来てくれても、その時はいいですが、私を送ってから返却する時間があると、何だかさみしいというか、切ないというか、悪いなぁという気持ちになるからです。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

おーなるほど、女子らしい優しさです。もう御一方も持っていてほしい、と。次に男性諸君に聞きたいのですが、車を持っている人は軽く手を挙げてください(Zoomなので、遠隔でもお互いの顔を見ながらの座談会です)。……3人中、1人だけですか。

学生Aくん
学生Aくん

実家の車なんですけどね……。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

家族と共用ということですね。Aくんは、車でデートをするのと、そうではないのとで違いは感じますか? 車で行こうと言うと、来てくれやすいとか。車のありなしで、誘いやすさやリピート率など、来てくれる割合において、デートが優位に運べるかどうか差がありますか?

学生Aくん
学生Aくん

それはあると思います。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

つまり、車はあった方がいい?

学生Aくん
学生Aくん

あった方が誘いやすいです。遠くへ行くとなると特にですね。移動に対するハードルが下がりますから。

西村
西村

Aくんは下がると言っていますが、ある意味その提案を通すまでにかなりのハードルを越えていますよね。車だと丸1日、一緒にいなければいけない。2時間なら2時間、「2人だけ」で乗っていなければいけないんですから。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

まぁでも寝る人もいますし、隣に乗ってずっとスマートフォンをいじっている女もいますよ。

西村
西村

分かります。今は時代が違いますけど、僕が大学生の頃の20年ぐらい前は、隣で断りもなく携帯電話をいじりたおす女性とは、付き合うのをやめようと思っていました。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

当然です。

西村
西村

今の時代にそんなことを言っていたら、話にならないんでしょうけど……。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

ちなみに僕たちの世代だと、車のオーディオはカセットテープでした。デート中、同じカセットテープを延々と流しているのはあり得ないことでしたから、音楽の編集能力も大事でした。

きちんとデートに合ったテープを用意しているステキな人というのが、女性からのひとつの評価基準でした。

西村
西村

それは編集力が必要ですね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

ディスコ……今はクラブといいますが、そこの人と仲良くなると、金曜日の夜に流した曲を丸々もらえることもありました。そのテープを持っていくと、『ヤマグチさんはすごい人!』と言われ、自慢ができました。

乗っている車の車種だけではなく、運転技術も問われ、音楽の選択能力も問われるという、すべてが真剣勝負でしたね。

西村
西村

どれかひとつ、ではなく、トータルの能力が大事なのですね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

そうですね。当時は、『無理してローンを組んでも車を買おう』というのが学生でもあったのですが、今の学生、特に男性はそこまでして車は欲しくないのでしょうか。Aくんのように、家の車を使えばいいや、という感じですか。

学生Dくん
学生Dくん

僕は一昨日ぐらいに、タイムズのカーシェアに登録をして、それでいいって思っちゃいましたね。学生は月額の料金が無料で会員になれます。

西村
西村

えぇ! 完全にタダ?

学生Dくん
学生Dくん

完全に無料です。使うときだけ、15分で220円払います。

日産 スカイライン400R BtoCのカーシェアサービス「タイムズカーシェア」。全国のタイムズパーキングを中心にカーシェア車両を設置している。学生Dくんが入会したのは「学生プラン」で、日本国内の学校に在籍していることが入会条件となるらしい
フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

タイムズは、先ほど話したUber Eatsのように、まずは使うことに慣れさせて離れられなくしておいて、ずっと使い続けてもらうということを狙っているんでしょうね。Uber Eatsだって、あれだけ金を取っていても、現状では赤のはずです。

西村
西村

Uber Eatsといえば、学生の中にUber Eatsの配達員をしている人はいますか?

学生Dくん
学生Dくん

Uber Eatsじゃないですが、出前館で働いています。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

給料はいいんですか?

学生Dくん
学生Dくん

時給1000円です。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

時給なんですね。では、労働者としてはだらだら働いた方が得になりますよね。

学生Dくん
学生Dくん

そうです。注文がなく1時間たつこともあります。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

多く配った日でも、プラスはないのですか。

学生Dくん
学生Dくん

そうです。

西村
西村

それは忙しくないときにアルバイトした方がいいですね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

Uber Eatsは出来高制ですよね。

西村
西村

このイールドマネジメントが欧州と日本の違いですね。聞いている限り、理にかなっていないですよね。ちなみに、学生のアルバイト相場はいくらぐらいなんでしょう?

学生Aくん
学生Aくん

関西だと、時給980円から1000円ですね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

なんと! 大昔からアルバイト代は上がっていないんだ!

西村
西村

1000円って、スマートフォン代で一瞬でなくなりますよね……。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

僕が学生の頃も、時給1000円のアルバイトを懸命に探しました。30年前ですよ。僕は、皆さんのご両親と同じくらいの年齢です。

30年もずっとアルバイト代が上がっていないって大変なことですよ。日本がデフレという厳然たる事実を見せつけられたような気がしますね。こういうところに社会のひずみのしわ寄せがいっていたのですね。

時給1500円のアルバイトはないんですか?

学生Aくん
学生Aくん

1500円だと変な仕事じゃないかなって疑うかもしれません。夜の居酒屋で1200円とか1300円ぐらいです。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

キャバクラで働くと、きっともう少し高いですよね。ちなみに、人の扱い方を学べるので、水商売は短期間であればとてもためになる、いい仕事だと思います。

西村
西村

しかし、Uber Eatsも水商売も、効率よく高いキャッシュが稼げるかもしれないですが、時間は搾取されていると僕は思ってしまいます。働く人個人のスキルアップにつながらないのではないかと。

フェルさんの言うように、水商売の場合は、コミュニケーションスキルを学べるかもしれませんが、Uber Eatsの場合は待っていれば仕事が来て、ユーザーを接客する必要もありませんからね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

まぁでも、自分がアルバイトをしていたときを考えると、社会人になったときに役に立つと思ってした仕事はひとつもありませんよ(笑)。単純に稼げる仕事を選んでいました。就職面接の時に、『バイトで社会人としての素養を積みました』『勉強しました』とこじつけて言うだけです。

西村
西村

た、たしかに。そうですね……。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

僕は、酸素残量調査のアルバイトをしていたんですよ。地下を掘る工事をする際、半径2kmぐらいのすべての建物の地下室を調べなければいけないのですが、『お宅に地下室はありませんか』『井戸はありませんか』と一軒一軒聞いて回る仕事です。

西村
西村

めちゃくちゃ大変ですね……。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

その仕事は、『このエリアを調べたら10万円』と請け負うのです。それは1週間かかってもいいし、2日でもいい。2日でできたら1日5万円になるわけです。

で、だんだん要領を得てくると、「ヤマグチくん、このエリアとこのエリア、両方を40万円でやって」と言われる。田舎から出てきている学生を集めて調べて、最後は自分では何もしなくても成り立つようになりました。とても儲かりました(笑)。

西村
西村

悪い人ですね(笑)。まぁ、つまり仕組みを作った人が稼げるのは仕方ないということですね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

そのとおりです。と、車に話を戻しましょう。皆さんは、社会人になってお給料をもらったら、そのお金で車を買おうと思いますか?

学生Aくん
学生Aくん

思っています!

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

お! 即答、良いですね。どんな車が欲しいですか。たとえば、先ほど話題に出た「スポーツカー」を欲しいと思いますか?

学生Aくん
学生Aくん

今のところ、スポーツカーが欲しいとは思っていないです。僕は、すごくシンプルにアクセルを踏んだら進み、ブレーキを踏んだら止まる車で、色が派手でおかしな見た目でなければ何でも。あまりこだわらないです。車としての機能が備わっていることが重要です。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

なるほど。それは軽自動車でもいいですか。

学生Aくん
学生Aくん

お金を考えると軽自動車の方がいいです。ただ正直な気持ちを言うなら、普通のサイズの乗用車の方がいいと思います。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

それはなぜですか? かっこ悪いというか、恥ずかしいというか、安っぽいという感じですか?

学生Aくん
学生Aくん

軽自動車に乗っている自分に違和感があります。本当はLサイズの服を着ないといけないのに、Sサイズを無理やり着ているような感覚です。自分が軽自動車にフィットしていないという感じがあります。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

なるほど。画面上では分からないのですが、Aくんは体が大きいのかな?

西村
西村

自分の器に見合う車ではないという話ではなく、リアルなサイズ感の話をしているんですね(笑)。

学生Aくん
学生Aくん

そうです、そうです。器でいうなら僕はチョロQで十分です(笑)。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

他の人はどうですか。社会人になったら車を買おうと思いますか?

学生Bさん
学生Bさん

私は、今のところは思っていないです。田舎の実家にいるなら移動手段がないので車が欲しいですが、1人暮らしを前提にすると、都会は電車の方が楽なので要らないです。

西村
西村

1人暮らしといえば、今、新型コロナウイルスの影響でリモート授業の大学生は実家に戻る人も多いと聞きます。Bさんはこのコロナ禍でも、ある程度、交通の便のいい都会や街中に住みたいですか?

学生Bさん
学生Bさん

う~ん……住みたいです。街のど真ん中は嫌ですが、電車でいろいろな所に行ける都会にいたいです。

西村
西村

駅から少し離れた所で、車でどこへでも行けた方が楽じゃないですか?

学生Bさん
学生Bさん

いやぁ~……私は大都会で運転する方が怖いです。

西村
西村

なるほど。運転自体にハードルがあるなら、スポーツカーが欲しいなんてとうてい思わないかなぁ。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

首都圏だけでなく、関西でも都市部に住んでいる人は運転が身近なものではなくなっているのですね。

西村
西村

とはいえ、恐らく日本の7、8割の人はいまだに、生活する=車が必要な人だと思いますよ。関西圏でもちょっと郊外にでると状況が全然違う気がします。

今、首都圏だと、仕事でもプライベートでもリモート対応が当たり前になってきて、人の移動は以前より少なくなったように感じます。一方で、現地に移動をして仕事をしなければいけない人はたくさんいます。生活必需品な人たちですね。靴を履いて出かける、服を着て外へ出るのと同じ感覚で、外へ行く=車に乗るという感覚でしょうか。日本全体で見ると、そちらがいまだにマジョリティーです。

そして、このコロナ禍でも、その構図が大きく崩れることはありませんでしたが、ナカミに変化があったのでは、と僕は思っています。

たとえば、大きいミニバンに乗ってみんなで移動するのではなく、一人一人が別々に動かなければいけないので、週末用の1台ではなく平日用の小さい車2台に乗り替える、とか。プラスサイド、マイナスサイドでいろいろな変化が起きていると思います。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

そうなってくると、今まで以上にコストパフォーマンス重視になりそうですね。豪華装備や無駄なスペックは要らなくて、安ければ安いほどありがたい、うれしいと。

西村
西村

そうなんです。だから、スポーツカーもどんどん性能が上がっているけれど、それを欲しいと思う人も限られていきます。その性能は公道では発揮できませんしね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

そりゃそうだ。500馬力を誰がどこで使うんだ、と。

西村
西村

馬力や速さもそうですし、燃費もそうですが、その商品価値に対して自分が金を払って、リターンを得ているという感覚が薄れていっていますよね。現に、馬力や速さは80年代、90年代にもてはやされ、2000年代は燃費が注目を集めました。で、次は安全装備がその道をたどろうとしていると、僕は勝手に予想しています。

今は、買い替える前の人は全く付いていない、もしくはすごくプアな物が付いている車に乗っている段階なので、安全装備のバージョンが1であろうが、2であろうが、3であろうが、付いている物が欲しいというニーズがあるんです。

しかし、1が付いている車に乗り替えてしまった人は、次に2が欲しい、3が欲しいか、というと、そうではなくなってきます。

ここ5年ぐらいで皆さんが乗り替えるときは、ちょうど安全装備が付いていない車が付いている車に乗り替えるタイミングなので、これがどんどん売れますが、一定程度、みんなが付いている車に乗り替えたとき、『バージョンが上がります』『20万円高くなります』と言われ、どう反応するか、ですね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

値段が同じならもちろん買うでしょうが、上がるとなると分かりませんね。メーカーとしては、コストをかけているので上がるのが当たり前ですけど。

西村
西村

もしかすると、1の人でも「自分は結局その機能を5年間使わなかった」と考えるかもしれません。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

確かに。一度もアラームが鳴らなかった、ということもあるでしょう。

西村
西村

例えば、1回も会えない彼女と3年間付き合って、よりかわいい彼女になるけど、また1回も会えないと考えると、難しくないですか? でも、高いプレゼントだけ贈らなければいけないという感覚です。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

なるほど。まあ、センサーで超音波を出していますから30万円高くなります、なんて言われても、本当に付いているのかと思わなくもないですもんね。

今の500馬力は本当に500馬力出ますが、昔のランボルギーニは時速302kmなんて絶対に出ませんでしたからね。そもそも300kmに耐えられるようなタイヤが付いていませんでしたので、言った者勝ちという感じがありました。

西村
西村

まさに、そうですね。

ライトとかは付いているか付いていないかがすごく分かりやすい価値なので、それがLEDになるというのは金を払いやすいのですが、安全装備は見えませんから。

AIもそうですが、見えないものに対しての価値が広がっていくときに、その機能的な価値、論理的な価値にどこまで人が金を払えるかということは、全産業に対しての分岐点だと思っています。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

先ほどの最大馬力の話になりますが、今はオーバー500馬力というのがスーパーカーの世界ではひとつのキーワードになっていて、ターボ搭載で四輪駆動の車という方向に全社がなっています。

西村さんは馬力の競争は終わったとおっしゃいましたが、スーパーカーのカテゴリーは馬力競争の真っ最中です。我々は520馬力だ、いやウチは560馬力だ、と。でも、そこまでいくと分からないんですよね。今は競うようにしているスーパーカーも、いつか飽きられるときがくるのでしょうか。

西村
西村

スーパーカーは、確かにそうですね。でもそういったモデルを買う層は富裕層で、最近だと半分は税金対策や投資目的も兼ねています。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

日本は特にそうですね。税理士が言ってきますもの。「社長。税金払うか、車を買うか、どっちにしますか?」と(笑)。

西村
西村

それは車好きがスペックを求めて買っているのではなく、車が好きでも嫌いでも関係なく、好まれている部分ということです。これは560馬力出る車ですといって、出せない人、出さない人が買うという構図とはちょっと違うかもしれません。

そして、そのニーズは今後もそんなに目減りしないかもしれないです。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

変な時計を買うのと同じでしょうか。

西村
西村

まさに。エルメスもそうですが、100万円以上するからそれを持つ価値があるのと同じで、あれが20万円で買えたら買わないでしょうね。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

全く同じクオリティで普通のOLがエルメスを持っているのなら、奥さまは買わないですもんね。

西村
西村

はい。買えないというところがひとつのステータスなので、そのようなトップエンドのところは、「いつか飽きられる」というストーリーとは逆行して、絶対に残ると思います。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

そうか。確かに普通の車の馬力競争は全くないですよね。

西村
西村

ないです。スカイラインが400馬力を復活させていましたけど。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

すごくいい車ですが、販売の方は芳しくないようですね。そもそもセダンがオワコンと化しているし。乗るとすごく楽しいんですけどね。僕も乗りましたが、本当に素晴らしかった。

西村
西村

そう。すごく楽しいんですが、そこが難しいところです。乗らないか、乗りたい人でもそこに金を出さないのですから。

日産 スカイライン400R 2019年7月にマイナーチェンジした日産 スカイラインには、歴代史上もっとも高い最高出力(405馬力)を誇る「400R」というグレードが存在する
フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

そうですね。乗りたい人はポルシェなどを買うでしょうし。見て分かるといいますか、分かりやすいキーワードが欲しいのですね。

で、もともとのお題目である「ウィズコロナ、アフターコロナで生活様式が変わってきたか」というところに立ち返りますと……車に対するユーザーの要求、それが馬力ですとか安全性ですとかいろいろあると思いますが、基本的には自動車業界の大きな流れと同じ。コロナの影響はゼロ、と思っていいですね。

西村
西村

そうですね。コロナ独自の影響は基本的にないと思います。唯一、影響すると思うのは、今まで電車に乗っていたペーパードライバーや、これを機に免許を取ろうとしているビギナーなユーザーが、なるべく安全な手段としてパーソナルモビリティーに乗ろうとすることです。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

安全ではないから車を避けていた人にとって、安全でなかったものが違う意味で安全になってしまいましたからね。

西村
西村

怖いから運転したくなかったのが、電車に乗るよりは空間として安全になりました。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

間違いないです。

西村
西村

このペーパードライバー層の人たちにとっては安全装備に一定の需要があります。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

ぶつけるのは車に慣れていない人か、極端に飛ばす人かどちらかですよね。

西村
西村

今ここに参加してくれている近代の大学生と最初に話したとき、すごく驚いたのは、車を選ぶときの最重要要件が運転がしやすいか、しにくいか、だと話していたことです。

フェルディナント・ヤマグチ
フェルディナント・ヤマグチ

なるほど。彼らの自動車事情の話からだいぶそれてしまいましたが(笑)、今一度、戻してみましょうか。皆さん、こっちで勝手に盛り上がってしまいましたが、また話を聞かせてください。

(次回へ続く!)

文/フェルディナント・ヤマグチ、写真/篠原晃一、タイムズ24、いらすとや

フェルディナント・ヤマグチ

コラムニスト

フェルディナント・ヤマグチ

カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。